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おっさん、見解を待つ


「まったくもう、ガリウス様ったら……

 誤解ならば誤解――と、そう仰って下されば良かったのに」

「同感でござるな~」

「わーう」

「いや、俺は最初から真剣に弁解していたような気が――すまん、何でもない」


 懸命に言葉を尽くし、どうにか機嫌を取り直した面々へ余計な事を反論しようとした正直者の愚者に対し、応じる女性陣から放たれたのは凄まじい圧力。

 俺は一切の抵抗を止め白旗を振って全面降伏する。

 こういった時は何をしても火に油を注ぐだけ、と十分に骨に沁みているからだ。

 そう……理不尽でも耐えるのだ、俺。

 先人もきっと、こうやって荒波を超えて来たのに違いないのだから。

 心の底で涙を堪え耐え忍んでいると、嬉しそうにしているシアが視界に入った。

 さっきまで赤面していたのに……忙しい奴だ。

 ただ妙にハイテンションそうな仕草が少し気になる。

 ふむ――ちょっと訊いてみるとするか。


「どうしたんだ、シア?

 妙に機嫌が良さそうじゃないか」

「ふふん♪ だってさ――」

「うん?」

「おっさんがボクの事を意識してくれたんだな~っと思うとさ……

 何だか、つい嬉しくてね。

 訓練や稽古の時なんてもっと身体が密着する機会があるのに、いつも沈着冷静さを崩さないおっさんの澄まし顔が……あんな事で慌てふためくのがおかしくって」

「悪かったな、落ち着きなくて」

「あっ、ゴメン! そういう訳じゃなくてね?

 おっさんみたいな年上に言うのは失礼かもしれないけど……

 何だか可愛いな、と思ったの」

「まったく……」

「ああ、拗ねないでよ~おっさん」


 肩を竦めて歩み出した俺の腕に俊敏に駆け寄り、猫みたいに身を寄せるシア。

 それを見てフィーとカエデが顔を見合せ囁き合う。


「まあまあ。見ました、奥様?」

「ええ。この目でしっかりと」

「真昼間から、公衆の面前で見せつけてくれますわね」

「まったくでござる」

「あまりイチャイチャされると……

 いい加減、わたくしもヤキたくなりますわ」

「ああ、やきもちを妬くのでござるか?」

「いえ――嫉妬の炎で物理的に焼こうかと(炎上)」

「こ、怖いでござるよ!」

「きゃう~ん(涙)」


 ……何をのほほんと漫才をしているんだ、あいつらは。

 中立宣言の都市内とはいえ――不法侵入者なんだぞ、俺達は(一応)。

 溜息を堪え周囲を警戒すると、愛用の武器となった魔杖レヴァリアを構え術式を展開し終えたリアの驚き顔と目線が合う。


「――どうした、リア?

 まるで出番を忘れられた舞台俳優みたいな顔をして」

「ん。それほど出番は忘れられてない。

 精々、話にすれば334話から364話くらいの半年間出てないだけ。

 それに出番が無かった事に対し、とやかく言うつもりはない。

 過去編の掘り下げが必要だったと推測できる」

「滅茶苦茶、細かくチェックしてるじゃねえか!

 あと――メタ的な発言は止めろ」

「ん。ならば話を変える。

 ガリウス、大変な事が起きた」

「それは――この聖域都市に人っ子一人いない状況と関連しているのか?」

「おそらく」


 俺の指摘に対しリアが深々と頷く。

 そう――俺達も馬鹿じゃない。

 俺も頼りになる仲間達も、緊張すべきシーンではきちんと気持ちを切り替える。

 ならば何故こんな風な馬鹿騒ぎをしてるのかというと、この聖域都市に侵入してあいつらを解放するまで都市内部に人の気配をまるで感じ取れないからだ。

 スキル覚醒を用いた【捜索】をすれば話は変わるのだろうが現在この聖域都市に於いて目の届く範囲では誰一人いないし――動く者とていない。

 それだけなら別にいい。

 単に無人都市や遺跡の探索クラス同等と、意識の切り替えが出来る。

 仄かに恐ろしいのはつい先程まで人がいた痕跡がありありと残っている事だ。

 具体的には、街並みから窺える家の食卓に残るのは手付かず(食べかけ)の食事、火にかけたままの鍋、髭を剃り掛けたままで放置されている洗面所に残された泡という平穏な日常を思わせるもの。

 服だけを残し人々が消え失せたなど、あからさまに特異な形跡はないが、資産と成り得る貴金属や金銭が店先等にそのまま残っているという現況が更に不穏な想像を搔き立てる。

 いったい――この住人達に何が起きた?

 まるで有名な幽霊船メアリーセレス号を連想させるホラーな事態に、無意識下で皆が意地でも日常を貫き通し精神の安定を図ろうとするのも賛同できる。

 ……まあこいつらの場合それが計算じゃなくて素の可能性もあるのだが。

 風雲急を告げるであろう、賢者としてのリアの見解を俺は待つ。

 そして告げられたその内容――それはまったく予想だにしないものであった。


「この聖域都市では時間の流れが外部から切り離され独自の時を刻んでいる。

 具体的にはこの都市内部は異様なほど極端に時間の進み方が遅い。

 そして一番の懸念は異時間軸の内部へ潜行する際に起きた結界突破の余波……

 私達がこの都市に侵入する僅かな間、既に外部では一週間が経過している――」

 





 本日、ついにコミカライズ第二巻が発売になります♪

「追放おっさん冒険者(37)

 …実はパーティメンバーにヤバいほど慕われていた 2」

 https://www.futabasha.co.jp/book/97845754175240000000?type=1

 書店で見かけた際、良ければお手に取って頂ければ幸いです^^

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― 新着の感想 ―
[一言] つまり・・・・スタンド攻撃を受けている!(スットボケ
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