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「次回作をお楽しみに」


「最初の威勢はどうしました?

 それとも……その程度が貴方の限界ですか? 息が乱れていますよ」


 涼しい顔で放たれるハーライトの無数の斬撃。

 A級を超え、最早S級に匹敵するその攻勢を俺は辛うじて防ぐ。

 刹那の攻防の最中、俺はこうなった経緯を思い浮かべる。

 セナの下を訪れたハーライトが仲間となり、既に半月が過ぎた。

 達人とでも呼ぶべきその腕前は確かで、道中の安全性は格段に向上している。

 襲い来る外敵や刺客を苦も無く瞬く間に斬り捨てる常軌を逸した技量。

 一身上の都合により彼の存在は気に食わないが……その実力は本物だ。

 物腰も穏やかで年下である俺を侮ることなく公平に接してくれている。

 何より師匠とは違い、純粋に剣技に秀でている存在。

 そこで時間が出来た時を見計らい、稽古をつけてもらうことにしたのだ。

 多分、若干の対抗意識もあったに違いない。

 邪な内心を知らず快諾するハーライトに無邪気に囃し立てるリンデ。

 俺自身剣技に自信があったのでいい勝負になると思っていた。

 だが……結果は無慈悲なくらい残酷で、連戦連敗の瞬殺劇。

 何せ繰り出す一撃一撃が鋭く、そして重い。

 どこまでも基本に忠実であり――それ故に積み上げた鍛練が如実に反映される、正統派特有の実直でありながら論理的で正確な剣技。

 俺の様にあちらこちらを摘まみ食いした邪道とは大違いだ。

 自分が劣勢になっていくのを頭で理解してもどうにも回避できない。

 やがて数合の打ち合いの末、俺の喉元に剣先が突き付けられる。

 詰みの状態だ。


「王手【チェックメイト】です」

「くそっ! また勝てなかったか……」


 僅か5分にも満たない打ち合いだというのに消耗し尽くした身体。

 疲弊し鉛の様に重い筋肉と荒く犬みたいに喘ぐ呼吸が煩わしい。

 残心を怠る事なく周囲を警戒する汗一つ搔かないハーライトとは実に対照的だ。

 目の前に聳える壁はどこまでも高く遠い。

 ハーライトはまさに剣士が目指す理想型の一つだろう。

 ただ良く言えば不屈、悪くいえば諦めの悪さが俺の取り柄である。

 聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥も言うらしいし。

 なので俺は直接ハーライトに至らぬ点を訊いてみる。


「それで……どうだった、今回は?」

「筋は悪くありません。

 さすがは神仙ファノメネルの弟子だけあって基礎はしっかりしている。

 このまま修練を積めばA級も夢ではない。

 ただ敢えて懸念項目を述べるのならば――」

「分かってる。レベルの低さ、だろ?」

「ええ。

 鍛え抜かれた身体に反比例するかのごとく不当に低いレベル……

 ガリウス、もしかして貴方は――」

「それ以上は言わなくていい。

 一族固有の特性みたいなもんだからな――仕方ないさ。

 ただ伸び盛りである10~20代の前衛職ならば、通常自分の年齢+10相当までに引き上げるべきレベルを……俺はまだ20にも満たない値だというのは事実だ」


 冒険者ギルドが定めるレベル。

 それは魂の位階である【オーマ】を以て計測されると師匠から聞いた。

 残念ながら現在の俺のレベルは19。

 生来の勇者であるヴェルダンディ一族を取り仕切る長老共は、お前は大器晩成型なのだから焦ることはない、と気休めを言っていたが――

 同年代の躍進ぶりをみていると不安になったのは確かだ。

 幼少期から親父に鍛えられたお陰で剣技だけは自信があった。

 だからこそ一族を追放されたというより、自分の存在意義が希薄であるが故に居たたまれなくなって出奔したんだろうな。

 そうして生まれたのが、力量が伴わないのに小手先の技術のみが突出し不相応な自信に溢れた新人冒険者。

 しかも初依頼が乱戦上等の大規模討伐戦というおまけ付き。

 三年前の事とはいえ、今考えても無謀としか言いようがない。

 まあ冷静に鑑みれば愚者による愚行だが、幸い命を取り留め俺は生き抜いた。

 師匠と出会い、力量を満たす器も鍛えられた。

 あとレベルアップに必要なのは昇格に相応しい経験と因果――

 即ち業【カルマ】の蓄積なのだという。

 それはまさしく正鵠を射ており、ここ半年で急激に幾つもレベルが上がった。

 師匠との地獄の日々を数年続けても少ししか上がらなかったのに、だ。

 いかに体験する事によって得られる経験が重要か、その特異性が分かる。


「さあ――どうします? まだ時間はありますよ」

「言わずもがな――だ。胸を借りるぜ」

「ええ、構いません

 貴方にはお嬢様の為にも強くなってもらわなくては――」

「??」

「フフ、今は分からなくとも良いです。

 さあ――掛かってきなさい、ガリウス」

「おう!」


 謎の微笑を浮かべ手招きするハーライト。

 そんな彼に対し、俺は雑念を捨て無心で剣を振るうのだった。













「何だか数世代前のバトルものっぽい展開になってるの……

 多分あれ、編集に唆されて無理やり入る修行パートってヤツなの」

「ほらほら。愚痴を言わないの。

 集中しているようだし……二人の邪魔をしちゃ駄目よ、リンデ」

「アタシが見たいのはもっと甘くて切ないラブ臭漂うコメディなの!

 テコ入れを入れ過ぎて糖分過剰過ぎるくらいなのが好みなの!

 暑苦しい熱血や鬱陶しいBSS及びNTRものはノーサンキューなの!」

「う~ん。言葉の意味は良く分からないけど……

 何故かロクでもないという意味だけは不思議とよく分かるわ」

「大体、セナはヒロインとしての自覚が足りな――

 って、何をしているなの……? 

 その紫の蒸気が立ち昇るおぞましい鍋は何、何なの!?」

「えっ?

 ほら、皆忙しそうにしてるから私が料理を~って思って。

 こう見えても結構自信あるんだから楽しみにしてて。

 故郷じゃ【一皿必殺】や【鎧袖一食】なんて呼ばれてたくらいなんだからね♪」

「ね♪ じゃ、ねーなの!

 どう考えても料理に冠する名称じゃないなの!

 ああ~そんなウキウキ顔でもう聞いてないし。

 これはどう見ても終わったの……残念、アタシ達の冒険はここでおしまいなの。

 今迄応援ありがとうございました~次回作をお楽しみに~なの(涙)」






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[一言] 地獄の毒毒料理の使い手じゃったか(スットボケ
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