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【それぞれの戦い】①

「あ~ウザイ!

 落ちろ、蚊トンボ!」


 雲霞のごとく押し寄せる羽虫型妖魔に対し高威力の魔力波をぶっ放すマドカ。

 しかし広範囲に広がる群れを全て焼き尽くす訳にはいかず――

 打ち漏らしてしまった妖魔は闘技場全体に散っていく。

 凶悪な牙を持つそいつらが宙から兵士に牙を剥けば苦戦は免れまい。

 だが次の瞬間、その悉くが地べたを這う。

 まるで見えない刃に斬り刻まれたかのように。


「――何をやってんだ、マドカ!

 しっかり落とせって言ってるだろうが!

 オレたちがやらねえと止まらねえぞ、こいつらは!」

「分かってるわよ!」


 双腕を矢継ぎ早に動かし激昂するジェクトに怒鳴り返すマドカ。

 なし崩し的に始まった戦いだったが、二人の担当は一般兵士らが対処し辛い飛行型魔獣の担当となったようだ。

 武器の届かぬ空から襲い掛かる敵に対し対抗する術は限られる。

 そういった点で遠距離攻撃可能な魔術波を無尽蔵に打てるマドカと、空を自在に舞う無限透明刃【無手】を相棒とするジェクトは相性が良い。

 問題はその数だった。


「あの腐れ〇〇(ピー)が次々眷属を生み出してくる!

 幾らあたしでもキリがない!」


 悔し気なマドカの指摘は最もであった。

 マグミットが召喚した魔獣が一体【昏き湿原の主】ベルゼビュート。

 巨大な蠅のような体躯を持つ伝説級の魔獣である。

 子牛みたいに膨らんだ腹から、次々と小蠅(とはいえ人の頭ほどもある眷属)を生み出し放っておくと闘技場を埋め尽くしかねない勢いだ。

 相性が良いのか順調に飛行型魔獣を落としていた二人だったが、この一体の前に完全に足止めされている状況であった。


「そんな事は今更言われなくとも、オレだって分かってる!

 嬢ちゃんが頑張っていくんだ、根性出せ根性!」

「うは、来たよコレ。

 脳筋男特有の根性論……暑苦しい」

「ああん? 何か言ったか?」

「別に……

 まあ、嫌いじゃないけどさ」


 ジェクトなりの激励に対し典型的ツンデレ反応を見せそっぽを向くも決して手を休めないマドカ。

 二人が一見無意味な足止めに徹しているのには理由がある。それは――


「うむ。薙ぎ払エ、我が主!」

「くくうっ……配下の筈の隷属者に顎で扱き使われる、あっし。

 世知辛い世の中ですねぃ」


 シャドウの言葉にマドカと同じく固定砲台と化したドラナーが爆炎を召喚する。

 魔獣の陣容に強引に穿たれた間。

 その隙を逃さずシャドウが疾風のように駆ける。

 狙いは無論ベルゼビュートの首。

 暗殺に秀でた自身の力でマドカとジェクトをサポートする為に。

 そうはさせじと立ち塞がるのは巨大なゴーレム【高く聳えし黒鉄】ジンガーマ。

 古の魔導帝国の粋を集めた高機動ゴーレムは辺境で恐怖の代名詞となっている。

 怖ろしいのはその怪力から繰り出される【大地烈震アースシェイカー】だ。

 影に同化する事でアストラル系を除く攻撃を回避できるシャドウだったが、こういった潜むべき影自体を破壊するような広範囲攻撃には弱い。


「邪魔はさせねえ“!」


 ――なので、そこに割って入るのは巨人族の青年リーガンである。

 3メートルを超すジンガーマとの差を感じさせない体格でその進路を確保する。

 鬱陶しそうにリーガンへ拳を向けるジンガーマだったが、頑丈なその拳が消失。

 驚きながらも矮小な存在を警戒し始める。


「アニキが言ってだ。

 スキルをそのまま使うのでは駄目だと」


 振り抜いた大槌を用心深く構え直しながらリーガンは呟く。

 自身が師と慕う兄貴分――ガリウスの教えを思い返しながら。


「力ならばオデに並ぶ者はいねぇ!

 ならば未熟なのはオデの技量! オデはその壁を超える!」


 壊し屋としての本領発揮。

 息も付かせぬ大槌の連打から発動するのは何とジンガーマと同じ【大地烈震】。

 通常は一度がやっというそれをリーガンは連続で発動させていく。

 ガリウスから学んだのはスキルの特異性――そしてスキルの変容性である。

 今使っている【大地烈震】は対象物に超振動を与え万物を破壊する技だ。

 だがこれは逆説的に考えれば――対象物に当たるまでは発動している意味がないスキルとも言える。

 だからインパクトの瞬間――しかも大槌の先にのみ発動を絞る。

 リーガンは今まで漫然とスキルを使用してきた。

 それで十分だったからだ。

 しかしガリウスの教え通りに修練した結果、威力はそのまま――

 されどクールタイムが生じないばかりでなく消費が格段に減少していた。

 これならば連続使用可能だな、とのお墨付きも頂いた。

 実戦で試すのは初だが申し分ない威力である。


(やっぱり――アニギは凄え)


 また一人おっさん信者が誕生した瞬間であった。

 リーガンの繰り出す嵐の様な大槌の猛攻を防ぐ術はなく――

 ジンガーマは抵抗できず全身を徐々に削られていく。

 そして数瞬後、そこには完全に【解体】された残骸のみが残る。

 皮肉にも自身が得意とすべき技でジンガーマは滅びた。

 核さえ残っていれば復元可能な再生力もここまで完全に破壊されれば不可能だ。


「まだまだ――敵はいる」


 マグミットの解放した魔獣はまだまだおり兵士や冒険者らに牙を剥いている。

 強敵を降した事に対する慢心や油断もなく次の敵へと向かう【壊士】リーガン。

 負けられない戦いは続いていく。








同名の作家さんがいるのでPNを秋月いろは⇒秋月静流へと変更しました。

またガリウスの特技【魔現刃】にマギウスブレードという呼び名を。

シアの特技【魔法剣】にマテリアルソードという呼び名を振ってます。

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― 新着の感想 ―
[一言] ハンマーでプログレッシブナイフみたいな事してやがんなあ
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