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おっさん、追及する


「本当に久しぶりだな、ガリウス。

 口ばかり達者で物を知らぬヒヨッコだったお前がこんなに大きくなるとはな。

 お前を拾い鍛え上げ――

 無事私の下から巣立っていったのを見届け、もう20年くらいになるか?

 壮健そうで何よりだ」


 偽りや演技ではない。

 心底、俺の身を案じている事が分かる師匠の言葉。

 師事していた頃と変わらぬ重厚感と頼れる人柄に思わず心を許しそうになる。

 しかし過去はどうあれ――今現在、俺達は敵対している。

 何より俺の背後には師匠の手により倒れ伏した仲間がいる。

 ならば油断すべきではないし――絶対に引けない。

 常在戦場。

 行動から感情を切り離せ。

 これもあなたから受け継いだ教えだ。

 目線を師匠から片時も離さず自分を戒め、俺は油断なく剣を構える。

 そんな緊迫と気迫に満ちた俺の動向を師匠は面白そうに窺っている。

 まるで言う事を聞かなかった我儘な子の成長を見守るみたいに。

 四半世紀を経ても変わらないその美麗な容姿。

 いかなる時も沈着冷静――おそらく俺を斬り捨てる時ですら動揺を浮かべる事がないであろう澄ました顔に、戦慄すら覚える。

 師匠は森妖精の血を受け継ぐハーフエルフだ。

 身長は俺と大差のない170前後。

 鮮やかな銀の髪に俺と同じ紫の双眸を持つ麗人だ。

 パッと見は20代後半、線の細い若武者にしか見えないだろう。

 だが外見に惑わされ舐めて掛かった者は手痛いしっぺ返しを受ける。

 武芸百般に通じているだけでなく精霊魔術すら自在に扱うからだ。

 ハーフエルフはエルフ程ではないが長い寿命を持つ。

 師匠はこう見えて250年以上は生きている。

 前大戦すら生き抜いた歴戦の勇士であり――

 更に200年以上の年月を闘争と冒険に捧げた修羅でもある。

 飽く事なき貪欲な修練者、それこそが師匠の本質だ。

 積み重ねた経験に裏打ちされた実力はまさに俺の目指す完成系の極致。

 20年という歳月はその差を埋めるどころか広げた気すらする。

 だが――それがどうした?

 仲間が、掛け替えのない大切な者がいる以上――俺は負けない。

 自らの全身全霊を以て立ち塞がるのみ。

 意識を研ぎ澄ませ――明鏡止水の域に到った俺は背後を観の眼で窺う。

 シア達三人に大きな外傷はない。

 師匠が発動させた魔現刃――そう、師匠こそ本家なのだ――は、どうやら非殺傷目的の魔術を具現化したものらしい。

 基本属性しか応用の利かない俺と違い、師匠は精霊魔術の達人だ。

 多分シア達は眠りの上位精霊を付与した昏睡の魔剣で眠らされている。

 昏睡は非常に厄介なバッドステータスだ。

 睡眠状態と違い覚醒呪文や衝撃などでは起きず、解呪の法術でしか目覚めない。

 つまり高位法術師である聖女クラスのフィーナが昏睡している以上、仲間の支援は期待できない。

 また先程の黒装束――

 失踪した扱いになっている冒険者共の仲間がいつ襲ってくるか分からない。

 まさに四面楚歌――退路なし、だ。

 彼我の状況を整理した俺は自虐的な気持ちになる。

 でもまあ、ここまで逆境だと少し嗤えてくるな。

 苦しい時こそ笑え、というのは目前の師匠の言葉だ。

 よし、大分楽になった。

 駄目元でいい、ちょっと探ってみるか――

 目線は冷たいほど切らさず、それでいて熱い熱意を以て尋ねる。


「なあ、師匠――」

「なんだ、ガリウス」

「どうして――こんな事に加担するんだ?」

「……何のことだ?」

「とぼけるなよ。

 相変わらず嘘が下手だな。

 この迷宮都市で頻発する冒険者の失踪事件――

 その黒幕、とまではいかないが――糸を引いてるのはあなただろう?」

「ふむ――何故そう思う?」

「俺が疑問に思ったのはまず失踪した場所だ。

 一番行方不明になる可能性のある迷宮ではなく何故か街中で皆は失踪した。

 しかもまったくの目撃者もなく。

 これは非常に不可解な事だ。

 人のいた痕跡はそうそう消せるものじゃない。

 ましてここは迷宮都市――探査に長けた術師も数多くいるのに。

 だがこれには裏道がある。

 そう――都市機能そのものが特定の意志を受けて事態の隠蔽へと回った場合、並大抵の術師では看破出来ない。

 アリと象の力比べなら――勝敗は明らかだろう?

 あなたは俺の知る限り最高にして最強の精霊使い。

 ここで都市に眠る精霊王そのものと話をつけるなど、造作もない事だ。

 その場合、魔の領域である迷宮よりむしろ都市部の方が与し易い」

「――残念だが、それはただの推論だ。

 状況証拠だけで私と決めつけるにはまだ早いな」

「話は最後まで聞けよ。

 俺がもう一つ疑問に思っていた事がある。

 冒険者が肌身離さず身に着けているライセンス。

 これが存在する座標を検出すら出来ないなんて事はあり得ない――

 そう、通常なら」

「ほう――続きを」

「これにも抜け道があってな。

 召喚術師は魔導書に調伏した妖魔を封じ自在に使役する。

 隷属化――これにより召喚術師は力を増す。

 しかし今回の焦点はむしろ魔導書そのものにある。

 魔導書とは度重なる因果を経て隔離――幽閉された一種の異界だ。

 ライセンスの魔導探知も別世界にまでは及ばない。

 よってここに閉じ込められた者は探査の対象にならない。

 付け加えるなら、先程俺の足止めに失踪した筈の冒険者達が立ちはだかった。

 無論返り討ちにしてやったが……

 彼らは突如光の粒子となり消えた。

 これは隷属化された者が現界する限界を超えた時に起きる現象だ」

「鋭いな――いいぞ」

「そして最後に――今回失踪したS級冒険者の存在だ。

 大陸全土ですら47人しかいない最高ランク、S級冒険者。

 その内の三人を同時に相手取れる者。

 俺が知る限りそんな破格な存在はこの世界で7人しかいないEXランク――

 つまり、師匠――貴女しかいないんだ!」

「正解だ、ガリウス。

 私が――いや、正確には隷属されているので私の本意ではないが――やったので間違いない」


 吐き捨てる様な俺の指摘に、師匠は微笑むと着込んだ竜皮ボディスーツの胸元に手を掛け、一気に引き下げる。

 闇夜に晒された、半妖精にしては豊かな双丘――

 その中央には魔導書の呪縛、ドス黒い隷属呪印がおぞましげに蠢動していた。

 

 





叙述トリック第二弾、実は女性だった師匠。

銀髪でハードボイルドな高身長女性。

ちょっと時代を先取りし過ぎじゃないですかね?

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