「この身を犠牲にしてでも」
「しっかし随分と買い込んだもんだな……ホントに食べきれるのか、これ」
「あら――贅沢するって言ったじゃない」
「これぐらい余裕なの(フフン)」
「まあ二人がいいなら俺は構わないが……食べ過ぎて体調を崩すなよ?
それじゃ、いただきま~す」
「うん、いただきます」
「なのなの~」
二つ並べたテーブルに所狭しと広げられ芳醇な香りを放つ品々に、我慢も限界に達した俺達は猛然と襲い掛かる事にした。
最初に俺が手に取ったのは甘辛いタレに漬け込んでから焼いた牛・豚串。
これは地元でも時折おやつ替わりに買って食べていたからよく分かる。
噛む度に肉汁が溢れ出し、口内に広がる。
特に好き嫌いは無い俺だが……やっぱり成長期の男として肉は好きだ。
金に糸目をつけず沢山買ってきたので色々な種類を楽しめるのも最高だしな。
こうして口内が肉で埋まってくると、次に欲しいのが炭水化物である。
今回は野菜をふんだんに使った炒飯と魚介の餡かけ焼きソバを主軸に選んだ。
薄塩味のチャーハンも食欲を駆り立てるが、堅いソバの上に掛かったトロトロで濃厚クリーミーな餡が堪らない。
肉と一緒にかきこむ度に至福の音色を奏で始める。
そうして口の中が油っぽくなったら頼んだフレッシュジュースの出番だ。
レモンとミカンを混ぜ合わせたような酸味ある生絞りが口内をリセット。
常に新しい食感を覚醒させていく。
特に熱い⇒冷たい⇒熱いの連鎖はヤバイ。
これにより味覚を際立たせる永久循環が確立している為、無尽蔵に食が進む。
最初は購入した量が多過ぎるかと思ったが、それは懸念であったようだ。
貪欲ともいえる俺達の食欲を前にどんどん減っていく。
気が付けば10人分もあるかと思われた屋台物はほとんど消えていた。
「ふう……美味かったな」
「本当、こういう食べ方(屋台購入)もあるのね。
何だか新鮮な感じだわ」
「同感なの」
「あれ?
異界から召喚されたリンデはともかく、セラも買い食いの経験はないのか?」
「大陸の霊的守護者なんていうと聞こえはいいけど……
基本隠れ里に籠って修行の日々だもの、そんな機会には恵まれなかったわ。
清貧を旨とするからこのような味付けというか工夫は凝らさなかったし。
大鍋で煮込むか、ハーブを巻いてただ焼くだけよ」
「そっか~なるほど。
こういう食べ方は贅沢なんだな?」
「そうね。
今まで貴方が作ってくれた料理も美味しかったけど……
やっぱり町中で食べる品々は別格な感じがするわ。
私だけ贅沢をしているみたいで、里の皆には申し訳なく感じちゃうけど」
「だよな。じゃあセラの残りの分は、俺が――」
「ちょっと待って、ガリウス」
真剣な眼差しで俺を見詰めるセラ。
内容を知らぬ者が見ればまるで告白を行う様にも見えるだろう。
その瞳に映る邪なる想念(食欲)を無視すれば。
「レムリソン大陸の霊的守護を司るウルド一族……そして管理者たる者――
常に清貧でなければならないと思うの」
「そうだな」
「しかし世情をしっかり把握し、民の暮らしを守っていくのもまた管理者の務め」
「ふむ」
「なので私はこの身を犠牲にしてでも、守らなくちゃならないの。
その結果がたとえ苦難を伴うとしても――」
「要約すると?」
「……もっと食べたいわ。
法衣の腰回りがキツイので心苦しいけど」
「最初から素直に言えばいいのに。
ほら、甘いものは別腹だろ?」
「わぁ~ありがと♪」
確保しておいた袋から俺はスイーツを取り出し再度並べていく。
リンゴのタルトに香ばしいクッキー類。
中でも南方地域の名物であるチョコレート菓子は絶品と聞いている。
眼が(><)になり、至福そうな顔で無心に食べ始めるセラ。
うん、どうにもこうにも駄目人間になっているな。
隣りに座るリンデすらも完全に呆れ顔だ。
「セラってば……もうすっかりツンデレ系食いしん坊キャラなの。
最初に構想していたミステリアス美少女の欠片もないの……(さめざめ)」
「まあ、キャラが立つまでは仕方ないよな
ところで――気付いているか、リンデ」
「勿論なの、マスター」
「良かった、平和ボケしている訳じゃないようだな」
「え? それはどういう――」
口元をべたべたにしたセラが俺達の言動の意味を伺うより早く――
「探しましたよ、お嬢様」
という、音もなく俺達の下に忍び寄りどこか憂いを帯びたような男の声が、雨音がリズムを奏でるテラスに響き渡った。




