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おっさん、脳裏に閃く


「この聖域都市の住民ほぼ全てが、同じ場所にいる……だと?」


 カエデの告げた【都市把握】スキルによる、衝撃の結果内容――

 それはまるでこのゴーストタウンの様に人気のないこの都市に住む人々の行く末に関するものだった。

 パーティのメンバーも驚きの顔を隠せない。

 この聖域都市は聖職者数千人とそれを支える信者、そして都市の機能を維持する人々で形成されている。その数は優に5万を超えるだろう。

 そんな莫大な人々を収納可能な建物など――

 とそこまで思い至った時、俺の脳裏に閃くものがあった。

 目線をフィーに向けると力強く頷き返してくる。


「なるほど……【大聖堂カテドラル】か……」

「おそらくそうでござるな。

 拙者は窺い知れぬが巡礼の時期には十数万の巡礼者が参られるのでござろう?

 それだけの人数を収納できるのは間違いなくそうかと」

「ん。この都市は教団の総本山であり聖地。

 巡礼者を受け入れるキャパを想定してある故、全て広めに造られている。

 その祭事の一切を取り仕切るのが、かの有名な【大聖堂】。

 この都市の象徴であり中枢。

 確かに【大聖堂】なら住民全員を収納する事が可能と推定できる」

「でもさ、一番気になるのは皆の状態だよ。

 ここの住民さんは無事なの?」

「それが――何とも言い難いのでござる」

「というと?」

「確かに皆、生きている。

 生きてはいるのでござるが……皆、身動き一つせず横になり、生体反応も非常に微弱で……何というか、まるで生きる屍の様な感じなのでござる」

「生きる屍? まさかアンデットになったんじゃないだろうな?」


 清浄に満ちたこの地でアンデットもないだろう(即座に消滅する)が、困惑気なカエデの説明を聞いていると若干心配になってくる。

 死霊であるワイト系や吸血鬼等に生気を吸い取られた際、死蝋化を経て犠牲者がアンデットと化す事があるからだ。

 だが――俺の疑問を払拭するようにフィーが言い切った。


「いいえ。

 それは多分違いますわ、ガリウス様」

「何か心当たりがあるのか、フィー?」

「はい。おそらく住民の方々は、【保存】プリザベーション系の加護下にあると思われますの。

【保存】の祝祷術はご遺体を傷めないよう長期間防護維持するもの。

 その場で癒しきれない重症の人に対し、応急処置的に施す事もあるくらいです」

「なるほど。そういった祝祷術ならば身体の保護は万全だろう。

 しかし……そうなると今度は生体反応の低さが気になるな。

 その祝祷術とやらは個々の代謝を下げる機能はついてないのだろう?」

「ええ、確かに。

 生きている方にも施行できますが……通常通りに動けますわ」

「何だか謎だね。

 どうして皆、身動き一つ取らないのかな? それとも取れない?」

「わ~うん?」

「う~ん拙者の把握した様子では生体反応が低過ぎて……まるで氷のように冷たく感じられたのでござるよ」

「それは……もしかしたら【冷凍睡眠】コールドスリープの術式かもしれない」

「ん? 何か思い当たる節があるのか、リア?」

「サーフォレム魔導学院で最近提唱された学説。

 人間の身体は特殊条件下による極低温状態において代謝が極端に陥る。

 この状態では食料や排泄を必要とせず、それどころか老化すらしない」

「ああ、それ聞いたことがある!

 雪山で遭難した人が稀になる現象だよね!?」

「ん。肯定。

 これを人為的に起こすのが【冷凍睡眠】の術式。

 もしこの術式が汎用化すれば遥か遠方や未来への行程――何より既存の病魔への対処法が生み出されるまでの時間を無視できるなど非常に有益。

 ただ――問題点が一つ」

「それは?」

「優れた祝祷術が無い限り、賦活した細胞が水分が凍結した時に起こる体積膨張によって自身を破壊してしまう。せっかく蘇れても即死しては意味が無い」

「なるほど……だからこそ、か」

「どういうこと、おっさん?」

「何を目的として首脳部が住民全てを巻き込んだのか分からない。

 ただ規則正しく等間隔に並んでいるというカエデの話が本当なら強制じゃなく、おそらくは任意なのだろうがな。

 何かを為すため聖域都市首脳部は住民全てを冷凍睡眠下においた。

 優れた祝祷術の遣い手が多いであろうこの聖域都市でも、5万人を超える人々が相手では術式解除の蘇生時に万が一の事がある。

 だからこそ……【保存】の祝祷術を重ね掛けしたのじゃないか?

 つまり魔術と祝祷術のコラボレーションだ」

「あっ!」

「それは意表を突く発想」

「まさに盲点でござるな……」

「そしてこういった常道を超えた思考を持つ奴等に心当たりが在り過ぎてな。

 おそらくこれを考え出したのは――」

「魔神――もしくは魔族が与している、という事ですわね?」

「ああ、間違いなくな」


 自身の宗派における信用の根底に関わる内容だというのに、フィーは毅然とした態度を崩さずに言った。

 こういったところは昔から彼女の強いところだと思う。

 大事なのは己の属する教団でなく己の信条であるという自覚があるからだろう。

 まったくヴァレンシュアの婆さんは人材育成が巧み過ぎる。

 おっと……本道から逸れては駄目だな。


「カエデ、さっき告げた中には自由に動いている奴もいるのだろう?」

「ええ。

 大聖堂の中枢である【教皇】の間に鎮座している人物。

 その者だけが拙者達を除きこの都市で唯一動いている者でござる」

「ならば決まりだな。

 どのような意図があるか分からんが、敵対する可能性も視野に入れなくては」

「それは誰なの……おっさん?」

「各都市にある教会にいる枢機卿を除き、教皇代理を務める権限を持つのは、ただ一人……福音の使徒【聖者】ソーヤ・クレハ。彼こそが首謀者に違いない」


 現代において最も神に近い男の名に、パーティの面々は顔を曇らせるのだった。









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