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おっさん、未来へ歩む


「おめでとうございます、領主様!」

「結婚おめでとう、ガリウス!」

「うぁ~おねーちゃんたち、キレイ!」


 パチパチパチパチ!

 割れんばかりの喝采が領内に鳴り響き、祝いの言葉が唱和されていく。

 どこか既視感を覚える光景へ疲労はないが寝不足気味の脳内がクラクラする。

 土地神との邂逅を終え眠れぬ夜を過ごした早朝、朝霧も晴れぬ内に館へ戻った俺を待ち受けていたのは何故か眦を上げて激オコの近所のおばちゃん達だった。

 結婚前夜に行方を眩ますという自身の不甲斐なさを弾劾してくるおばちゃん達の叱責と罵倒を受けながら(一応、名義上はここの領主なんだが……)俺は衣服を剥ぎ取られ、全身を隈なく磨き上げられ、容赦なく着飾られた。

 謎の使命感に燃えているのか抗議する声など、まさにどこ吹く風だ

 恐るべし、おばちゃんズの胆力。

 年季と気合の入った淑女様らには権力とかそういうしがらみは関係ないらしい。

 アレなら戦闘力はともかく精神的な位階値では並の兵士を凌駕するぞ。

 雑魚魔族特化の箒を持ったおばちゃん掃討兵か……アリだな。

 苦笑しながらそんな事を考えていると、やはり俺同様に叩き起こされ着飾ってはいるもどこか寝不足な貌を覗かせる女性陣と玄関前ホールで鉢合わせになる。

 一瞥後、言葉が出ず石化したように硬直する俺。

 無理はないだろう、これは。

 天空ダンジョンの迷宮主である【蜃】が見せた偽りの夢。

 いざこうなってみると、あれは俺達の現状を的確に踏まえた限りなく現実に近いシミュレーションだったのが実感できる。

 あの夢の中の時同様、結婚式用にめかし込んだスーツが多少着苦しく感じる。

 だが、それぞれ色彩豊かなウエディングドレスで着飾った三人は本当に綺麗だ。

 蒼を基調とした軽快なミニのドレスを纏ったシア。

 翠を基調としたフリルがふんだんなドレスを纏ったリア。

 白を基調としたフォーマルなドレスを纏ったフィー。

 三者三様。

 まるで物語から抜け出た様に鮮やかな姿を晒す三人の花嫁。

 そして何より夢の中とは違う出来事もある。

 情熱に燃える紅の東方風民族衣装で華麗に着飾ったミズキの存在。

 普段は男勝りでハンサムな彼女だが、こうした姿でしおらしく微笑んでいると間違いなく別嬪さんであると思い知らされる。

 今日は三人との結婚式でありミズキとの婚約発表の場でもあった。

 幸せに満ちたその笑顔を見る度、俺も何だか叫びたい程の幸福感が湧き上がる。

 まあ、浮かれて馬鹿をやらかさないよう気をつけないと。

 シミュレーションと違って教会に赴くまでの過程も大切なのだから。

 領主の館から礼拝堂のある教会へ向かおうとする俺達だったが……開拓村の住民一同――もとい護るべき領民となった皆が道の両脇をずらりと固め、思い思いの声を投げ掛け総掛かりで祝福してくれている。

 こりゃ~楽にはいかないな。

 覚悟を決め歩み出そうとする俺だったが――

 シアを含む皆が不安そうに寄り添って囁いてくる。

 

「――ねえ、おっさん」

「どうしたんだ、シア?」

「……どうかなこの衣装?

 ボク、ちゃんとお嫁さんになれてる?」

「うん。凄く可愛いぞ。

 自信を持っていい――今日のシアは一番可愛い!」

「ホント? ホントにホント?

 ボク、本気にしちゃうからね?」

「ああ、勿論」

「ん。ガリウス、あたしは?」

「リアだって似合っているさ。

 普段からそうしていれば周囲の男が放っておかないのに」

「あたしはガリウスだけにモテれば十分。

 他の男には興味が無い」

「ならばここ一番の可愛さクリティカルだな。

 おっさんのハートは既に致命傷を負ったぞ」

「ん。満足」

「あらあら。

 わたくしはいかがですの、ガリウス様?」

「言わせたいのか?」

「ええ、貴方様の口から是非」

「最高に綺麗だよ、フィーも。

 口下手で申し訳ないが何というか内から輝いているような華やかさがあるな」

「……ありがとうございます。

 普段そういう世辞を述べない方の懸命に尽くして頂いた言葉は真に迫りますわ」

「そんな大袈裟な」

「うふふ。

 だって幼少の頃からの夢でしたもの……決して大袈裟なんかじゃありません。

 わたくし――本当に幸せですわ」

「それを言うなら私だって負けてないぞ?」

「ミズキ……」

「貴様――ううん、お前とこうやって婚約するなんて妄想でしか叶えられないものだと思ってた。

 この恋心を抱えたまま、きっと孤独に生きていくんだって。

 けど――お前は受け入れてくれた。

 行き場のない想いを真っ向から抱き締め収めてくれた。

 他の三人に負けないくらい、私だって幸せなんだ」

「……ありがとう、みんな。

 それじゃ行こうか――新しい未来に向かって」

「うん!」

「ん」

「ええ」

「そうだな」


 今ここにはいない二人と一匹の事を振り払い、四人に優しく声を掛ける。

 その言葉に頷き合い、互いに手を握り合う女性たち。

 こうして俺達は揃って歩み出した……

 明日に続く、約束された祝福への道を。







記念すべき400話、そして400万PVを飾るのはガリウスの結婚でした。

しかしこのシリーズを書き続けてもう4年。

ネット大賞を頂きコミカライズまでされ、随分遠くまで来た感じです。

決して最終回ではありませんが、今しばらくだけお付き合い下さい。


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