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おっさん、煩悶し苦悩


 最初は偽者を疑った。

 次に洗脳か意志剝奪系の術式かスキルの影響下である事を怪しんだ。

 しかし――結果は残酷だ。

 神龍眼が告げる解析の全てが、あのミズキが通常の状態である旨を告げている。


「何故だ、ミズキ! どうして!?」

「理由を告げる必要はない」


 困惑から問い質す俺に対し、答えを遮る様にミズキは大斧を悠々と構え直す。

 味方を裏切り敵陣営に身を置いているというのにどこか余裕のある構えだ。

 そこに――違和感を覚える。

 直情的なミズキならばこの手の問答にボロは出さなくとも動揺を隠し切れない。

 腹芸が達者でない事は長年の付き合いで分かり切っているのだ。

 ならば他の可能性を考えろ。

 本人と見分けがつかず、霊的・肉体的にも同質な存在……

 と、そこまで思い進めた俺は最悪の可能性に至る。

 それではまるで師匠が言い伝え、精霊都市で相対したアレと同一の――

 悍ましい結果に煩悶し苦悩する俺。

 その姿を変わらぬ柔和な笑みと慈父の眼差しで鑑賞していたソーヤが口を開く。


「悪戯はその辺になさい、ダブリル。

 貴女の役割はかの英傑に対する牽制……

 万が一その身に何かあったらどうするのです?」

「これは失礼しました、ソーヤ様。

 もう少し人質としての価値を高めたいと思いまして」

「忌まわしき龍の使徒の決断力を侮ってはなりません。

 必要とあれば、その男は全てを斬り捨てる事が出来る。

 甘いように見えて苛烈で容赦のない側面を兼ね備えているのですから」

「承知致しました。

 偉大なるソーヤ様にお仕えする七使徒が一人、【異なる貌】のダブリル。

 心酔する貴方様のお言葉なら種族の垣根を越えて従いましょう」


 ソーヤの言葉に片膝をついて畏まり忠義に厚い騎士の礼を返すミズキ。

 このやり取りを聞くまでもない。

 最悪の事態に声が震えないよう努めながら、確証の為に質問を投げ掛ける。


「お前ら……まさか……そうなのか?

 だから俺の【神龍眼】にもそう映るのか?」

「ええ。そうですよ、ガリウス殿。

 貴方が想像しているとおりです」

「ミズキを……彼女を、鏡像魔神【ドッペルゲンガー】に……いや違う。

 ミズキを魔族の【憑代】にしたな!?」

「正解だ、最も新しき英雄こと英傑ガリウスよ。

 我は栄えある魔族でありながらソーヤ様の思想に感銘を受け教化された身。

 今は心よりお仕えしている。

 そなたに対する交渉の切り札としてこの女の身柄を抑えた」

「馬鹿な、そんな隙などなかった筈……一体いつから」

「おやおや、まだ分かりませんか?」

「どういうことだ?」

「賢者殿の指摘で先程理解した筈ですよ。

 この聖域都市は時間の歩みが極端に遅い、と。

 即ち外界では既に一週間も経過している、と。

 貴方との交渉が破綻する未来は既に【識って】いました。

 ならばその結果を踏まえた上で貴方の助力を得るにはどうすればいいか?

 答えは簡単です。

 貴方は自身の痛みには強くとも他者の痛みには弱い。

 自らが傷つく事を厭わないのに対し、親しい誰かが傷を負う事を何より恐れる。

 ならば貴方に親しいこの女性を罠にかけ捕らえ抑えておけばいい。

 理性で理解しても――貴方の本質が彼女を見捨てる真似を出来ないのですから」

「聖域都市の外で待機していた我はソーヤ様の命を受け混迷を極める魔族との戦場にいたこの女を強襲した。

 仲間との連携を分断し、孤立無援となったこの女をゆっくりと篭絡した。

 意志の強い生物を憑代にするのは通常困難だ。

 自由意思を奪い丸め込み服従させ取り込む……一連の儀礼が煩わしい。

 しかし今回は至極簡単だった。

 何故かこの女は酷く精神的に疲弊していたから。

 同化した今なら分かる。

 この女は伴侶のいる身となったそなたを懸想していたのだな。

 戦場にいながらも身を焦がすそれ故の自責と――決して結ばれぬ後悔の念。

 この女の意識を飲み込む寸前までそなたに対する謝罪の意は揺れなかった。

 人の身ながら大したものよ……今も意識の表層に出ようと抗っている。

 そなたの顔を見たことが引き金となったようだ」

「卑劣な手段を――」

「綺麗事は申し上げません。

 この世界の明日……そう、未来を勝ち取る為ならば――

 わたしは神にも悪魔にもなりましょう。

 さあ、ガリウス殿。

 貴方の大事なお仲間――そして貴方を慕う者。

 死線を共にすべき仲間はわたしの聖壁に捕らわれ、ミズキ殿は我が配下がその身と同化して身柄を抑えております。

 足りないのなら使徒に命じ増やす事も可能です。

 先程の交渉は決裂……されど暗黒の未来を識る同志は欲しい。

 わたしの軍門、教えに下れとは申し上げません。

 ただ協力してはいただけませんか?

 共に安寧の揺り篭を築きましょう……久遠なる世界の存続の為。

 さあ、返答は如何に?」







新年あけましておめでとうございます。

本年度も何卒おっさん達をよろしくお願い致します^^

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