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おっさん、粛々嵌める


「ん。待たせた」

「わたくしもお待たせしてすみません!」

「色々手が離せなくてな……急いでは来たのだが」


 慌てた様子で集合場所である会議室に駆け込んで来るなり弁明を始める三人。

 リアは物資を含んだ転送に関わる座標軸固定などの術式補助を行い――

 フィーは急遽派遣された教団聖職者に対するゲスト役を務め――

 ミズキは未だ混乱が続く聖域都市の治安維持活動に励んでいた。

 昼間とは一転、急激に寒さを増していく砂漠は夜を迎えたとはいえ……本来ならまだまだ持ち場を離れる時間ではないかもしれない。

 しかし我儘かもしれないが早急に話は通しておきたかった。

 そしてその判断は間違いではなかったと実感できる。


「ボクも遅れてごめん……

 それでおっさん、話ってなに?」


 何故なら最後に顔を覗かせたシアの表情を見るまでもなく――

 皆、不安に揺れていたからだ。

 既に俺の傍らに控えているラナの姿を視界に捉えながら硬直してしまう。

 事情が事情だけにカエデとルゥにはあえて席を外して貰っているが……

 念話越しとはいえ会話はリンクしているままだ。

 パーティ間の相互理解は可能な限り深めておきたい。

 我儘というか俺の個人的な事情なのだから。

 とはいえ――いきなり本題は心理的負担が大きいか。

 まずは各自へ労いの言葉を掛ける事から始めよう。


「まずは皆、お疲れ様。

 慣れない作業に急に駆り出されて大変だったろう?」

「ん。確かに。

 師団規模の転送術式補助など、魔導学院としても前代未聞」

「同意せざるをえませんわ。

 派遣されて来られる司祭の方々は個性的で野心的な人が多いですし」

「都市内部に侵攻した妖魔はほぼ討伐されたとはいえ、どんな脅威が潜んでいるか分からない状況だからな」

「けど、おっさんに任せられた兵達の鼓舞? は、上手くいってるよ!

 ボクが姿を見せて声を掛けるだけで皆、元気になってくれるし」

「事前説明はしたがシアの装備している【君主の聖衣】にはそういう効果がある」

「民草を導く目に視えないカリスマを能力として備えているのでしたっけ?」

「悪質な洗脳ではないか」

「それは違うわ。

 あくまで【君主の聖衣】は装着者自身の力を増幅するだけ。

 シアさんが関わる事で皆が奮い立ったならば、それは貴女が持つ天性の力よ」

「あっ……」


 神代より魔導を統べる学院の魔人という、いささか時代錯誤な恥ずかしい異名を持つラナが得意気に解説するとシアを含むメンバーは押し黙ってしまう。

 やはり皆の心中に潜む根は深い、か。

 ここはきちんと話さなくては。

 俺は深々と呼吸を行うと今回の本題を切り出した。


「簡単には事情を話したが、改めて皆に紹介する。

 リアの親族にしてサーフォレム魔導学院自治統局長……

 ノスティマ・レインフィールド氏だ。しかし」

「ん。その魂の本質は輪廻の循環を遡り現世へと舞い戻った、ガリウスのかつての想い人――セラナ・クリュウ・ネフェルティティ」

「そうだ。その認識で合っている」

「転生なんてことが現実にあるなんて……」

「まさに奇跡、というやつか」


 規格外の出来事に驚愕する一同。

 ただその中でも変わらず沈んだ顔をしたシアが口を開く。


「――あのさ」

「ん?」

「随分前にも聞いたんだけど、おっさんはセラナさんを蘇らせる為に長い間放浪して来たんでしょ? だって最愛の人だったんだから。

 つまりさ、その人がこうしているんだからボク達の事は――

 いいんだよ、ボクらが一番に望むのはおっさんの幸せだし……その」

「阿呆」

「いたっ! 何するのさ!?」


 下を向いて拳を震わせるシアの頭に手刀を落とす。

 軽めとはいえ予期せぬ不意打ちに憤慨しながら顔を上げるシア。

 その双眸には大粒の涙が溜まっていた。

 馬鹿だな、お前もお前達も

 気遣いが過ぎる皆に対し俺は安堵させるように微笑む。


「馬鹿だな、シア。

 馬鹿だよ、フィー。

 馬鹿だろ、リア。

 一番大変な時期に俺を支えてくれたのは間違いなくお前達だろう?

