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新米の面倒を見る事になったおっさん冒険者34歳…… 実はパーティメンバーにヤバいほど慕われていく⑧


「大気に満ちるマナよ、紫電を纏いし槍と化せ……【稲妻】ライトニング!」


 戦いの口火を切ったのはミザリアさんの唱えた【稲妻】の呪文だった。

 小鬼に向け指し示した杖の先に青白い輝きが灯るや、空気を裂く轟音と共に魔力で生み出された雷が解き放たれる。

 洞穴前に二匹いた見張りの小鬼の内、直撃を受けた一匹は全身を感電させ瞬時に黒焦げになった。

 物を言う間もなくその場に倒れ伏すゴブリン。

 傍らにいたもう一匹も勿論無事ではすまない。

 何かを叫び警告しようとするも、稲妻の余波を受け身体が痺れて動かない様だ。

 無論――そんな隙を逃がすようなボク達じゃない。


「たああああああああああああっ!」


 祖父が使っていたという長剣を振りかざし、案山子みたいに立ち尽くす小鬼へと袈裟懸けに斬り掛かる。

 初めての実戦だったけど、ここ数週間おっさんに鍛えられた身体は裏切らない。

 血と汗の滲む努力と共に身に着いた太刀筋を描く腕は淀みなく動き――

 さらに魔力付与が為された長剣は小鬼の貧相な体躯を抵抗なく両断した。


「あっ……アレ?」


 あまりの抵抗の無さに思わず手元を凝視する。

 積み重ねた努力は裏切らないというおっさんの言葉は本当だった。

 ホンの数か月前まで英雄に憧れるだけの少女は一端に戦えるようになっていた。

 何より初陣での初白星。

 夢にまで見た初の討伐依頼と実戦。

 だというのに――長剣を握るボクの腕は小刻みに震えていた。

 足元に転がる小鬼の死体。

 狩猟で仕留めた獣とは違う、人型が損壊した姿に嫌悪を覚え――

 喉元にせり上がってきた胃液を強引に飲み返す。

 嫌な味と感触が熱く喉を刺激するけど――今は感傷に浸っている場合じゃない。

 戦闘音を聞きつけ、洞穴の中から数匹の小鬼が飛び出してくる。

 その数は5匹。

 群れ全体でも十に満たないという予想は当たっていた。

 良かった……これなら駆け出しのボク達でも何とかなる。

 ボクも半人前程度には動けるし、何より仲間の二人は既に一人前レベルだ。

 けど――戦槌を構えてるフィーナさんは後衛であるミザリアさんの護衛に入っている以上、ボクが前衛を受け持たなくちゃならない。

 幸い狭い洞穴で戦わなくてすんだので剣の振り回しには困らないのが助かる。

 長剣を構え直したボクは、徒党を組んで襲い掛かってくる小鬼達目掛けて呼吸を整えつつ迎え撃つ。

 ドクドクと脈打つ心臓。

 ガンガンと耳鳴りのする頭。

 うるさいよ……今は戦闘中なんだから、静かにして!

 理不尽なボクの感想に応えるかのように思考が真っ白になり何も感じなくなる。

 接敵前に再度放たれるミザリアさんの【稲妻】。

 それは5匹中2匹に当たり、見事仕留める。

 さらに戦況を見ていたフィーナさんから【祝福】の支援法術が掛かる。

 全身を包む神聖なオーラ、それは攻撃力を高め防御性能を向上させるという。

 これならば、何とか――

 無我夢中になったボクは自身の身体機能を最大限躍動させ――残りの三匹を相手取る。

 十数秒後……そこには躯と化した小鬼達の死体が転がっていた。

 まるで夢を見ている時のようにフワフワする足元。

 対照的に獣みたいに荒く喘ぐ呼吸に、今が現実だと思い知る。

 ボクが望んでいた、怪物を華麗に倒すカッコいい勝利はそこにはない。

 だけど――ボクはやった、やり遂げたんだ。

 無事生き延び依頼を達成できた……

 これで晴れて、おっさんに胸を張って向き合えるんだ!

 充実した達成感と共に、感慨深くそう思った瞬間――


「きゃあああああああああああああ!!」


 絹を裂くようなフィーナさんの悲鳴が背後に響き渡る。

 な、なにが!?

 急いで振り返ったボクの前に映ったもの――それは、まるで馬みたいな下半身を持った小鬼がフィーナさんとミザリアさんの身体を突進で跳ね飛ばす瞬間だった。

 宙を舞う二人の肢体。

 乱暴に地面へ落ちると数回バウンドする。

 

「ふ、二人とも――大丈夫!?」

「ん。咄嗟に魔力障壁を展開した」

「ええ。お陰で直撃は避けられましたわ」


 地面を転がった二人は咄嗟に起き上がり各々の武器を構える。

 良かった。ミザリアさんの防御呪文で大きな怪我はないようだ。

 しかし――こいつは一体なんなんだ!?

 まるでケンタウロスみたいな体型だけど……

 戦闘中で周囲に対する警戒を疎かにしていたとはいえ――

 一瞬にして戦場へと駆け込んでくる機動力といい、ただの小鬼じゃない。 

 そんなボクの疑問にミザリアさんが答えてくれた。


「アレは……間違いなくゴブリンライダー【亜種】」

「【亜種】!?」

「そう、狼に跨った通常のゴブリンライダーとは違うユニーク妖魔。

 まるで何かに乗っているかのように独自の進化を遂げた個体。

 この地方では極稀に出没すると調べに出ていたのに……忠告が遅れた。

 その強さは恐らくC級に匹敵し、今の自分達では手を焼くレベル。

 道中機会があったのに伝えられなかったこれは、あたしの伝達ミス――ごめん」


 悔しそうに唇を噛むミザリアさん。

 実力的には問題ないとはいえ、経験が足りないと自嘲する二人。

 それだけ凄いのに何で謙遜するんだろうと思っていたけど……

 今になって分かった。

 ただ力や知識があるだけじゃダメなんだ。

 効率的に活用しなければ全て意味がない。

 実戦を経て活かされた経験こそが血肉となるのだから。

 獰猛な唸り声をあげ旋回し、再度チャージ(突進攻撃)をかけてこようとする、ゴブリンライダー【亜種】。

 悠長に反省している場合じゃない。

 今はこいつを何とかしないと!

 ボク達は頷き合うと、襲い来る脅威に立ち向かうのだった。






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