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おっさん、御業を発動


「幾千幾億の時が掛かろうとも、私は貴方の下にまた逢いにいくわ。

 だから忘れないで……私を、私の事を。

 もし姿かたちが変わっていても……私を見つけてくれる?

 本当の私を、ちゃんと見い出して抱いてくれる?」


 今際に囁かれたラナの切ない願い……

 そしてそれを叶えるべく醜くも必死に足掻いた幼く未熟だった俺。

 無謀とも思えたその願いは今、ここに成就された。

 腕の中で慟哭する少女のことを想う度、俺の中にずっと眠っていた少年が歓喜の咆哮を上げる。

 このまま思う様にラナを求めたい衝動が沸き立つ。

 ただ――今の俺は責任のある立場だ。

 何より共に信じ戦ってくれている仲間がいる。

 だから俺は苦渋を堪える様に強引にラナの肢体を引き剝がす。

 驚いた顔を覗かせるラナだったが、俺の瞳に宿る光を見て得心がいったみたいに頷く。


「仕掛けるのね」

「ああ」

「死ぬかもしれないわよ?

 いいえ、もしかしたらそれよりも酷い目に遭うかもしれない。

 噂に名高きヴェルダンディ一族の御業――

 それは常にイデアの崩壊危機を孕むわ。

 イデアの喪失は世界から存在自体がロストしてしまう……

 それでも――貴方は止めないのね?」

「ああ、そうだな」

「どうして……そこまでするの?」

「そんなのは決まっている」

「えっ?」

「だって――

 誰かに言われてここで止めるようなら、君の惚れた俺じゃないだろう?」


 優しく応じた俺の言葉にラナは嬉しそうに微笑む。


「うん、分かっている。

 私の信じたガリウスなら――そう言うと思ってた。

 だから約束して」

「うん?」

「ちゃんと戻ってきて、また私を抱き締める事。

 守らないと――許さないんだから」


 テンプレートなツンデレ全開な台詞と共に近付いて来たラナは、俺の頬を両手で挟み込むと、情熱的で熱い口づけを重ねる。

 絡み合う舌と舌。

 交わし合う唾液と粘膜に生の実感を覚える。

 やがて満足したのかラナは口元を上品に拭うと転移で消え去った。

 残念だが俺には俺の、彼女には彼女の戦場がある。

 仲睦まじく求め合う時間の猶予はない。

 ただ美麗なその貌が赤くなっていたのを見るに、奥手である彼女にとって精一杯の激励だったに違いない。

 慣れない事をするな、まったく……可愛いじゃないか。

 心の中に渦巻く確固たる衝動。

 ああ、確かに今なら扱えるだろう。


「イゾウ先生」

「おうよ」


 俺の呼び掛けに花魁風の衣装を纏った美女が姿を現す。

 それは刀に宿る付喪神と化した剣聖イゾウの化身である。


「俺はこれから御業と神名真流を使います。

 不肖の弟子ですが、良ければ見届けて下さい」

「……してねえよ」

「え?」

「今のおめえなら心配はしてねえよ。

 掴んだな、業の確信ってヤツを」

「はい――人の心の何たるかを」

「ああ、そうだ。

 心に愛がなければ英雄スーパーヒーローにはなれねえ。

 それが無ければ武芸に秀でた、ただの無法者よ。

 儂は死ぬまでその域に至れなかったが……おめえなら大丈夫だ。

 仲間らに支えられ、あの嬢ちゃんを受け入れ、過去と決別した今のお前ならば。

 だから――今こそ見せてみろ。

 勇者一族の本領ってやつを」

「はい」

 

 全身を躍動させながら俺は間近に迫ったダイダラボッチへ向けて駆ける。

 身体が軽い。

 まるで全ての頸木から解き放たれたかのようだ。

 ラナが述べて懸念していた様に御業は絶大な力を俺に与えてくれる。

 しかし反動として、世界から逸脱した存在となった俺を、世界は強制的に人外として召し上げ様とする恐れがあるのだ。

 これが死より恐ろしい、概念的な消滅【イデア・ロスト】だ。

 世界に召し上げられた存在の末路は哀しい。

 誰の存在からも忘れ去られ、

 記録にも残らず、

 ただ世界を維持する守護存在と「成り上がる」のだから。

 ラナや皆の想い出から消えるのは震える程に恐ろしい。


(でもな……)


