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「私、責められてる?」


「ようやく辿り着いたか……」

「こうして振り返って見ると、感慨もひとしおですね」

「まったくなの」


 俺とハーライト、そしてリンデは岩壁の上でしみじみと述懐する。

 眼下に広がるのは黒いうねりを持つ広大な海。

 荒れ狂う波濤が人々を寄せ付けぬ崖の一角に、龍脈ことレイラインを用いた異界侵略回廊の封印地はあった。


「本当に……本当に大変な旅だったな(ホロリ)」

「自分もこれほど命の危機を間近に感じたのは初めての経験でした……」

「まったくなの……もう二度と味わいたくないの」

「あら、皆大袈裟ね。

 道中の行程は順調そのものだったじゃない」

「「「諸悪の根源が何を言う(のです)(な、なの)!!!」」」

「え、ええ~~~~~私、責められてる?」


 あっけら顔で首を傾げるセラに対し俺を含む三者三様のツッコミが炸裂――

 想定外の反応に戸惑いと当惑の色を隠し切れないセラ。

 まったく……知らぬ存ぜぬは本人ばかり――とはよく言うが、無知は罪だ。

 もっと自覚を持ってほしい。

 事の始まりはここへ来るまでの道中、何故かセラが料理に目覚めたことにある。

 一般食材から錬成(生み出)される形容し難き、おぞましきモノ。

 外見上は料理の皮を被ったそれは、臭いを嗅いだ瞬間から人体に牙を剥く。

 初期の諸症状は手足の痺れに言語障害、視野狭窄に心拍数の異常増加。

 絶対拒否こと絶拒の構えで応じる俺達だったが……僅かな隙を突かれてリンデがやられた。俺が作った飯にセラがこっそり盛りやがった(トッピングした)のだ。

 結果は阿鼻叫喚。

 マスコットキャラクターの尊厳もクソもない白目を剥いて泡を吹くリンデに、俺とハーライトは懸命の解毒作業と胃洗浄を行う。

 どうにか命を取り留めたのは奇跡と呼ばれる分類だろう。

 生還を涙ながらに感謝するリンデを溢れんばかりの祝福を以て迎える俺達。

 そんな一幕を自身の調理したものを口へ運びながら不思議そうに見守るセラ。

 お前の胃はどうなっている、マジで。


「あの時はホントにヤバかったの……

 冗談でなく涅槃を垣間見たの……輝く世界で誰かが手招きしてたの」

「よく生還出来ましたよね」

「ほとんど死に体だったが――ハーライトの応急処置が迅速だったからな」

「要人警護の訓練で慣れていましたから」

「いや、あの手際は実に見事だった。

 お陰でリンデは命を取り留めたよ、マジで感謝してる」

「ありがとうなの! 比喩抜きに命の恩人なの♪」

「いえいえ、滅相もない」

「ねえ、そんな人の料理を毒物か何かみたいに――」

「毒物か何かじゃなく――毒だ。

 いや、もはや毒を超える無差別殺戮兵器であることを自覚しろ!」

「お嬢様、こればかりは弁護できません。どうかご承知願います」

「地獄を見たの」

「でもでも、ホンの序の口だったのよ?

 必殺レシピや確殺シリーズは仕込む時間がなかったし」

「っていうか――普通は料理に【必殺】や【確殺】って単語は出ねえんだよ!

 その時点でおかしいと気付けよ!」

「えっ? そ、そうなの?」

「当たり前だろうが! いい加減学習しろ、馬鹿!」

「だってだって――

 これで好きな人を射(胃)止めなさい、って長老達が――」

「物理的に殺してどうすんだ、くそウルド!

 あと純粋なセラに料理を仕込んだ長老共、滅びろマジで!」

「同感です」

「こればかりは同調するの――死ねばいいの、ホントに」


 刺激臭が入り混じった異臭を放つ携帯食を片手に、糾弾されオロオロするセラ。

 やっぱり故意じゃない天然だな、これは。

 だが――悪意がない分、却って邪悪かもしれん。

 保存食材を無駄に消費され、あやうく飢え掛けた恨みは決して忘れない。

 妙な脱力感を覚えながらも俺達は打倒ウルドに心を通わせるのだった。








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― 新着の感想 ―
[一言] メシマズの里とか毒料理の本舗とか扱われるよなあ
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