おっさん、思索に耽る
「失踪した冒険者に共通する事項、か……」
もう何度目かになるか分からないグラスを飲み干しながら、俺はメイアが残してくれた資料に目を通していく。
冒険者に必要な技能として、こういった事務処理系の能力が求められる。
腕力に任せて怪物退治は確かに勇猛で誉れ高いかもしれない。
だが不運に身罷れば、間違いなくいつの日か命を落とすだろう。
なので自身のみならずパーティの生存確率向上へと繋がる事前調査は、臆病な程慎重にこなすくらいが丁度良い。
依頼遂行の為、何が重要で何を用意しなければならないか。
前もって詮索し対処法を得なければ無残な躯を晒すようになる。
その為には常日頃から……と、いかんいかん。話が逸れた。
どうやら酩酊している訳ではないが酔いが回ってきたらしい。
思考が疎かになりそうになるのを指で瞼を抑え、強引に引き絞り思索に耽る。
まず冒険者ギルドが把握している行方不明者。
様々な階級の者達で老若男女問わず。
職業や年齢、種族なども異なり特に共通項はない。
しかし一点だけ面白い点があった。
それは彼等が迷宮都市なのに迷宮に潜らない者達――
いわゆる都市冒険者、シティアドベンチャ―達だという事。
探索を主とする徘徊冒険者、ワンダリングエクスプローラーとはそこが違う。
ならばこそ――余計に謎が絡む。
迷宮という一番失踪しやすい場所に赴かない者達が、何故消息を絶つのか?
何より不可解なのは、彼らが所持する冒険者ライセンスすら反応もせず消えているのは何故なのか?
冒険者の証ライセンスは特殊な魔導加工がされている。
パーソナルデータを含むこの加工、これはいざという時の救難信号にもなる。
常に危険が伴う迷宮探索では、自分自身に懸賞金を懸けて窮地の救援に備える者もいるくらいだ。
まあ結局金よりも命――という風潮になりこの制度は上手く作用していない。
最終的には損得を超えて助けに行くだけの何かがある、つまりはパーティ間の信頼関係こそが大事なのだろう。
って、迷走するな。
要となるのは直接的な危険が極力少ない筈の彼らが失踪に到る理由がこの都市にはあるという事だ。
この案件に魔神共が絡んでいるかは正直分からない。
あいつらは魔族をも超える人類の敵対種であり――相互理解は絶対不可能。
ならば残された道は、とことん殺し合う闘争しかない。
物騒な結論に至り頷く俺。
しかし、何かが引っ掛かるな……いったいなんだ?
頭の片隅に付き纏う微かな違和感に意識を巡らせていた時――
ドン!
腹に響く重苦しい音と共に――
閃光と爆炎の火花が店外から遠くの地で炸裂するのだった。
評価とお気に入り登録ありがとうございました。
すみません、今日は鬼滅タイムなので少し短めです。




