新米の面倒を見る事になったおっさん冒険者34歳…… 実はパーティメンバーにヤバいほど慕われていく⑤
「ごめん、ごめん二人とも。
お風呂が気持ち良過ぎてつい長湯しちゃったけど……お待たせしちゃった?」
「ん、大丈夫。実はそんなに待ってはいない」
「そうなの?」
「ええ。わたくし達も丁度着替えを終えて、髪を乾かしてきたところですわ」
「あ~なるほどね。結構手間なんだよね、髪を乾かすのって。
温風魔導機はあるけど有料だし……でもタオルで挟み込むのも面倒だし」
「仕方ありません。
手間を掛けなければ磨かれない……それが身だしなみというものですもの」
「まあ面倒であることは賛同する」
「ボクみたいに短い髪にすればいいのに。
便利だよ~この長さ。すぐに乾くからギリギリまでお風呂に入ってられるしさ」
「再考の余地はある。けど呪術的な観点からは難しい」
「呪術的な観点?」
「そうですわね。
髪は女の命……なんて古いことは言いませんけど、女性術者の長い髪はそれだけ魔力を蓄えやすい傾向がありますの。
いざという時の切り札として髪を長く保つのは術師としての基本ですわ」
「うわ~術師って大変だね」
「要は慣れの問題。シアも術を学べば分かる」
「え~ボク、頭悪いから魔術とかは無理だよ」
「あら、そんなことはありませんわ。
貴女の潜在魔力はかなりのものと推定されます。
ガリウス様もシアの今後に期待されているようですし」
「でもボク、前衛が希望なんだけどな~」
「ならば剣技も魔術も扱えるようになればいい。
シアの目指す勇者職は魔剣士からクラスチェンジする者が多い。
魔術を学んでおいて損はないはず」
「うう“……頑張ります。
って、そういえばおっさんは?」
「ギルドに用事があるとか言って、そそくさと出掛けた」
「せっかく仕事を終えた後の打ち上げですのに」
「も~~~~~おっさんのバカ!
パーティ【気紛れ明星】の仕事終わりは必ず宴をするって言ったのは自分なのに。ならさ、罰として先に始めちゃおうか?」
「それは名案。空腹がマックス。
丁度料理も運ばれてきた」
「こないだのシアの話じゃありませんが……
ホント、一仕事終えた後のご飯とかお酒は格別な気がしますわ」
「良く働いてよく食べる――うん、最高だね。
じゃあ今日もボク達【気紛れ明星】の依頼成功を祝して――かんぱ~い」
「ん。乾杯」
「乾杯です」
「じゃあ早速いただきま~す。
あっ、このリゾット美味しい♪」
「新メニュー、寄せ集め茸のフリッターもイケる」
「ちゃんとバランス良くお野菜も食べないと駄目ですよ、二人とも」
「フィーはいつも一言多い。まるでお母さん」
「確かにそうかも。ならリアは長女でボクは次女で末っ娘かな?
お父さんは勿論おっさんで」
「おっさんが父……悪くないけど、何故か反抗期を迎えそう」
「もう~何を言ってますの(照れ)!
ほらほら、冷めない内に食べてしまいましょうよ」
「賛成~。じゃあ改めて――
って、ちがあああああああああああああああああ~~~~~うっ!」
「し、シアさん!?」
「どした、急に?」
「仲良く団らんしてる場合じゃないよ!
ボク達よく考えたらこの二カ月の間、筋トレと労働しかしてないじゃん!」
「い、言われてみれば……」
「なし崩し的な日々を過ごしていましたけど……確かに」
「ボク達冒険者なんだよ!? なのに全然冒険してなくない!?
いや、街の人達とは確かに仲良くなったけどさ」
「ん。シアの指摘通り」
「すっかり失念してましたわ。
それだけ毎日が充実していた証でしょうけど」
「そこは否定しないけどさ。でも――ボクは冒険者としてもっと活躍したい!
討伐依頼とか遺跡の探索とかしたい。
こうなったらおっさんに直談判してでも、冒険に……」
「あ~何だか盛り上がってるところ申し訳ないが――その必要はないぞ」
「おっさん!?」
「ガリウス!?」
「ガリウス様!?」
シア達の威勢のいい声が公衆浴場付き食堂の外まで漏れていた為、会話の内容を把握していた俺は苦笑を浮かべながらテーブルに向かう。
そこでは今日の依頼を終え、一風呂終えた三人が驚いたように俺を見ていた。
俺はゆっくり椅子に腰かけると三人を挑発的に見据える。
「そろそろ爆発する頃とは思っていたが……随分持った方だな」
「あのさ、おっさん。ボク達――」
「ああ、皆まで言わなくていい。
俺が三人に問うのは覚悟だ――冒険をしたいか?」
いつになく真剣な俺の声に、三人は気勢を削がれながらも力強く頷く。
その返事を待っていた――
何せその為に冒険者ギルドまで足を伸ばして来たんだからな。
「ならば朗報だ。
二か月間、文句も言わず本当によく耐えたな。
この期間は別名【試しの期間】とも称されるくらい、我慢のし時ではあるんだが……ホントよく耐えた。堪え性があるかどうかを見定めるテストでもあるしな。
その働きぶりと仕事に対する真摯な姿勢がギルドで評価され、遂に昇格――
FランクからEランクへと昇格になったぞ。本当におめでとう」
俺はギルドから受領してきたばかりの新しい冒険者証を三人へ示す。
お試しとも見習いとも称されるFランクは、トラブルがあっても使い捨て出来るよう粗末な木に記された最低限の情報だ。
だが俺が今、三人の名代として預かってきた金属板の冒険者証は違う。
そこには偽造防止から現在の確認まで最新の魔導技術が扱われたある意味本物のライセンスだ。
これを手にするまでが駆け出し新米冒険者にとっての一山ともいえよう。
各自へ差し出した冒険者証を手に魅入られたように呆けて見入る三人。
まるで欲しかったおもちゃを与えられた子供のようだ。
頑張りが報われる瞬間というのは、いつ見ても微笑ましいものである。
純なその反応に対し俺は心から三人の頑張りを祝福しつつも――これから彼女らの身に待ち受ける試練を思い、貌には出さず内心眉を顰めるのだった
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