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おっさん、決着つける

 

「13魔将たるこの私に不意打ちとはいえ一撃を加えるとは、ね。

 中々の痛痒でしたが……しかし所詮は人間の為せる業。

 この程度が限界でしょう」


 超重力により地面に穿たれた穴。

 嘲りの言葉と共にそこから幽鬼のように浮かび上がるのは勿論パンドゥールだ。

 身体に纏う道化服はズタボロで見る影もない。

 ただその内に秘めた体は別だ。

 魔神に連なる証である青黒い肌は全くの無傷。

 鍛え抜かれた鋼の様な肉体が脈動している。


「だがお前は私をコケにした。

 この代償は高くつくぞ――人間どもがあぁ!」


 怒りの声と共に放たれる高純度の魔力波動。

 パンドゥールの上げる咆哮に応じる様に奴の姿が異形に変じていく。

 そんな光景を見ながら……俺達はしごく醒めきっていた。


「なあ……すっげー三下っぽいんだけど。

 これ、変身中に攻撃してはやっぱ駄目か?」

「――駄目に決まってるじゃん、おっさん!

 律儀にボク達の会話パートが終わるまで待っててくれたんだよ?

 悪役の鑑、少しは見せ場を持たせてあげよーよ」

「しかしなぁ……

 こんだけ隙だらけなのに……勿体ない」

「ん。これも様式美。

 敵味方問わず、変身中と名乗り上げ中は手出し無用」

「まったくです。

 無粋な真似をすれば我が神に叱られてしまいますわ。

 でも確かに暇ですし――今の内に回復と支援法術を掛け直しますね」

「ああ、助かる。

 そうそう、お前達も気付いてると思うが――

 あいつはマリオネットマスター……傀儡師だ。

 ああやっていかにもな演出でパワーアップしてる風だけど騙されるなよ?」

「分かってるよ、おっさん。

 ちゃんと前に教わった事は覚えてる」

「優れた傀儡師は全てを操る。

 そう、仮に自らさえも――」

「ええ、充分理解してますわ。

 パンドゥールと名乗る魔将の肉体――あれは所詮仮初めのモノ。

 下で不気味に蠢くあの影こそが操り主――本体なのでしょう」

「それだけ理解してれば充分だ。

 出し惜しみなしのサジタマギカの型でいく。

 フィーナのアレの後、悪いが続いてくれ」

「了解~」

「任された」

「畏まりましたわ」

「き、きさまらああああああああああ!!!

 私を放っておいて何をしている!!!」

 

 蚊帳の外に置かれ怒号を上げるパンドゥール。

 その姿は角が生えるわ翼が生えるわ巨大化するわとやりたい放題である。

 まあ所詮は虚仮威し――中身はスカスカなんだけどな。

 奴の本命は操り人形である傀儡の変身を囮にしたマリオネットの技。

 今もド派手な魔力放出に紛れてコソコソと――ほらきた。

 不可視の魔力糸が隙を窺うように近付いてくる。

 目の前の傀儡に気を取られたり戦闘をし始めるとこいつがブスリ。

 立派なマリオネットの完成――という訳だ。

 まあ無論そんなことはさせない。


「フィーナ」

「はい! 我が神の恩寵をこれに――

 略奪粉滅法術<覇呀減奪通>!!」


 俺の掛けた声と共に発動させたフィーナの法術が俺達の周囲を巡る。

 これはかなり厄介な法術の一つだ。

 連鎖し自壊しながらも敵対者の魔力を喰い続ける障壁の展開。

 繊細な魔力糸程度ではこの神の恩寵を突破するのは不可能。

 さらにこの状態で敵対者に近付けば相手を魔力枯渇状態に追い込むことも可能。

 虐殺壊滅法術<愛栖繰有無>と並ぶ数少ない攻撃法術でもある。

 しかし何で攻撃法術名だけヤンキーチックなんだろう?


「ば、馬鹿な!

