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おっさん、愚直に歩む


 様々な人々から投げ掛けられる祝いの言葉。

 積み重なったそれは呪いの反対――祝福だ。

 罪重なった己の道を清め、輝かしい明日への一歩を踏み出す活力となる。

 今迄は自身が送り出す立場だった。

 しかしこうして当事者になると……重圧というか気後れしてしまうものだな。

 俺に付き添いながら満面の笑みを浮かべ応じる女性陣に素直に感心してしまう。

 そんな事を頭の片隅で考えながら歩んでいると、視界にいてはならない人(?)の姿を見つけ、俺は頭が痛くなる。

 当の本人はそんな事はお構いなしそうなのが非常にアレだが。

 若干呆れつつも視線を向けてると極上の微笑み後、周囲の人間に聞こえない様に配慮してか活気ある念話で語り掛けてきた。


「いや~ガリウスさん。この度はホンマにおめでとう!」

「……って、レファス。

 こんなところでいったい何をしてるんだ?」

「ええ~冷たい。

 せっかくお世話になった【気紛れ明星】の面々の晴れ舞台やもん。

 無理は承知でお祝いに来たんよ? てへ☆」

「てへ☆ じゃないだろうが!

 少しは自身の立場(龍神の使徒)を考えて行動しろ。自重自重」

「うう~ガリウスさんはイケズやわ。

 あんなに激しい一夜を共に過ごしたんに……忘れたん?」

「人聞きの悪い事を言わないでほしいんだが。

 レティスとの仲を取り持っただけだろうに」

「まあ、そうなんやけどね。

 ただ……キチンとお礼を言ってないな、思うて」

「礼?」

「うん。

 あんな、レティスちゃんの件もやけど――海底ダンジョン制覇だけでなく魔神共の陰謀を未然に防いでくれて本当にありがとう。

 ガリウスさんらの活躍が無ければ龍神……西方龍イリスフィリア・ゲーティア様の身に深刻な危機が及ぶところだったんよ。

 だからこそ感謝してもし切れない。

 名無し魔神共の突然の襲撃に対する事前通達もそうや。

 命を救われた白亜の都の住民を代表して、改めて深い感謝の念を贈りたいわ」

「何を水臭いことを。

 白亜の都にいた皆は唐揚げ販売を通して懇意になった顔見知りだ。

 それに酒場の面々とは飲み友達だったしな。

 よく袖振り合うも多生の縁、というだろう?

 見知らぬ人と袖が触れ合う程度のことも前世からの因縁によるという意味なら、どんな小さな事、ちょっとした人との交渉も偶然に起こるのではなく全て深い宿縁によって起こるものさ。

 ならば俺はその縁【ヨスガ】を大切したいし、今後も救える範囲で救いたい。

 何より龍神様に到っては俺の方こそ【神龍眼】を通して助けてもらってるぞ」

「はあ……やっぱりガリウスさんはそういう人なんね。

 龍神様の眼に狂いはなかったやな。

 まあそのお陰で龍神様は力を取り戻せたし、こうして化身【アバター】を下界に下せるようになった訳や」

「化身【アバター】?」

「そう。

 ウチの今の身体は本人やない。

 龍神様の力で作られた本人そっくりの仮初めのものなんよ。

 そこに意識を同調させてこうして動かしてる訳や。

 まあ非常に精巧で出来のいいドローンみたいなもん」

「へえ~便利だな」

「便利なんよ?

 なので……ちょっとくらいエッチな事をしても大丈夫やで?」

「あほか!

 結婚式当日に浮気したら刺されるどころか爆破されるわ!」

「あははははは! まあ勿論、ウチのは冗談やけど……

 でも、残念ながらこれからそういうお誘いはいっぱいくるで? 覚悟せんと」

「……どういう意味だ?」

「良くも悪くもガリウスさんは目立ち過ぎたんや。

 人の身でありながら人の域を超えて戦い勝利した。

 

 人族の間だけではない……

 人外の領域、俗に言う【幻想世界】の住人らが今後は狙い始めるだろう。

 物理的にも性的にも。

 汝が示した可能性、秘めたる勇者の血は幾億の富にも勝るもの。

 最も新しい英雄は我々守護者、ガーディアンサイドでも注目の的だ」

「レファス……いえ、貴方は」


 念話の途中からレファスの意志は消え、神々しい煌めきを宿し始めた。

 伝わる思念も畏れに満ちており平伏し敬意を表したくなる。

 恐らくレファスの化身を媒体としこの場に降臨されたのだ。

 この法輪世界を守護する【世界を支えし龍】が一体……

 西方龍イリスフィリア・ゲーティアが。


「このような場においで頂けるとは誠に感謝に堪えません。

 恭しき御身に御不便をお掛けすることをお許しください」

「よい。

 我は狭量なるモノではない。

 それに我の使徒たる汝の門出を祝わねば不作法にも程がある。

 負担を掛けるがレファスに無理を言って代わってもらった。

 おめでとう、最も新しき英雄にして伝説よ。

 汝の活躍は我の誉れであり人族の希望。

 これからも驕ることなく精進して参るがいい」

「畏まりました」

「ふむ。

 せっかくの祝いだというのに言葉だけではなんだな。

 なにか欲しいものはあるか?」

「では、質問を幾つかよろしいでしょうか?」

「ほほう。構わぬよ」

「まず、使徒とはいったい何でしょうか?

