新米の面倒を見る事になったおっさん冒険者34歳…… 実はパーティメンバーにヤバいほど慕われていく①
「ああ……やっぱりいいな、この感じ」
激しく行き交い周囲に響き渡る喜怒哀楽に満ちた喧騒。
決して狭くない空間で奏でられるのは――様々な願いに彩られた杯への想い。
それは自らの依頼達成を喜ぶ祝杯であり、あるいは不幸にも亡くなった仲間に対し祈りと共に捧げる献杯である。
冒険者ギルドに併設されているこの酒場はそんなざわめきが支配していた。
この雰囲気を懐かしいと感じる俺は根っからの冒険中毒なのだろう。
冒険者はギルド(ここ)で夢と野望に燃え、時に目的を叶え時に散っていく。
まるで人生を濃縮したようなこの環境が何故か無性に愛おしい。
「……大丈夫、おっさん?
さっきから何だか心ここに在らず、って感じだけど」
「おう、すまんすまん。
心配掛けるな、アレクシア」
「もうっ!
ボクの事はシアって呼んでいい、って言ったのに!」
「悪いな。まだ会ったばかりだからな、そう簡単には馴染まないさ。
まぁ――早く慣れるよう努力するよ」
「ならばいいけどさ。
でも……本当にさっきからどうしたの?
いつも泰然としているおっさんっぽくない感じ」
赤毛で短髪のアレクシアは体付きが貧弱なのと男装しているせいもあり、パッと見は成人前の美少年にしか見えない。
そんな子が間近に顔を寄せて囁かれているとあらぬ誤解を受けそうだな。
俺は苦笑を浮かべるとアレクシア――シアの肩にポン、と手を乗せた。
「俺も34歳のおっさんなんでな……色々思うところがあるのさ」
「どういう事?」
「あら……それってわたくし達が一緒だからでしょうか?」
心配そうな顔で俺に尋ねて来たのは聖女見習いに昇格したばかりのフィーナだ。
彼女とは何だかんだ子供の頃からの長い付き合いだが……随分成長したもんだ。
貧相な孤児だった頃に比べ背が伸び丸みを帯び、すっかり女性らしい体型だ。
元々端正な顔立ちをしている為、周囲の荒くれ達の注目を惹いている。
「ん。もしかして……迷惑?」
同じく心配そうな表情を浮かべるのは賢者候補生であるミザリアである。
成人を迎えたばかりとはいえ、利発そうで容姿端麗たる佇まいは確かにこの酒場では浮いており……フィーナ同様に無遠慮な眼差しが注がれている。
基本的に体が資本である冒険者にとって女性――しかも美貌の持ち主となれば、レアリティは跳ね上がる。
女気の無い奴等がそわそわするのも無理はない。
俺は苦笑を深め首を左右に振り否定すると、場馴れしてない皆を安心させる為におどけるように肩を竦める
「全然そんな事はないさ。
ただ――何とも言えぬやっかみを先程から感じているがな」
「確かに怨嗟に満ちた視線を感じますわ」
「ん。なんであんなおっさんにばかり――という嘆きの呪詛を孕んだ声を聞いた」
「ふふ~ん。ボク達が魅力的だから仕方ないよね♪」
「あっ、あの……アレクシアさん?」
「なになに、フィーナさん?」
「大変申し上げ辛いのですけれど……」
「うん?」
「あの赤毛の子は残念、と仰ってますわよ?」
「ん。同意。
顔はいいが身体が貧弱、数年後に期待――とデリカシーの無い事を言っている」
「む、むきいいいいいいいいいいいいいいいい!
今に見てろよ――くそぅ!
絶対ナイスバディのおねーさんになって見返してやるぅ!」
「ほらほら、意気込みは分かるが……まずはこっちの方が優先だ」
「は~い」
「聞き分けが良くてよろしい(うむ)。
さて、先程も言ったがこれからお前達の冒険者として初の依頼を受注する。
ギルドの規定通り、Fランクの依頼からスタートだ。
D級の俺が仲間という事で最大Eランクまで受注する事が可能だが……
まずはランクに応じた実力を身に付けねば話にならん。
受付嬢であるメイアによる冒険者登録時の説明内容は覚えているな?」
「ああ、あのおっさんと意味深な感じの人の?」
「あらあら。
それはどういうことですの、アレクシアさん」
「ん。学術的にも非常に気になる。もっと詳しく」
「えっとね……」
「こら、話に集中しろ!」
「うう……ごめんなさい」
「す、すみません」
「ん。申し訳ない」
「まあいい。
それで、だ。依頼を失敗するだけでなく取り返しが付かないとなると違約金と共に貢献点を喪う。違約金も痛いが――貢献点を喪うのが実は一番痛い。
貢献点とはいわば冒険者個人に関するギルドの信頼度だ。
信頼のない者に重要な仕事は任せられないだろう?
駆け出しのお前らに言ってもピンとこないだろうが……これが将来的に昇級に、かなり響いてくる。依頼者である民衆からの信用にも繋がるからな。
勿論、丁寧で満足度の高い仕事をすれば加点もされる。
力だけの荒くれ者はいつまで経っても昇級出来ない――と、そういう事だ」
俺の言葉に成程、と納得する三人。
そして何故か同様の表情と傷ついた顔を浮かべる盗み聞きしていた周囲の奴等。
中には身に覚えがあるのか、云々頷きながら自身の至らなさを反省し始める。
……自覚があるならまだやり直せるだろう。
何故か流れ弾による撃沈者を出しながら俺は話を締める。
「――という訳で、だ。
高難度の依頼を受けても完遂出来ないのでは意味がない。
だからお前達の――そして俺達のパーティとして受ける初の依頼はこれにした」
「何かな何かな?
定番のゴブリン退治? もしかして廃墟の探索?」
「気になりますわ」
「ん。興味深い」
俺の手にした依頼書をまじまじと覗き込む三人。次の瞬間――
「「「ええええええええええええええええええええ~~~~~~~!!!」」」
驚きと困惑に満ちた黄色い悲鳴が酒場に響き渡るのだった。




