【それぞれの戦い】⑦
前話からの続きになります。
本当は一緒でしたが、長くなったので分割させて頂きました。
ガリウス達が魔族らと勝利に沸くその頃――
王都近郊にある人目が届かぬ深き森の奥。
そこでは決して余人に知られぬ事のない戦いが今、終着を迎えようとしていた。
「は、栄えある……真族108柱が、伯爵級【ヴァーチャ】……
燃ゆる炎のアスカーリが……このような人族相手に負けるなど、ありえ」
「うるさいですよ」
ぐしゃり。
眉を顰めながら呟いた一言と共に、青年が踏み下ろした脚。
繰り出されたその一撃で伯爵級魔族は核を砕かれ消滅していく。
まるでその存在が泡沫であるという証左かのように。
全てが崩壊し――灰と塩の塊となる。
よく見れば同様の存在は他にも確認できた。
その数は20――各自がどれほどの力を秘めたものだったかは不明である。
何故なら今は躯すら残さず滅び去ってしまったからだ。
魔神と魔族連合軍による、王都襲撃待機場である郊外の森に転移し強襲してきた青年……【魔人】ことノスティマ・レインフィールド唯一人の手によって。
「駄目ですよ、ガリウスさん。
防衛陣地の内外から同時に攻め立てるのは兵法の王道。
この場合本命以外――そう、伏兵にも気を遣わなくては。
疲弊したところを襲撃されるのが一番危ないんですよ?
まあ、こっちは私が対処しておきましたけど」
「……な、何者だ貴様は!
何故、矮小なる人族が我ら魔神魔族連合を圧倒する!
そ、某が魔神皇様にお仕えする13魔将と知っての――」
「あなたも、うるさい」
ノスティマの双眸が最後に残った狼狽する魔将を捉え、妖しく光り輝く。
ただ――それだけだった。
その一瞥だけで強大な魔術抵抗力を持つ筈の魔将は灰塵と化した。
「おやおや……
魔族だけでなく魔将クラスの魔神すら、まさか魔眼に対する対抗手段を用意していなかった?
いや、こういった事態を想定していなかったのですか?
――何て呆気ない。
完全優位な立場に慣れ切っていたんですね。
自らの力に驕った結果がこれですか。
――まあ、仕方ない。
他者を踏みにじるからには、自らも踏みにじられる覚悟が必要です。
あなたたちには、その覚悟足りなかった。
与えられた能力と性能に満足して自己を邁進出来なかった。
残念ですが、その程度だったのでしょう。
さようなら。
見事なまでの噛ませ犬っぷりでしたよ。
盛り上げ役とはいえ、本当にありがとうございました。
あなたたちが残してくれたものは全て……
私とガリウスさんの為に使わせて頂きますから。
ガリウスさん……
フフ……ねえ、ガリウスさん?
貴方に届きますかね、この想いが。
表裏一体にして私と同一……鏡合わせである別の可能性である貴方。
覚えていますか? 共に過去に誓った永遠を。
貴方の為なら、私はこの世界の全てを投げ出せます。
何もかも壊し尽くしてみせましょう。
あの者達に協力し、全てを欺いてみせましょう。
だから……お願いです、ガリウスさん。
いや――ガルティア・ノルン。
私のこの想いを踏みにじる事だけは……
私のこの願いを打ち砕く事だけは……
どうか……
どうかしないでくださいね?
あはっ。
あははは。
あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!」
寒風が吹き荒ぶ森林にて、ただ独り嗤い狂う黒衣の魔人。
おかしくも、どこか哀しいその哄笑と慟哭に応える者は……
ここには誰もいなかった。
否、誰でも良い訳ではないのだ。
乾いた青年の欲望を満たす事が出来るであろう――ただ一人を除いては。




