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おっさん、当てられる

 今回はシア視点のお話です。

 

「――準備はできたか、シア。

 そろそろ出発するぞ」

「はいは~い。

 待っててね、もうちょっとで終わるから!」


 おっさんから掛けられた声にボクは慌てて返事をする。

 勢い余って椅子に足を引っ掛けてしまったのはご愛嬌だ。

 深呼吸を一つすると優しい目で見守ってくれてる二人に尋ねる。

 ボクには残念ながらファッションのセンスがない。

 なので今日の服装の見立ては最初から二人にお願いした。

 おかしくはないと思うけど――せっかくおっさんと二人きりのお出掛けだ。

 やっぱり客観的な感想が気になる。



「ど、どう? 変じゃないかな?」

「良くお似合いですよ、シア」

「ん。立派な山ガールになった。

 これならガリウスも悩殺出来る」

「ほ、ホントに?

 ボクなんかでおっさん――ドキドキする?」

「充分しますわ。

 シアはもっと自信を持たないといけませんね」

「だってボク――

 二人みたいにスタイル良くないし……

 男の子みたいで、全然可愛くないし」

「当社比120%の胸を所持しておいて何を言う。

 過ぎた謙遜は嫌味になる。

 それにシアは充分可愛い、自信を持つといい」

「うん、分かった……

 アドバイスありがとね。

 それじゃ申し訳ないけど――先に行くよ?」

「ええ、お気をつけて」

「厳正なくじ引きの結果。気にしないで早く行く。

 ちゃんとあたし達もガリウスといる時間は確保出来ている――

 なのでこれを機に積極的に篭絡するべき」

「あはは。怖いな~リアは」

「シア――良いですか?

 ちゃんと自分から『当てにいく』のですよ?

 上目遣いで腕を絡め、なおかつ誤解じゃなく当ててると認識させるのです。

 当たってる、んじゃなくて当ててるというのがポイントなのですから」

「ぜ、前言撤回。

 一番怖いのはフィーだった……」


 仲間に対する戦慄を若干覚えながらボクはおっさんが待つ扉へ向かう。

 うう、緊張するな~。














「し、シア――」

「な~に?」

「もう少し離れて、だな」

「ええ~やだ。

 山に行くまではおっさんの傍がいい」

「ご、誤解されるだろ?」

「誤解って何?

 むしろされた~い」


 腕を絡めながら答えるボクの言葉に敏感に反応するおっさん。

 普段冷静なおっさんが狼狽するのがおかしくて、つい笑ってしまう。

 さっきからおっさんは動揺しっぱなしだ。

 服装を披露した辺りからボクのことをパーティメンバーでなく一人の女性として見てくれている感じ(二人に見立ててもらって大正解だった)。

 平静を装い切れないおっさんの態度が嬉しい。

 少しは意識してもらえるんだな~って上機嫌になる。


「おや、ガリウス。お出掛けかい?」

「あらあら。

 今日はシアちゃんと狩り?

 申し訳ないけど害獣退治をお願いするね」

「そういえば後で玄関の蝶番を見てくれないかい?

 何だか最近調子が悪くてさ」

「ワタシんとこは亭主の肩凝りが酷くって。

 あとで露店もやるんだろう?

 何か良い薬がないか話を聞いておくれよ」


 おっさんと歩き始めると近所のおば様方に囲まれる。

 まだ一月ちょっとしかいないというのに、おっさんは村の人気者だ。

 気さくな人柄に加え、頼りがいがあるのに物腰が柔らか。

 これで人気が出ない訳がない。

 ボクはそっとおっさんから手を離し、おば様達と談笑する彼を見つめる。

 自分の好きな人に人望があるのは嬉しい。

 その反面、彼を独占出来ない寂しさを感じてしまう幼稚さに少し嫌悪する。

 まだまだ子供だな~と自省してしまう。

 この人を異性として意識したのはいつだろう?

 最初の出会いで命を救われた。

 あの頃はまだ先輩冒険者に対する尊敬の念が一番だった。

 一緒にパーティを組んで、数々の冒険を共にして――

 いつの間にか好きになっていた。

 リアとフィーに相談してみた事もある。

 けれど理屈じゃなく好きになるのが恋だと諭された。

 まるで自分じゃないかのようにその人の事を考え、想い続けてしまう。 

 だからこそ――心奪われる、のだと。

 父を早くに亡くしたボクが彼に父性を求めているのは自覚している。

 でも、彼を想うだけで切なくなるこの気持ちは間違いなく本物だ。

 だからボクは――

 この気持ちを恥じぬよう、胸を張って彼と生きたい。


「ふう~待たせたな。

 やっぱり一週間もいないと色々あるもんだ。

 それじゃ――気合い入れて行くぞ、シア」

「うん!」


 御用聞きを終えたのだろう。

 おば様達に別れを告げ、頭をポンと撫でてくれるおっさん。

 大きく傷だらけで……

 でも、とても温かな手。

 彼に頭を撫でられるのは大好きだ。

 遥か昔、父と過ごした日々を思い返すようで。

 ボクは忠犬みたいに自ら頭をぐりぐり押し付けると満面の笑みで応じる。

 いつも憧れていたシチュエーション、彼と二人きりでのお出掛け。

 今日は最高の一日になりそうだ(まあ、狩りだけどねw)。

 

 

 




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