表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

34/405

おっさん、噛み締める


「だから――ちゃんと自分のベッドで寝ろ、って何度も言っただろう?

 なんでわざわざ狭い俺のベッドに潜り込んで来るんだ!?」


 早朝の台所。

 フライパンを小刻みに揺らしオムレツを引っ繰り返しながら俺は叱責する。

 卵のふわトロ具合の醸し出し以外に余計な気を使いたくはないのだが仕方ない。

 さすがに毎日独身男のベッドに潜り込んでくるのは、未婚女性としても人道的に見てもアウトだからだ。

 時間が経つのは早いもので、この開拓村へ俺達が冒険の拠点を構える様になり、もう一週間が過ぎた。

 村人との関係は非常に良好で、三人も溶け込むように受け入れられている。

 わざわざ三人の為にログハウスを増築し家具まで揃えてくれたぐらいだ。

 良くも悪くも単純な奴等だし、擦れていないとこが素朴な人々と合うのだろう。

 俺としては今後もこの雰囲気を維持していきたい。

 だというのに――こんなふしだらな一面を覗かせては、俺だけならまだしも三人の評価まで下がってしまう。

 あまりうるさくは言いたくはないが――

 年長者としてそういったところはしっかり窘めなくてはならない。

 しかし――テーブルで皿を並べ、採れたて野菜のサラダを寄り分けていた三人は三者三様に反論してくる。


「だって……

 おっさんのベッドが一番安心できるんだもん(主に匂い的に)」

「シアの言う事は的確。

 あれはヤバい――標準よりも高いガリウスの体温と併せ、人を堕落させる魔物」

「ガリウス様のお傍がわたくし共にとって一番癒されるのですよ?

 探索で疲れた心と身体を回復する為――

 そう、パーティのリフレッシュ対応策として是非とも認めてほしいですわ」

「あのな、お前ら……」


 悪びれた様子もなく素敵な笑顔で応じる三人。

 俺は頭痛を堪えながら幾度目になるか分からない溜息を零す。

 あの13魔将との戦いの後――三人に対し俺は告げた。

 魔神共との因縁、俺の宿業を。

 今回、魔将の策謀により開き掛けていた魔神皇が眠る城へのゲートは完全に閉じこの地での魔神皇復活は阻止出来た。

 しかし広いこのレムリソン大陸の何処かでは封印を免れた魔将達が暗躍しているに違いない。

 可能ならばこれからはその目論見を潰す旅をしたい、と。

 三人は初めて自分から弱みを見せた俺の態度に何故か滅茶苦茶喜び、心から賛同してくれた。

 ただ――その際に問題となったのは開拓村の存在である。

 この村で俺の占める何でも屋的な位置は結構重要になってきている。

 いきなりじゃあこれで、では村の人々も困るだろう。

 思案に暮れる俺だったがリアが不思議そうに突っ込んできた。


「――ん。何を悩むか疑問。

 転移魔術でその都度、村に戻ってくればいいのでは?」


 お、おう――

 俺的には完全に盲点だったよ。

 まあ確かに、言われてみればそれもありか。

 魔導学院のお偉いさんには怒られそうな魔術の使い方だが。

 かくして俺達は、日中はハードな探索業――夜間は転移用ポータルを刻んであるこの村へ寝に帰るという生活を開始したのである。

 今日は記念すべき初の休息日だ。

 溜まった村の仕事を片付けようと、息巻いていた矢先の寝起きトラブルである。

 俺でなくとも朝からドッと疲れるってものだ。


「まあお前らがそう言うならいいが――

 いや、よくないな。せめて俺に相談してからにしろ。

 朝起きたら誰かが傍にいるという状況は、予告なしだとマジで心臓に悪い」

「は~い」

「ん」

「了承致しました」

「しかし――よく毎回俺に気付かれず潜り込んでこれるな?

 こう見えて俺は気配に敏感で、すぐ覚醒するんだが――

 まっいくらお前達だって、まさか添い寝したいという下らない理由でスリープの呪文を使ったり眠り薬を盛ったりは……

 ――って、何故顔を背ける!? 何故汗をダラダラ流す!?」

「な、ナンノコト?(ガクガク)」

「よ、よく分からない。意味不明(汗)」

「ば、バレなければ犯罪ではない――もとい、わたくし達がやってないという証拠を提示されなければ立証されませんわ!」

「開き直った犯罪者か、お前らは――

 まあいい。追及は後にして、まずは朝飯にするぞ。

 ほら、今朝の飯は――特製ふわトロオムレツのデミグラスソース乗せ、だ。

 焦がさないよう丁寧に飴色になるまで炒めた玉ねぎが極上のハーモニーを奏でるくらいの美味さを引き出す逸品だ。

 俺の我儘で迷惑を掛けてるからな。

 せめて休息日くらいは手間暇掛かった飯を食ってくれ」

「わあああああああああ!

 匂いだけでボクもう駄目だぁ!!」

「くっ……ガリウスは鬼畜。

 朝から乙女心を殺す気満々」

「体型の天敵……(ごくり)

 でも全敗もやむなし、ですわ」

「仇敵の様な不穏な物言いはいいから席に就け。

 冷めない内にさっさと食べるぞ。

 ほれ、いただきます」


「「「は~い。いただきま~す!!!」」」


 美味しい美味しいと賑やかに騒ぐ三人と卓を囲みながら――

 朝食と共に俺は掛け替えのない日々の幸せを噛み締めるのだった。

 

 

 


お陰様で日間コメディランキング2位です!

第二部再開のご祝儀なのか、おっさんと三人娘のとの〇〇が理由か不明ですが。

面白いと思ったらお気に入り登録と評価をお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] さすがに毎日独身男のベッドに潜り込んでくるのは、未婚女性としても人道的に見てもアウトだからだ。 じゃあ全員、「独身男」でも「未婚女性」でも無くなれば万事解決だぞ? 結婚!ケッコン!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