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おっさん、弟子を称賛


「アニギ……身体の方は大丈夫だべか?

 ぢゃんと飲んでるか?」

「心配掛けたな。

 この通りやってるよ、リーガン」


 恐る恐るといった様子で会話を切り出すリーガンに俺は普段絶対に口にできないお値段のワインが入ったグラスを掲げ応じる。

 何度呷っても悪酔いしない癖に、口当たりと喉越しが格段に良いだけでなく鼻を駆け抜ける芳醇でありながら濃厚な葡萄の香り。

 さすがはワインの帝王と呼ばれるロマンコンティアだ。

 精霊の涙とも称されるその完成度は他のワインの追随を許さない。

 こんな最高級な品々を惜しみもなく振る舞う賢王リヴィウスの采配に乾杯だな。

 しかしあまりの大盤振る舞いに財政的に大丈夫なのか不安になる。

 こんな祝いの席だというのに金の心配をしてしまう貧乏性な自分に苦笑いだ。

 屈託なく気兼ねない俺の返事に安堵したのか肩の力を抜くリーガン。

 そういえば貸し出された夜会服に身を包んだ俺やジェクトと違い今日はゆったりとした民族衣装を着込んでいるな。

 きっとアレが巨人族のハレ用の装束なのだろう。

 派手さはないが丁重に編み込まれたその衣装は素朴で実直な青年であるリーガンによく似合っていた。


「ならば良がった。

 魔王を斃した後すぐに闘技場の中さ駆け込んだから、どこか悪くしたのかと」

「いや……アレは一身上の都合(全裸)により、だ」

「ん? 男の裸の何が問題だべか?」

「そこら辺は文化の違いってやつだ。

 成人男性が全裸でそこらを歩いてると問答無用でしょっぴかれるからな。

 リーガンも気をつけろよ」

「お、おっかねえ。

 オデ……捕まるのはもう沢山だ」

「既に前科があるのかよ!」


 巨体を震わせ恐れる振りをするリーガンに笑いながらツッコミを入れておく。

 まあ前振りはこの辺でいいだろう。


「さて――冗談はこの辺にしておいて、だ。

 お前が聞きたいのは今回の戦いの事だろう?」

「さすがアニキ、よく分がってる。

 一応、教えられた事をオデなりに守ってみたんだけど……どうだべか?」

「ああ、ジンガーマ相手のスキル発動のタイミングは見事だったぞ。

 スキルの特異性――そしてスキルの変容性について正しく理解しているな」

「あの激戦の中、ちゃんと見てくれでたのか!?

 アニギはすげぇな~やっぱ」

「観の眼鷹の眼っていってな。目前の敵だけでなく戦場全体の流れを掌握するのも生き残る為には重要なんだぞ。

 敵を倒して余力を無くした時に横合いから刺されたら、防ぎ様がないだろう?」

「確かに」

「まあ、そこは追い追い学んでいくことだしな。

 んでスキルの方だが……あのレベルまで使いこなせれば基礎は十分だ。

 あとは日々の修練と研鑽だな」

「うん、了解だ。

 にしても何だが、アニギに褒められるのは凄く嬉しくてよ」

「いや、実際お前はよくやったよ。

 力に慢心する事なく――人々の為に戦い続けたお前は立派だったぞ、本当に」

「うへ……照れる」

「事実だからな。

 さっ俺はそろそろ行くぞ。皆にも礼を述べにいかないと」

「んだな。

 じゃあ――オデはこの辺で」

「ああ、またな」

「皆に礼か。

 ふむ――ならば私に言う事はないのかな、ガリウス君?」


 別れを告げリーガンを見送った俺の視界に突如割って入ってきたのは、【聖騎】シャリスである。

 純白のタキシードを上品に着こなしたその出で立ち、その姿に立ち振る舞い。

 背後に薔薇を幻視しそうなイケメン振りは乙女が夢見る貴公子そのものだろう。

 俺は肩を竦めるとシャリスが手にしたグラスに軽く自身のグラスを当て奏でる。


「勿論貴方にも感謝してますよ、シャリス。

 いぶし銀な貴方の活躍が無かったら、もっと多くの犠牲者が出ていた」

「君に教えて貰ったからな。

 私の速さを以てすれば戦域を駆ける事は容易。

 ならばそこで何を為すべきか、と。

 速さを活かして常に先手を打てるとはいえ……体力自慢の魔獣や魔神らに止めを刺すのには時間が掛かる。

 まさか可動部分を重点的に狙って敵の行動阻害をするのが自分に向いているとは思わなかったのだが……」

「成果は上々だったでしょ?」

「ああ。多くの兵士から感謝された」


 感慨深く腕を組むシャリスに俺はニヤリと笑みを浮かべ応じる。

 一撃必殺に至らないとはいえ、彼ほどの技量があれば、高速移動してから瞬時に支軸となる部分を見抜いて攻撃を加えることは可能だろう。

 結果として闘技場の戦いで魔獣らは集団でなく、シャリスによって速度差を調整され細かいグループとなって戦う羽目になった。

 それなのに戦力比はギリギリ均衡していたのである。

 これが従来の勢いで襲い掛かってきていたらどうなった事か。

 地味ながらも勝利に貢献していたのは間違いない。


「本当に助かりましたよ。

 そういえば一緒に戦っていた【闘鬼】シブサワ先生や【拳帝】ヴァルバトーゼ、【狼皇】テリー、【銃士】セーリャはどちらに?」

「ああ、あっちで歓談してるよ。

 皆の相性がいいので対魔族戦ではパーティを組むか検討中らしい。

 私も誘われているがね」

「うあ~凄い豪華メンバーですね」

「君も誘いたいところだが……先約があるしな」

「すみません」

「まあ魔王と化した魔族すら討伐した君だ。

 これから色々政治的な利用をしようとする輩も増えてくるだろう。

 しかしそんな誘惑に負けないよう――頑張ってくれたまえ」

「肝に銘じます」

「うん、良い返事だ。

 さあ私は仲間の所へ戻るが……そこの召喚術師殿が君に話しかけたいようだぞ」

「うえ?」

「旦那~御多忙の中、すいやせん。

 ちょいとばっかりお時間ありやすかね?」

 

 歓談を終え立ち去るシャリスの指摘通り、俺の背後にはいつのまにか幽鬼の様に陰気臭いドラナーが恨めしそうに俺を見ていたのだった。








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[一言] ロリコン仲間としての相談か(スットボケ
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