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おっさん、機会を貰う


「はっはっは。

 まさか全て儂の早合点だったとは――

 このフンバルト、まさに痛恨の極みよ。

 しかし君も存外に人が悪いな、ガリウス卿。

 早く指摘してくれれば良かったのに(うんうん)」

「俺は最初から肯定もせず、まず話を聞いてほしいと訴えていたんですがね……」


 事情が分かり次第、突如朗らかな顔で肩を叩いてくるイシュガルド子爵。

 いると話がややこしくなる為、退室を願い出て素直に立ち去ったルリの行く末を見据えながら俺は横目で子爵をジロリと軽く睨む。

 そんな細やかな抵抗も、どの吹く風といった感じの子爵は上機嫌で話を続ける。


「いや~アレに恋愛などはまだ早い!

 儂が良い、と思う男を見つけるまで見合いもさせる気はないからな」

「随分と溺愛していらっしゃるんですね」

「跡取りを含め儂には子供が5人いるが、ルリ以外は皆男だからのぅ。

 遅くに出来た末娘ということもあって、目に入れても痛くないくらい可愛いのは正直事実だ。

 意外かね? ロジスティックスの鬼と呼ばれる儂にこんな一面があることに」

「いえ。

 イシュガルド子爵の子煩悩さは人間らしい親しみが出てよろしいかと存じます」

「うむ、ありがとう。

 まあ公爵家や有力者共から強引な縁談の話もあったんだが――

 全て潰してやったわ。全て、な。くっくっく……」


 首肯する俺の言葉に何故か腹黒く含み笑いをする子爵。

 正直怖い。

 戦闘とは別ベクトルの恐ろしさに俺が戦慄していると、我に還った子爵が慌てて取り繕う様に口を開く。


「そうそう、まずはガリウス卿の今後についてだな。」

「は、はあ……」

「此度の聖域都市奪還の働きはまさに重畳。

 ここを橋頭堡とし遂に我々人族から反抗の狼煙を上げるべく攻め込めるからな。

 値千金に準じるということで陛下からもお褒めの言葉を賜っておる。

 まあ娘から聞いておるかもしれんが子爵への陞爵は間違いないだろう。

 そうなれば同じ子爵同士、ひとつよろしく頼む」

「はあ……」


 娘の事は別だぞ、と眼で訴えながら手を差し出す子爵――フンバルト卿。

 俺は殺気とも違う狂気にも似た気迫にやや気圧されながら握手を返す。

 満足そうに頷いたフンバルト卿は言葉を続ける。


「それと軍部からは特別報酬金のみならず作戦参加者全員に対し明日から3日間の休暇を出す、とのことだ。

 一週間、魂を削るような潜入行動を終えたのだ。

 今は全てを忘れ心身の充足を図るがいい」

「光栄です」


 そうか、選別の竜巻へ強引に押し入った余波で時間軸にズレが生じたんだっけ。

 俺にしてみれば僅か一日の出来事だが皆からすれば一週間音沙汰無し、の絶望的状況下だったのか。

 詳しい事情はこれから報告書という形で提出するが……あらぬ誤解を受けるのも無理はない。

 まあ渡りに船――

 勝手に誤解しているようだし、自分から訂正する気はないが。


「どこか行く宛てはあるかね?

 儂のコネクションで良ければ、ハアエのリゾート地を紹介するが……」

「せっかくの申し出ですが、フンバルト卿。

 既に行先は決まっておりますので」

「ほう。

 探るようで申し訳ないが、それはどこかね?

 儂としても王都の英雄殿が惹かれる休養地は興味深いのだが――」

「それは無論、我が領内ですよ。

 避暑地にも似た領内は過ごしに易く水も空気も美味い。

 並びに土地神(山猫)の加護を受けた領内は木材や鉱石の宝庫でもあります。

 深山幽谷に囲まれた地にどれだけの資源が眠っているのやら。

 フンバルト卿とは、今後も良しなにお付き合い願えれば幸いです」

「ふむ。それは儂の知らん話だな。

 君も中々やり手だな、ガリウス卿。

 情報の持つ価値が分かっているようだ、気に入ったぞ」


 流通を司るフンバルト卿の影響があれば更に領内は発展していくだろう。

 ここは本来領主としての腕の見せどころだろうが、俺はほぼ代行のスコットに任せているからな。援護射撃はこの辺でいいだろう。

 あとは彼の裁量に委ねるのが一番だ。

 しかし三日間の休暇、か。

 これはいい機会を貰ったな。

 今迄の関係が急速に変化していく中――

 俺は遂に決着をつけるべく、繋がったままの皆との念話に意識を裂くのだった。








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