 俺はお前達との婚約は解消しない。

 そうじゃなく――事を進める為に皆を呼んだんだ」

「ほえっ?」

「な、なんですの?」

「どいうこと?」

「ラナ、頼んでいた品は出来てるか?」

「ええ、こちらにね」


 声掛けに応じたラナが空間収納魔術から取り出した指輪が3つ、差し出した俺の手中に落とされる。

 それはアンティークな真銀ミスリルの指輪。

 かねてより俺が準備しラナに魔力付与をしてもらったものだ。

 それを順番に惚けている三人に嵌めていく。

 正式な手順は後日――だが今はまず気持ちを伝えなくては。


「今回の功労を以って、明日から3日間の休暇を全員頂いた。

 だから……戦時で保留になっていた式を挙げよう。

 皆でサポートして来た開拓村で。

 既にスコットや村の皆には伝達済みだ」


 俺の言葉に固まる三人。

 自分の左薬指を見て信じられなさそうに震えている。


「えっ、ちょっと待ってくださいまし」

「ん。混乱。バッドステータス」

「これって夢、じゃないよね?

 だっておっさんにはセラナさんが――」

「ちゃんとセラナ――ラナには事情を話した。

 相談した上で出た結論だ。

 自分がいない間、俺を支えてくれた皆を優先してあげてほしいと。

 幸福に際限はないけど順番はある。

 まずはお前達に報わせてほしい」

「そんな、こんなのって……」

「ん。不意打ちが過ぎる」

「ズルい。ズルいよ、おっさん……

 こんなの、こんなの嬉し過ぎるじゃないかぁ!」

 

 指輪を包むようにしながら涙を流す三人。

 歓喜に震える三人を見届けると、どこか遠い眼をしているミズキに向き直る。


「そしてそれはお前もだ、ミズキ」

「わ、私!?」

「ああ。

 今回の騒動で俺は思った――痛感させられた。

 自身の大切な存在を二度と喪いたくない、と。

 僥倖に恵まれ生還出来たが……もう二度とお前を誰にも渡したくない。

 だから――これを受け取ってくれ。

 互いに勇者隊に所属する一員。

 すぐには無理かもしれない……でもいつか必ず叶えるから」

「あっ……うっ……

 いいのか、受け取っても?」

「いいに決まってる。

 これに関しては三人の許可済みだ」

「そうですわ、ミズキさん」

「ん。遠慮はいらない」

「ちゃんと話して決めたんだから大丈夫なんだよ」

「わ、私は恋に不器用でがさつで臆病で……

 それでも――いいのか? 幸せになっても」

「いいんだ。

 お前が欲しいからこうしている」

「わ、分かった。

 ミズキ・クロエ……確かに婚約をお受けする」


 豪放豪快なミズキに相応しくない慇懃無礼にも取られそうなギクシャクした仕草で俺から婚約指輪を受け取り指に嵌めるミズキ。

 瞬間、自身が結婚指輪を受け取った時より大騒ぎする三人娘。

 災厄もだが――幸福なんてものは案外自身よりも他人に降り掛かった時の方が実感が生じるものなのかもしれないな。

 姦しく騒ぎ立てる一同。

 そんな皆を苦笑しながら見ていると同じく苦笑していたラナがポツリと呟く。


「魔導学院の魔人ですが愛しい……愛しい人に逢いたくて気合転生したら、とんでもないスケコマシになっていた件について」

「やめろ、一昔前の英雄譚の副題みたいなコメントは」

「だってそうとしか言いようがないじゃない」

「否定は……しない」

「客観的にみても弁解の余地がないものね。

 あ~あ、私に一途だった少年はどこにいったのかしら?

 私、身も心も捧げて尽くしてたのに(クスクス)」

「おっさんになって君の前にいるよ。

 積み重ねて罪重ねた、年相応の苦しみを背負ってな」

「あら、ハードボイルド。いいわ、それ。

 実は私――告白すると本当は年上の渋い人がタイプだったの。

 今の貴方はとても好みなのよ?」

「それは光栄だね。

 けど――本当に良かったのか、ラナ?

 君が提案してくれたとはいえ、もっと我儘を言っても――」

「だってこれが私の【視た】一番望ましい選択肢ルートなんですもの。

 自身の願い(欲望)で他の誰かを不幸にするなんて真っ平ごめんよ。

 せっかく転生したんだし、今世は自分に正直に行くことにするわ」

「君らしいな。

 俺も見習わなくちゃいけない」

「そうよ、真似しなさいな。

 ただ――限度があるのでイチャイチャも程々にね?

 その時は私もいい加減ヤクから」

「ああ、やきもちを妬くのか?」

「いいえ――ヤキモチ(焔餅)で焼く(炎上)」

「こええええよ!」

「嘘うそ、冗談よ♪

 それに今の身体は基本男だしね……

 貴方と(色々)仲良くなるのにはまだ限度がある。

 一部の界隈の人は喜びそうだけど」

「君の冗談は昔から笑えないんだよ、ラナ」


 コロコロと珠の様な笑い声をあげるラナを横目に――

 俺は今後の事を思いながら深々と溜息を洩らすのだった。








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[一言] 一部の界隈がすぐそこに居るんすよ(棒
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