おっさん、後ろめたい
挙式後に始まった祝いの宴……それは夜まで続いた。
参加した皆が自由気まま思い思いに俺達の下に来ては祝辞を述べ飲み食いし――バカ騒ぎに興じる。
日常とはかけ離れた非日常、ハレを象徴するような麗かな日。
そこに身分の差は無く――
皆、平等に馬鹿になっていた。
恐れ多くてあまり言及できないが……率先してリヴィウス皇が舵を取り、追随して伯爵やヴァレンシュア婆さんらが煽り、レイナやレティスらが悪ノリをしていた気がする。
老若男女問わずに飲めや歌えの混沌は、まさにカオスの一言。
なにせ全員が理性的な馬鹿を自覚しているからタチが悪い。
まあ樽ごと用意された酒を酌み交わし、手塩に掛けた美味いものを喰らい、共に陽気に語って踊る姿を取り繕っても仕方あるまい。
本音というか人としての本性、エゴが剥き出しになるのは本来避けるべき事だ。
ぶつかり合うことの大切さを否定する訳ではない。
だが――最低限の礼節は弁えなくてはならない、と俺は常々考える。
どちらかというと性悪説を支持しているから尚更だ。
人は生まれながらの善なんかじゃない。
残念ながら悪(この場合は純粋悪じゃなく、生まれ持った業【カルマ】か)を以て生まれるからこそ、自分自身を律し正さなくてはならない。
欲望に対する抑制を失えば獣と変わらない故に。
でも幸せを絵に描いたようなこの光景を見ていると心が揺らぐのも確かだ。
こういう優しい世界があってもいい……そう思う。
それもまあ――悪酔いして絡んでくる奴らを除けば、だが。
「う~くっくっく。
オイラ達のアイドルが、こんなおっさんの魔手によ~(涙)」
(やかましい。俺の嫁達を勝手にアイドル視するな!)
「ぼ、僕の方が先に好きだったのにぃ!(BSS)」
(お前より俺の方が付き合い長いわ!)
「あ~ら、残念。
あたしってば虎視眈々とガリウス様のお尻を狙ってたのにねぇ」
(なんで俺の身の丈を超える巨漢に尻を狙われる!?)
「聞き捨てならないわね。
ガリウス殿の尻は私の物よ!」
(力説してるところ大変申し訳ないが……
俺の尻は俺の物なんだが?)
祝辞に紛れた呪いの言葉に対し顔は微笑みながらも内心ツッコミを入れていく。
途切れることのない人の列に――
俺はやはり人の本質は悪であると確信するのだった(トホホ)。
さて、その悪鬼の列も途絶え――
宴の参加者も無事家路に着き寝床に入った深夜――
俺は人生最大級の危機を迎えていた。
「あのね、おっさん……
ボクさ――こうことするのって初めてだから、その……
出来たら優しくしてほしいな、って」
「ん。遠慮はいらない。
男女が睦み合い種という名の生命が紡がれるのが自然の摂理。
それと一応文献を読み漁って房中術は学習済みだから安心。
あとは実践だけ。ばっちこい(ブイ)」
「ああ……いよいよですのね。
ガリウス様とこうして結ばれる時を、ずっとずっと――
初めてお会いした時から本当にずっとお待ちしておりましたわ。
フフ……そう緊張なさらずに。
今日は本能の赴くままに欲望を解放してよろしいのですよ?
それでその……初日から道具は使います?
あと、わたくし何の衣装を着ましょう?」
「ふん、貴様とまさかこういう関係になるとは……
私も焼きが回った――いや、こういう言い方は良くないな。
正直に心情を述べるとな……ずっと恋焦がれていたんだ。
貴様と――ううん、お前と結ばれる事を懸想していた。
意固地になって言い出せなかった。
けど邪魔なプライドや世間体等を除いて残ったのはたった一つの純粋な想い。
あの時(海底ダンジョン)、助けに来てくれてありがとう。
あの時(聖域都市)、受け入れてくれてありがとう
私は今――凄く幸せだぞ」
「ねえ、ガリウス――本当に後悔しない?
だって今の自分が貴方に相応しいか、どうしても不安になってしまうもの。
どれだけ唇や言葉を重ねてきたとしてもきっと払拭される事のないこれは……
もはや呪詛に近い強迫観念なのでしょうね。我ながら呆れてしまうわ。
あのね……だからこの身に刻んで分からせて欲しい。
私は貴方のものだって。
貴方は私の全てだって。
また前(前世)みたいに可愛がって欲しい――」
五者五様。
思い思いに扇情的な服装をした美女達。
蠱惑的であまりにも魅力的な誘惑に克己心が崩壊していく。
俺【ら】はそれを同時に体験し共有するのだ。
その抗い難さは最早物理的な圧力さえ感じる程である。
(しまった、まさかこんな副作用があったとは!?)
獣のように我を忘れて襲い掛かりたい衝動に心揺れる。
後悔しても仕方ない。
ただ、どうしてこうなったかを思い返すとしよう。
理性が何とか鎖に繋がれている内に。
事の発端は初夜に関する順番だった。
夫婦の誓いを交した以上、倫理的にも精神的にも妨げるものは何もない。
だからこそ躍起になり一番を望む女性陣。
喧々囂々。
早くも夫婦生活壊滅の危機。
どうにかしないとな、いやしかし……
誰を選んでも角が立ちそうなこの状況。
これを打破してくれたのはラナの提案だった。
その提案とは高度な複製体を生み出す【神魔眼】と【解析眼】の複合業。
時間制限のあるカエデの奥義とは違い、長時間の独立行動を可能とする絶技。
無論、弱点もある事は襲撃者撃退の折に訊いており、分体を生み出せば生み出すほど魔力やレベルが等分されてしまうらしい
とはいえ、どの分体も紛れもない俺自身である。
それに数値化される能力は低下するが個々の技量や特技はそのまま継承される。
しかも絶技を終えれば記憶や経験は統合されるという。
つまり皆同時に初夜を迎える事が出来る!
この文句がつけようのない提案は満場一致で賛同され――何故か平等を保つ為にシアやリア、フィーナだけでなくミズキやラナも同時に抱く運びとなった。
なんだ、この状況?
どこの好色英雄譚の主人公なんだ、俺は?
多少の後ろめたさと最高に高鳴る鼓動を感じながらも……
【俺ら】は各々が待つ寝室のドアを優しくノックしたのだった。
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