おっさん、提案を確約
「あ~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!
ズルいよ、リア! おっさんと二人きりなんて!
ボクだっておっさん成分を補充したいのに!」
しっとりしているのにどこまでも沈んでいきそうな、きめ細やかなフィット感。
それは例えるなら、横になれば屈強な輩とてたちまち虜にする天使のほっぺか。
極上の触感を伝える枕を背に、ここ一カ月の間に起きた事を思い返していた俺を現実に引き戻したのは――勢いよく転移の間に飛び込んできたシアの声だった。
な、なんだ……せっかくゆっくりしていたのに。
半分寝ぼけながらも警戒は怠らず、半眼を見開き現状把握に努める。
非難する様な眼差しで顔を覗かせているシア。
扉が開け切る間を待つのももどかしく、しなやかなその肢体を中へと躍らせると――大股で俺達に近づき、不満そうに腕を組んで憤慨する。
不貞を突き付けられたようなその言葉に思わず狼狽するリア。
普段のクールさはどこへいったのか、顔を赤らめ手をわたわたさせ否定する。
「なっ! こ、これは違う――」
「あらあら……抜け駆けは駄目ですよ、リア。
そんなに密着していては、どのような事情も言い訳にしか聞こえませんわ。
ちゃんと――約束したでしょう?」
猪突猛進ガールの後に続くのは、上品な笑みを浮かべたフィーである。
いかにも聖女然とした楚々たる穏やかな振る舞い。
けど――眼が笑ってないのが、怖い。
「大体、ガリウス様もガリウス様ですわ。
我慢できないなら――ええ、殿方ですもの戦えば猛る事もあるでしょうから。
その……いつでも仰って下さって構いませんのに」
「そーだよ、おっさん!
ボク達が迫っても普段は紳士過ぎるくらい紳士な癖に――今はいいわけ!?」
何だろう……自分に非はないのに何故か俺まで責められている気がする。
いや――これはむしろ……攻められている?
「は、話を聞いてほしい。
どんな罪人でも自身を弁護する権利はある筈――」
「あら? 法廷での偽証は極刑(くすぐり地獄)ですわよ?」
「じ~~~~~~~~あやしいなぁ。
おっさんと雰囲気のある暗い空間で二人きり。
見つめ合う瞳と瞳、重なり合う吐息。
無論、何もない筈がなく……」
「ん。シアは最近フィーに毒されている。
もっと健全に思考すべきだと思う。
これはガリウスが疲れていたから膝枕をして休息していただけ」
「あの――リアの話は本当だよ?
ガリウスは激戦続きで消耗していたから……ホントに休んでいただけ」
弁解するリアへ二人の疑いの眼差しが注がれると、【黒帝の竜骸】からミコンが自身を投射し間に入る。
幼いながらに懸命なその訴えにシアとフィーは顔を見合わせると笑顔になる。
ワザとらしくいかにも取り繕った、偽りの友好さを湛えた笑み。
「も、勿論信じてたよリア!」
「わたくしたちが貴女を疑う訳ございませんわ!」
「何だろう……
今なら闇堕ちしそうになったミコンの心境が凄く理解できる気がする……」
あはは、おほほと乾いた笑いを浮かべる二人をジト目で見つめ返すリア。
パーティ間の闇は深い。
「それはそうとさ、おっさん。
さっきね、賢皇様からついに許可が下りたよ!」
「どの許可だ?」
「おっさんが提唱していた聖域都市への潜入捜査。
ボクら勇者隊の活躍で戦域も安定して来たし、余裕が出来たからOKだって」
「そうか……それは何よりの朗報だ」
人類サイドに反旗を翻した天空都市と違い、未だ沈黙を保ったままの聖域都市。
交渉の為のアプローチは全て断絶され都市自体が外部から完全に孤立している。
堅く結界で閉ざされた中では――いったい何が行われているのだろうか?
どうにか戦況が落ち着き五分五分の今、不確定要素である聖域都市の参戦は良くも悪くも天秤を一方的に傾きかねない。
限定的未来視である【神龍眼】でも完全には見通せない展開。
膠着した状況の打破を図るには、危険は承知の思い切った一手が必要だろう。
「それで、いつから大丈夫なんだ?」
「明後日の明朝、作戦が始動するそうです。
少人数……わたくし達による少数精鋭の潜入強行。
胸が高まりますわ」
「ああ、同感だ」
「それでさ、おっさん」
「ん?」
「今日から明日までパーティのメンバーはお休みになるんだけど……
明日って何か用事ある?」
「いや、特にないな。
今日はこれからサウナに行って寝るだけだし」
「やった♪
ならばさ、明日一日……ボク達に付き合ってくれない?」
「別に構わないぞ」
「ガリウス様もお疲れのところ、大変申し訳……って、よろしいのですの!?」
「勿論だ。
最近、皆とゆっくり話をする機会が無くなってたしな。
せっかくまとまった時間があるんだ――皆と過ごすのも悪くない」
「ん。男子に二言はない?」
「無論」
「うっし♪ しかと聞いたし言質を取ったからね?
じゃあ――明日はデートよろしくね、おっさん!」
「で、デート!?」
「そう、デートだよ(にぱー)。
ねぇ、みんな!」
「ん。よろしく」
「よろしくお願い致しますわ」
「わ、私も……よろしく」
「お、おう。任せろ……でいいのか??」
喜色を浮かべ、ハイタッチで喜ぶシア達を眩しく見上げながら……
俺は若さっていいな――という爺むさい感想と、俺みたいなおっさんと居て何が楽しいのだろうか? という自問が脳裏に浮かんでは消えるのだった。




