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おっさん、返答できず


「おっちゃん、ごちそうさま~」

「ご飯、美味しかったよ~また作ってね~」


 湯上りでポカポカに上気した顔で礼を述べに来る子供達。

 俺は洗い物をする手を止めると、膝を折って目線を合わせる。


「おう、満足したなら何よりだ。

 気に入ったなら今度は違うのをご馳走してやる。

 ほら――風呂も入ったんだし、湯冷めしない内に早く寝ろよ」

「は~い」

「わ~い、楽しみ~♪」


 元気な歓声を上げて立ち去る子供たち。

 その姿に、隣にいて皿拭きをしていたフィーが堪え切れない様に噴き出す。


「もう……現金なものですね、あの子達ったら」

「何がだ?」

「最初にガリウス様を見た時は、やれ敵性巨人だの皆で討伐するのだのと物騒な事を言ってましたのに」

「まあ、こんなおっさんがふらりと夕方に来たら不安にもなるさ。

 一緒に遊んでみて敵意がない事が分かったら、あとは仲間扱いなんだろうよ」

「凄まじい運動量でしたものね。

 王都の英雄ともあろう御方が完全に後れを取っていましたもの。

 まさかガリウス様の天敵が子供などと知れたら大変ですわ」

「勘弁してくれ。俺も正直、子供特有の無限体力機関を侮っていた」

「フフ。それにガリウス様が手伝ってくれた夕飯のシチューも大好評でしたわ。

 スパイスの香りが独特で凄く食欲をそそられますし……」

「ああ、アレは南方地域の風土料理カーリーって言うんだ。

 異界の女神の名を冠される程、本来は辛い料理なんだが……

 子供たちが相手だからな、牛乳を入れる等して少しマイルドにしてみた。

 結果としてはベストだったようだ」

「皆、こぞってお代わりして鍋を空にするまで食べてましたわ」

「フィーの下準備が丁寧だったからな。

 スパイスがよく馴染んだんだろう。

 相変わらず煮込み系とか上手だな、フィーは」

「あら? 褒めても何も出ませんわ。

 それにわたくし、そんなに料理は上手ではありませんし」

「謙遜を」


 華やかで目を惹く外見とは裏腹にフィーは煮込みなど地味な料理が得意だ。

 灰汁を掬って味を整えて、また灰汁を掬って。

 単純作業に取り組むのが苦手でなく、根気がいる作業を得意とする。

 飽きやすいシアや分量に神経質なリアと違って、フィーリングで料理を作るのが巧みなのだろう(名は体を表す訳じゃないだろうが)。

 パーティの飯係である俺に所要がある際などは、フィーに任せて煮込み料理をお願いしていた。

 これがまた絶品でパンや酒によく合う。

 今日も下準備を終えたシチューがあったが、俺がいるので何か変わった味を皆に披露したいと悩むフィーに対し、俺が提案――一肌脱いだ感じである。


「フィーの言う通り香辛料が決め手だけど……この辺には中々売ってなくてな。

 丁度、朝市を巡ってる時に偶然露店で香辛料を見かけて多量に購入しといた」

「あら、それはもしやシアとのデートの時ですの?」

「そ、そうだが?」


 何故かずずい、と身を寄せてくるフィー。

 咎める様な蠱惑的な双眸が横目で俺を見上げてくる。

 今のフィーは色気をまったく感じさせないシャツに長ズボンというシンプルな姿だというのに――何故かドキドキさせられる。


「な、何か問題があったか?」

「いいえ? 別にありませんわ」

「そ、そうか――」

「ああガリウス様、ここはあとわたくしと職員さんで片づけます。

 子供たちも全員入り終えたので、どうぞ冷めない内にお風呂に入って下さいな」

「しかし――」

「何か問題でも?」

「いや、問題はないんだが――

 な、ならばお言葉に甘えるとするか」


 俺が投げ掛けた質問に同じ質問で返されたら返答のしようがない。

 どこか居心地の悪さを感じながら、俺はそそくさと風呂場に向かうのだった。






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― 新着の感想 ―
[一言] 灰汁ってとり過ぎると旨味も捨てちゃうんだが・・・・ 突撃隣の晩御飯!な展開は無さそうか 突撃されるのは風呂場になりそうだけど(目反らし カーリーて、味覚の破壊者にするつもりかよ(棒
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