 私然りレファス然り。

 イリスフィリア・ゲーティア様の使徒に任ぜられたのですが……

 どのようなものなのか皆目見当も尽きません」

「イリスでよい」

「え?」

「そんな長い敬称はいらぬ。

 これからはイリスと呼べ」

「は、はい」

「さて、使徒とは何か……だったな。

 使徒とは簡単にいえば高位存在の意志代行者のことだ」

「意志代行者?」

「そうだ。

 我々のような守護者のみならず神々を含む高位存在は、世界という物語に対して自由に動く事が出来ぬ。

 視て、感じて、歯痒い思いを抱えるも……直接介入が難しいのだ。

 だからこそ自身の心意気を汲んでくれる者を探し助力する。

 己が意志を代行し、より良い世界へ導くことを望む者。

 それこそが使徒だ」

「なるほど……了承しました。

 しかしならばこそ疑問が浮かびます。

 何故、細かく指示を出さないのでしょうか?

 私自身がイリス様に介入を受けたのはただ一度だけ。

 かの恩寵【神龍眼】を授かった時のみ。

 それ以降は自由気ままに動かせて頂いております」

「それで良いのだ」

「と、いいますと?」

「ガリウスよ。汝は先の展開の分かる物語を面白いと思うかね?

 また、汝ら使徒という確固たる個人の意志を剥奪し己がままに操る事に、罪悪と愉悦を感じる様な日々が愉しいと思うかね?

 少なくとも我は思わぬ。

 因果の先を見通す【神龍眼】を以てしても予想がつかぬ展開……

 予測を超えた波乱万丈にこそ心躍らせられるのだ。

 故にネタバレを好むような行為を我は望まぬ。

 まあ、他のモノには他のモノの意見があろうがな」

「さすがです。

 共感できたし納得しました。

 ならばあと一つだけお尋ねしたい。

 物語を先読む【神龍眼】ですが……ある時を境に未来の記述が読み取れません。

 これは――何故でしょうか?

 同じく未来を識り得ると思しき聖者の、破滅の未来という言葉もありました。

 ならばこの世界は――終わりを迎えるのでしょうか?」

「その事に関しては禁則事項故に今はまだ詳しく語れぬ。

 だが汝の偉業に対する報酬として一つだけ教えよう。

 我ら法輪世界の敵の名――その名は」

「その名は?」

「終末の軍勢【ラストバタリオン】という」


 その名を残し、急遽掻き消えるレファスの化身こと西方龍イリスフィリア。

 おそらく現界限界を迎えた為、この場に顕現出来なくなったのだろう。

 恐ろしいことにあれほど会話を交わしたというのに主観的な時間はともかく現実世界の時間としては数秒にも満たないということ。

 思考加速が為されていたとはいえ、情報伝達の効率差に舌を巻きそうになる。

 この技術が人族に普及すればもっとコミュニケーションが図れるだろうに。

 誤解もなく意思疎通が完全に為される高位存在同士の交流。

 それは未だ偏見が根差す人族の愚かさを知るだけでなく……

 いつかは至るべき領域を毅然と示された感じだ。


「どうしたの、おっさん?」


 足を止めた俺を不思議そうにシアが見上げ尋ねる。

 どうやらレファスの存在はシア達を含む周囲には認識されなかったらしい。

 俺は何でもない、と首を振ると努めて笑顔を浮かべ歩み出す。

 いずれ立ち塞がる敵の名(終末の軍勢【ラストバタリオン】)は知った。

 それがどう絡み世界がどうなるのか――先の事は分からない。

 だが、自らが出来る事を愚直に為していくことが大切なのだろう。

 今の自分は間違いなく――誰よりも幸福なのだから。





お待たせしました、久々の更新です。

コミック版とはいえ連載終了は、どうにも堪えたみたいです。

何とかリハビリがてら書いていきますので……

どうかこれからも応援よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] ラストバタリオンと言うとFC版第2次スーパーロボット大戦の精鋭部隊しか知らねえ 最初に出会った時は撤退したけどゲームやり直し時は経験値にしたなあ
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