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「好感度が上昇するの♪」


「はあ……

 何をやっているんだか、俺は……」


 宿の一室。

 簡素なベッドの上に行儀悪く寝転がった俺は、天井を見上げながら一人呟く。

 数時間前に聞いたハーライトの解説……セラの許嫁だという彼の言葉が呪詛の様に耳に残り渦を巻き離れない。

 あの衝撃的な出会いの後――

 俺達はカフェを引き払い、早々に宿屋に戻った。

 新たにセラの護衛につくというハーライトを伴って。

 場が白けてしまったというのもあるし、状況についていけずフリーズしてしまった俺を見かねて「戻りましょう」とセラが声を掛けてくれたのもある。

 まるで木偶の坊みたいな俺を先導するセラ。

 黙々とその後に続くハーライト。

 傍から見れば異様で滑稽な光景だっただろう。

 そうして宿に戻ったのだが、鍵を受け取り後、俺は強引に個室に押し込まれた。

 久々のベッドでゆっくり旅の疲れを癒せ、ということのようだ。

 いつもなら就寝する彼女の近くで仮眠を取るのだが今日は必要ないらしい。

 俺と反対側の個室にはハーライトもいるし結界も張るから心配ないと、と。

 無理に明るく振る舞っているセラの顔を何故か直視できず――

 俺は分かった振りをして大人しく従った。

 そうして不貞腐れた冒頭へと繋がる訳だ。

 大体――何が不満なんだろう、俺は?

 今日からは彼……ハーライトもセラの護りについてくれるのだ。

 身元がしっかりしており、俺以上の技量を持つ彼の護衛参加は喜ばしい事だ。

 その分浮いたリソースを別に回せるのだから。

 だというのに――俺は胸の内に渦巻く衝動に苛まれていた。

 

「何だろうな、これは」


 理屈では納得しているのに何だか釈然としない忸怩たる想い。

 形容し難いドロドロが心の奥でうねりを上げている。

 焦って怒鳴るセラとハーライトの顔が目の前をよぎっていき――

 俺は思わず眼を閉ざした。

 これはもしかして……そういうことなのだろうか……?

 結界に護られた、隣室にいる彼女の事を思う。

 セラの顔や仕草を思い返すだけで胸がポカポカする自分に気付き――

 ハーライトが間近にいた姿を思い返すだけで胸が締め付けられる自分に気付く。

 あまりにも子供っぽく幼い感情。

 独占欲にも似たその衝動は、本来護衛対象に抱いてはいけない感情だ。

 クールになれ、ガリウス・ノーザン。

 ガルティア・ノルンじゃない……その名前は故郷に捨ててきた。

 昔話の英雄ガリウスなら、こういう時にどうした? 何をする?

 そう――まずは警戒だ。

 日中、俺達はわざと能天気に振る舞ってみせた(一部演技でない奴もいたが)。

 アレを気の緩みと思ったなら、必ず仕掛けてくる。

 弛緩した神経が鋼の様に束ねられ強度を増していく。

 極度に研ぎ澄まされた神経が細やかな異常すらも掌握していく。

 ああ、これこそが俺の本分だ。

 そして遂に――展開された警戒網が対象を捉える。


「お客さんだな……いくぞ、リンデ」

「よ、良かったの!

 さっきからマスターに無視されてるので、心配になってきたとこだったの」

「俺がそんなことする訳ないだろう……(お前が有用な内は)」

「今、聞きたくない心の声を聞いた気がするの。

 う~~~これからもアタシ、精一杯頑張るの☆(キラン)」

「して、その本心は?」

「健気な姿をこれ見よがしに見せれば、きっと読者の好感度が急上昇するの♪

 そうすれば出番がうなぎ登りなの♪

 って、待ってマスター! アタシを置いていかないで!」


 念の為、リンデに唱えさせた【サイレンス】の効果は個室内しか効果が出ない。

 ここから先は慎重に進まなくてはならないだろう。

 愛剣を手に取ると俺は物音を立てぬようにそっと部屋を抜け出す。

 食後の幸せに微睡んでいるであろう彼女の――穏やかな眠りを妨げぬ為に。







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