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おっさん、哲学する

 過去話(おっさん15歳)になるので、時系列にご注意下さい。


「ガリウス……

 お前は『生きる』という事はどういう事だと思う?」

「はあ?

 ……何ですか、いきなり」


 疲労困憊で大地に伏せ、荒い息で青空を見上げている俺。

 そんな俺の顔をしげしげと覗き込みながら師匠が尋ねてくる。

 こっちは呼吸するだけで胸が苦しく全身筋肉痛だというのに――

 師匠ときたら汗の一つも掻かぬ、いつも通りの美麗で涼しい顔だ。

 森妖精の血が半分混じってるとは聞いていたが……

 名工が心血を注いで彫り上げたような造形は美しい、の一言に尽きる。

 こんな綺麗な人が戦場では畏怖を以て語られる勇士とは誰も信じられまい。

 さらに彼女の魅力を飾り立てるのは、磨き上げたミスリルみたいな銀色の髪だ。

 屈み込んだ事で滑り落ちたそれが先程から優しく鼻をくすぐり、思わずくしゃみが出そうになるのを必死に堪える。

 15になった成人祝いに良い所へ連れて行ってやる、なんていうからドキドキ期待して連いて行った俺が馬鹿だった。

 行った先は殺人妖精として名高いレッドキャップの巣。

 人間の血で赤く染めたという帽子を被った、恐ろしい死神共である。

 理解できず呆然とする俺に師匠は一言「さあ、全滅させろ」とのたまわった。

 抗議するよりも早く、新しい獲物を見つけた死神達が嬉々として襲い来る始末。

 手助けとか支援とか全くなしの殲滅戦を生き残れたのは、我ながら幸運に恵まれたからとしか言いようがない。

 周囲に散らばる殺人妖精共の躯を見ながら「ふむ、ギリギリ合格」と告げた後に聞いたのが冒頭の問い掛けである。

 ちなみに不合格なら俺はどうなっていたのか?

 怖いので考えないようにしよう。


「そんな哲学的な事を言われても分からないですよ、師匠。

 強いて言うなら生きるという事は――繋ぐ事、ですかね」

「繋ぐ事?」

「――ええ。

 ハーフエルフの師匠にはピンとこないでしょうけど……

 俺達人間の寿命は短い。

 自分の生きた証なんてそう易々は残せないんです。

 王様や英雄だって偉業は讃えられても名を忘れられていく。

 だからこそ――繋ぐ。

 次代に、次世代へと託す。

 そうして自分の想いを乗せてバトンタッチしていく事。

 それこそが生きる、っていうんじゃないかと」

「ほう……無理無茶無謀の三無主義者かと思えば。

 人並み以上に考えられる頭があったのだな?

 正直感心したぞ、うん」

「そ、そんな人を規格外の愚者みたいに」

「一旗揚げてやると無一文で故郷を飛び出したはいいが……初依頼の大規模討伐に参加し死に掛け、あげく食うに困って行き倒れ掛けた奴の吐く台詞か、それは?」

「ぐっ……何も言えない」

「まあここでお前を虐めても仕方ない。

 拾ってしまったからには――

 飼い主として、責任を以て育ててやるさ」

「あ、やっぱそんな感じだったんですね……知ってましたけど」

「ん? 不満なのか?」

「いいえ、ちっとも!」

「ふむ、ならいいのだが……

 そういえば生きる事についてだったな。

 私はね、ガリウス――

 生きるという事は『自由』であるべきだと思うよ」

「自由?」

「――そう、自由。

 それは無論お金があるとか立場に縛られるとかそういう事じゃない。

 精神が、魂がどこまでも自由であり行動を束縛されない事――

 そこれこそが生きるという事だと思う。

 だからね、ガリウス」


 言葉を切って俺の眼を見つめる師匠。

 この時の彼女の言葉はいつになっても忘れはしないだろう。


「もし私が不自由で――生きていない状態になったら――

 お前が、お前の手で――斬り捨てておくれ」

 






いつも誤字脱字報告して下さる方、本当にありがとうございます。

お礼をいう機会がないので後書きで失礼しますが助かってますよ~。

さあ今回は謎めいた師匠と若き日(15歳)のガリウスとの邂逅編。

次回からはバチバチのバトル予定です。

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