 我が手の内が――読まれているとでも!?」

「馬鹿な、は死亡フラグ。

 それを口にした時点でアナタの敗北は決定された。

 さあ、次はあたしの番――

 万物の理よ、いまここに潰えよ【対滅の分解ディスインテグレイト】!」


 動揺するパンドゥールの足元にミザリアが放ったのは万物粉砕の理である。

 悪魔や魔神など魔術抵抗値の高い位階上位者にも効く上級魔術の一つだ。

 魔術が効かない、肉体が強固などという概念そのものを打ち崩し、存在そのものを書き換え分解するこの魔術の前には――どのような存在も形無しである。


「ぐああああああああああ!!

 な、何故だ!? 何故私の影が本体だと――」

「バレバレだってば。

 以前おっさんから学んだもんね。

 それじゃボクからもいくよ――

 右手で魔術【フラッシュ】左手で闘技【スラッシュ】。

 魔法剣――【ライティングスクエア】!」


 アレクシアが目にも留まらぬ速さで一閃したのは魔法剣である。

 魔術を蓄積し同時発動させる俺のような疑似魔力剣ではない。

 自らの意志とセンスで属性を融和させた正真正銘の魔法である。

 俺の知る限り魔力属性そのものを刃として顕現出来るのはシアを於いてない。

 魔法の名は伊達ではなく、一切の無駄がない魔力刃は通常の数倍……時と場合によっては数十倍の威力を発揮する。

 さすがに【魔剣の勇者】の名は伊達ではない(これを言うと恥ずかしがるが)。


「ぬぐああああああああああああああああああ!!

 わ、私の存在が消えていくうううううううう!!

 ゆるさん、許さんぞ下等生物!

 お前達の脳とはらわたを掻き出し、我が皇への供物としてくれん!!」

「まったく……呆れるほど典型的な悪役台詞だな。

 そのようなお言葉、幾度も聞いたが……実現した事は一度もない」

「なななななんだと貴様ああああああああああ!!

 わ、私を愚弄する気かああああああああああ!?」

「少なくともあいつの方は静かだったぞ。

 13魔将……妖鳳のサイゼリオと名乗ったあいつに比べれば、な」

「な、なんだと……

 貴様、何故滅びたはずの我が眷族の名を知ってる!?」

「滅ぼしたからさ、これから逝くお前同様。

 どいつもこいつもアホみたいに魔神皇の復活ばかり掲げやがって。

 ウザイったらありゃしない……潰す方の身にもなってみろ」

「く、黒髪に紫の瞳……

 そうか貴様、そこの小娘の様に【職業ジョブ】として得た勇者ではないな!

 我等に仇為す忌まわしき一族、生来の勇者の系譜……まさか貴様は……」

「お喋りが過ぎたようだな。

 もうここで消え去れ――スキル開示!」


 俺の言葉と共に静音発動させた【自由に閉まって出し入れ便利】が起動。

 収納されていた魔力が次々と解放され俺の構える剣へと集約されていく。


「最後に良い事を教えてやる。

 一般的にスキルは隠すものだ――予想外の緊急時に備えてな。

 だが――敢えて曝け出す覚悟とリスクが既存スキルを強化するのも確か。

 それがスキルの自己開示だ。

 俺のスキル【自由に閉まって出し入れ便利】は収納型だ。

 通常であれば掌大の重さの物を99個、99種類しか収納できない外れスキル。

 しかし俺はこれに異を唱えた――

 重さがないものならどのようなものでも収納できるのではないか、と。

 例えば無形にして無量の魔力などな。

 これからお前に繰り出すのは俺が溜めに溜めた各属性魔力の塊。

 延焼効果増強99個、爆燃効果増強99個など数々。

 さすがにこれだけの数を同時に発動するのは俺も初めてだ。

 どうにか死体くらいは残ってくれよ――」

「や、やめ……助け……」

「――悪役なら悪役らしく、最後まで泰然としていろ!

 魔現刃奥義――【夢幻】!」

「ぬあああああああああああああああああああああああああああ!!!」


 月明かりの無い夜空を染め上げる爆発的な閃光の炸裂。

 必至に抗う事すら無慈悲に斬り捨てて、13魔将パンドゥールはその傀儡もろとも完全にこの世界から消滅したのだった。

 

 


 


ラストバトルの決着回。

最後はパーティメンバー無双でしたね。

次回エピローグ予定です。

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