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新米の面倒を見る事になったおっさん冒険者34歳…… 実はパーティメンバーにヤバいほど慕われていく⑦


「うう~ちょっと腰が痛いかも」

「同感。乗合馬車は格安で便利だけど乗り心地が最悪」

「さすがに長時間乗り続けるのは勘弁願いたいですわね」

「む~二人が移動魔法を使ってくれればな~」

「魔法でなく魔術。

 あと、転移は高難度。今のあたしでは理論はともかくレベルが足りない。

 あれは本来【賢者】クラスの大魔術。気安く扱うべきものじゃない」

「わたくしも【帰還】の法術を扱うには敬虔さが足りませんし……

 主の加護は遍く地に満ち足りてますけど……残念ですが汲み出すわたくし自身の力がまだまだ未熟ですの」

「そうなんだ……何でも出来る訳じゃないんだね、魔術も法術も」


 揃って背伸びをしながらボク達はそんな愚痴を口にする。

 街道を行き交う乗合馬車に揺られる事、数時間。

 ボク達は辺境と言っても過言ではない辺鄙な場所にある開拓村に到着した。

 緊張からか、いつになく無駄にお喋りが多くなるのを実感する。

 その一因は多分――おっさんにあると思う。

 何故ならおっさんことガリウスさんが、道中一言も喋らなかったからだ。

 決して不機嫌な訳じゃない。

 いつも通り鋭くも優しい眼差しでボク達を見守ってくれている。

 でも――何かを見定めるかの様に、敢えて寡黙を貫き通している感じだ。

 普段なら色々な経験談や失敗談をユーモアを交えて話してくれるのに……

 ううん、弱気になっちゃ駄目だ。

 今日の依頼に関してボク達に任せるとおっさんは言ったじゃないか。

 ならその期待に応えないと!

 ボク達は目線を合わせ頷き合い、通りかかった村人さんに依頼を受けた冒険者であることを告げ、村長さんを呼んでもらう。

 依頼者である村長さんから被害状況を確認する為だ。

 慌ててやってきた初老の村長さんは涙を浮かべながら語ってくれた。


「なにとぞ……

 何卒よろしくお願い致します、冒険者様」


 早速討伐へ赴こうとするボク達に向かって、村長さんは深々と頭を下げる。

 その顔色はかなり悪く、言動の端々にも心労の色がありありと窺えた。

 見送りに集まってくれた村人の皆さんも一様に不安そうな顔をしている。

 そっか……ボク達冒険者にとっては何気ない討伐依頼の一つ。

 小鬼退治なんて定番過ぎて、あまり危機感すら感じないものだけど……

 でも――戦う力を持たない人々にとっては恐るべき怪物なんだ。

 抗う術がなければ命を脅かされる存在。

 怪物の気紛れでいつ奪われるかもしれない命。

 果たしてそれはどれほどの恐怖なのだろう?

 英雄譚の上辺だけに憧れていた、数か月前までの自分が恥ずかしくなる。

 華々しい活躍にばかり目がいって――ボクは英雄によって救われた人達のことがしっかり認識出来ていなかった。

 偉業の陰には苦しんだ人達の血と汗と涙がある。

 史実に語られず軽く流されてしまった人々の苦悩。

 その中にはきっと、ここ2カ月で親しくなった街の様な人達もいたに違いない。

 ならば――ボクはまず身近な人を救えるよう、強くならなきゃならない。

 怪物に脅かされた人々が、心からの笑顔を取り戻す手助けをする為に。

 今は只の小娘にしか過ぎなくても……

 それはボクにとって掛け替えのない誓い。

 祖父が扱っていた長剣の感触を背にしながら、ボクは装いも新たに歩を進める。

 胸の内で熱く燃える、炎のような闘志を心へ灯しながら。













「もうまもなく目撃情報のあった洞穴ですわ」

「フィーナさんが下調べをしてくれたお陰で迷子にならずに来れたね」

「詳細な情報は何にも勝る貴重な物、称賛」

「うふふ、よしてくださいな。

 わたくしはおおよその地図を調べて、後は先程村人の皆さんに伺っただけですし……そういえば、リアさん?」

「なに?」

「この付近の危険生物について調べてらっしゃいましたが――

 何か該当するような存在はいました?」

「ん。実は気になる記述を発見した」

「あら、なんですの?」

「小鬼殺しの異名を持つA級冒険者の手記の転写がギルドにあった。

 その情報によると、この付近には極稀に――」

「し~~~~~~っ。

 お喋りはそこまでだよ、二人とも」


 二人とおっさんに先行する形で、斥候というか野伏の真似事をしていたボクは、遥か遠くにゴブリンの姿を捉える。

 数は二匹。

 粗末な腰蓑にこん棒で武装している。

 おそらく洞穴を守る歩哨なのだろう。

 夜行性な為か、時折欠伸をしておりやる気はなさそうな様子。

 おまけに向こうはこちらには気付いておらず、風下ということもあり、匂いでもバレそうにない。

 つまり絶好の先制攻撃のチャンスを得た訳だ。

 そして幸いな事に洞穴はあまり深くなく、薄暗闇の中に窺える感じから小鬼達の総数は10には満たないと思う。

 これは正直嬉しい誤算だ。

 洞穴が深く洞窟になっていったら暗闇の中で遭遇戦になっていたかもしれない。

 言葉を遮ってしまったけど、ミザリアさんの言い掛けた小鬼殺しのA級冒険者の手記は有名で、ボクも前にちらっと読んだ事がある。

 それによると、ゴブリンは弱い。

 人族の子供くらいの力と知能しかない妖魔だ。

 でも――それは逆に言えば道具を扱う人族の器用さと、幼少期の子供特有の悪質さと残虐さを兼ね備えるということ。

 その手記内でも根城となる箇所における罠や強襲の危険性などについては、再三忠告されていた。

 ならば立ち入らないのが一番。

 背後を振り向いたボクは二人の意志を確認。

 乗合馬車に揺られてきた道中に時間があったので事前に幾つかの戦闘パターンを想定し、既に打ち合わせ済みだ。

 これなら奇襲パターンの戦術が使える。

 フィーナさんとミザリアさんは無言で了承を返してくれる。

 最後におっさんに向かい意向を確認。

 おっさんは策を肯定するのでも否定するのでもなく――思う存分やってみろと、ばかりに頷いてくれた。

 ならばあとは覚悟を決めて飛び込むのみ――

 そう、視えざる賽は投げられたのだから。

 ボク達は頷き合うと、各々事前に打ち合わせした行動へと移るのだった。









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