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新米の面倒を見る事になったおっさん冒険者34歳…… 実はパーティメンバーにヤバいほど慕われていく②


「お帰りなさいませ、ご主人様!」


 シックな装いで彩られた店内には場違いとも思われる快活な声が周囲へ響く。

 愛想の良い笑顔を浮かべ溌溂とした様子で来客者を迎えているのはシアだ。

 接客に関する経験不足からか、ややぎこちない感じはするものの……向日葵の様に明るく元気いっぱいの挨拶に来客者も顔をほころばせている。

 しかし問題が一つ。

 勢いよくお辞儀する度に、フォーマルな制服の丈を詰めミニ風の着こなしをしているスカートの端がめくれ上がってしまうのは、傍から見ていて心配になる。

 もう少し歳頃の娘としての恥じらいと自覚を持ってほしいものだ。


「……こちらへどうぞ(ぼそっ)」


 出迎えたお客様を空いているテーブルへと案内するのはミザリアの業務である。

 魔導学院でマナーの基礎を学んだのか、慇懃無礼にならない程好い作法。

 しかし――その応対は良くない。

 誘導時には声を掛けて丁重にご案内するべきなのだが……生来の引っ込み思案な性分なのか恥ずかしがり屋なのか、お客様が聞き取れるギリギリの声量なのだ。

 幸い今の所は常連ばかり来ているようだから大きな問題は起きてないが、初見客の心を掴むのはそういった細かい心遣いである。

 勉強ばかりの生き方で人と関わるのが苦手なのは分かるが……これも仕事だ。

 金銭を受け取る以上、然るべき対価を支払わなくてはならない。

 この場合は望まれる役割をしっかり熟す事だ。

 折を見て指摘していかなくてはなるまい。


「本日は御来店頂き、まことにありがとうございます。

 こちらメニューとおしぼりです、お手元にお気を付けください。

 えっ、何を頼めばよろしいか――ですか? 

 そうですね……もしご注文でお悩みならば出来立てミートパイとミントティーのセットがお勧めでございますわ」


 ぎこちなく不慣れな二人とは対照的に、最早本職の域に達しているのではないかと錯覚する程に巧みな接客でオーダーを熟しているのはフィーナである。

 礼儀にうるさい貴族の子女だった経緯もあるし、安息日に教会へ訪れて祈りを捧げる信者に対する常日頃の対応が物を言っているのだろう。

 確かヴァレンシュアの婆さんの話では、先日説法の免許も取ったとか聞いた。

 生き方に悩む人々に助言する説法の免許所持者にとって、メニューの選択に悩む者へ対するアドバイスなどはお茶の子さいさいなのだろう。

 さらに背筋がピンと伸びていながらもお客様にきちんと目線を合わせ、返答を急かさずに穏やかな微笑を浮かべて待っているのもポイントが高い。

 ただ……難を言えば厨房との連携不足だな。

 非常に上手な受注だが――気を良くした客が頼んだ多量のオーダーに処理能力が追い付かず、アレではいずれ渋滞を起こしてしまうだろう。

 こうして見るとまさに三者三様といった応対だが……課題が見えて来たな。

 ギャルソンとして厨房と食堂を行き来し――三人のフォローに入りながら、俺はこの依頼の事を話した時の事を思い返すのだった。













「め、メイド喫茶の手伝い!? 何それっ!」


 三人が奏でる黄色い悲鳴が綺麗に唱和した後、一際大きく絶叫に近いシアの声が冒険者ギルド内に設けられた酒場に漂う喧騒を切り裂く。

 いったい何事かと注目を集めるが、俺が人差し指を唇の前で立ててサイレントを促すとシアは慌てて口元を押さえ周囲に頭を下げる。

 程なくして好奇心に満ちた瞳は興味を失ったように霧散した。

 陽気に騒ぐのはギルド内では日常茶飯事だ。

 酒に酔っての刃傷沙汰などは御法度だが、喧嘩などは法術で癒せない重傷者でも出ない限りギルドも黙認している。

 批難がましい視線を向けてくるシアに俺は苦笑しながら依頼書に指を置く。

 俺が指し示したパーティとして初仕事となる依頼――そこにはこう書かれている【メイド喫茶への人材派遣~ホールスタッフとしての接客業務 Fランク】と。

 シア程でないが他の二人も了承をしかねているといった顔だ。

 まあ、無理もない。

 新米剣士と導師候補生、聖女見習いが揃っての初仕事が――何故メイド喫茶でのウエイトレスもどきなのかと不服なのだろう。

 その理由をここで述べてもいいが……それでは意味がない。

 よって俺は強硬に押し通すことにした。


「――どうした、何か不満か?」

「いや、そういう訳じゃ……」

「ん。そんな事はない。けど」

「せめてこの依頼を受ける理由を知りたいと思いますの」

「胸躍る様な冒険を夢見るのもいい。

 だが――冒険者は地味な信頼の積み重ねこそが重要だと俺は考える。

 何よりお前達は今日本格デビューしたばかりの新人だ。

 ギルドの規定上、いきなり討伐依頼は受注できない。

 以上の理由から俺はこの依頼が適正だと考えた。報酬もいいしな。

 俺達は仙人じゃないから霞を食っていく訳にはいかない。

 重要なのはリスク(依頼)と得られるリターン(報酬)のバランスだ。

 無論、安全面などに対する質疑応答は今後も必要だろうが……リーダーとして俺を選んだ以上、その方針に賛同出来ないなら――仕方ない、パーティを去れ」


 突き放すように幾分か冷たい声色を意識する。

 年長者として今まで温和に接してきた分、三人には手厳しく聞こえたようだ。

 一様に口を噤み、落ち込んだように俯いてしまう。

 ふむ、どうやら荒療治が過ぎてしまった。

 恫喝し委縮させマウントを取る様な浅はかな考えではないのだが……

 けど――ここで甘い顔を見せると今迄のやり取りが無駄になるので、俺は敢えて事務的な態度で話を先へ促していく。


「出ていかない以上、不満はあるが不服はないという事でいいな?

 ならば俺達の初仕事として――この【メイド喫茶手伝い】の依頼を受けるぞ」

「お、おっさんの圧が強い」

「ん。でも……強引なのもいい、かも」

「オラオラな俺様系も、あり寄りのあり――ですわね」


 いつになく強く出た俺の言葉に対し、三人は気圧された様に眼をぱちくりさせて小声で何かを呟きながらも頷くのだった。







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[一言] おっさん、メイドになるのか(スットボケ
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