 その想いを守る為に戦える事がこれほど誇らしい事はない。

 何故なら、今の俺には強い意志がある。

 目はちゃんと見えている。

 耳はしっかり聴こえている。

 手はちゃんと力が入る。

 足はちゃんと立っている。

 身を守るための鎧がある

 敵と戦うための武器がある

 何より命を懸けるための目的がある……

 誰にも譲れない覚悟がある!!


(今の俺は……ちょっとばかり手強いぞ、魔神共)


 既に腹は据わっており覚悟は決めた。

 では――始めるとするか。


「サポートを頼む、ミコン」

「了解」


 この時の為にずっと休眠していたミコンへ語り掛け覚醒を促す。

 俺の纏う【黒帝の竜骸】からうねりを上げて立ち昇る龍の力。

 深い腹式呼吸と共にチャクラの動きを強制回転。

 クンダリーニから駆け巡る生命力を変換すべく眉間のチャクラの起動を図る。

 全てが停止した様な時間の中――都市を蹂躙すべく蠢くダイダラボッチの胎動と俺の鼓動だけが聞こえる。

 焦るな、俺。

 かつて師匠は俺に何と言った?


「もし御業を使うつもりなら、喪いたくない大事な人を想え。

 それが何よりも強い意志となり――力となる」


 闘気術としてチャクラに携わる、ノルファリア練法を学んだ俺にしか使いこなせないと言っていた御業。

 しかし――それだけでは起爆剤としての力が足りない。

 だからこそミコンの力を借り受け莫大な龍の闘気を自身と一体化していく。

 やがてそれは【龍闘気ドラゴニックオーラ】とでも呼ぶべきものへと変容し、眉間のチャクラことアジュナ・チャクラを開くに至った。

 アジュナ・チャクラ……それは聖人らに共有する眉間の輝きだ。

 人でありながら人の理の外を歩む者が放つ導きの灯火。

 無論、これだけでもダイダラボッチに対抗する事は出来る。

 だが――足りない。

 亜神を超える圧倒的な存在を打破するには人の領域を乗り越える必要がある。

 だからこそ必然的に生まれた一族の御業。

 常世を護る絶対の刃と化す、対超越存在廃滅抹消の絶技。

 眉間を超える頭頂に秘められた王冠のチャクラ発動を以って発動する奇跡。

 人を聖人にまで高めるその力を全て費やし遂に輝きをあげる王冠のチャクラことサハスラーラチャクラの開闢。

 霊的最高位である王冠輝く時、人は魔王クラスにすら相対する事を可能とする。

 この一連のプロセスこそ『聖念を以って天の位階へと至る技法』と呼ばれる生来勇者ヴェルダンディ一族の御業の秘密であった。

 あるいはアストラル(精神)エンジェリンク(天域直結)……

 即ち【聖天法アストラリエル】とも。

 今まで培ってきた人々の絆。

 特に何にも代え難い大切な皆の笑顔が思い浮かび、俺の意識を高次元へ移行。

 激しい苦痛と共に、ついに頭頂に宿るチャクラが鈍く回転をし始めた。

 大いなる存在へと昇華し始める虚実。

 宇宙や世界と一体化したような万能感。

 陶酔すべき快感と曖昧になる恐怖に目覚めながら――

 俺はついに奥の手でも秘中の秘【聖天法】を発動させる事に成功した。







ガリウスの独白(決意)は愛読書【イレブンソウル】から引用させて頂きました。

面白さは保証するので興味がある方は是非手に取って見て下さい。

あと今回初披露した秘儀名についても元ネタそのまんまだったので改めてます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 紋章閃やドルオーラとかも使うんだろうか? [一言] 神名真流って牛丼好きだったりバニー服でラインダンスしたり 放屁で空飛んだりするんか(明後日の方を見ながら フェイスフr・・・奇…
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