おっさん、追想される
「お~~~~凄い眺望。
ここがこの山の頂上なんだね!」
湯上りのフェイスケアをばっちり行った後――
ボク達三人は装備を纏い頂上へと来た。
頂き近くまで鬱蒼とした森林に囲まれたこの山は本当に険しく、フィーの法術とリアの魔術の力が無ければ簡単には到着できなかっただろう。
でも苦労した甲斐あってここから見える景色は絶景だ。
宵闇の帳の中でも煌めきを上げる星々。
それはまるで吟詠に出てくる神々の宝石みたいに輝いている。
何より、遥か遠くの眼下には――
宴会をしている彼がいる村まで視える。
「おっさん……楽しくやってるかな……?」
思わず滑り出た言葉に自分でも驚く。
ボク達の頑張りは――本当に彼を救っているのだろうか?
独り善がりになってはいないだろうか?
お伽話の聖騎士も言っていた。
良い事をする時に陥りやすい最大の危険――
それは正しい自分たちの行動には正当な評価が伴うに違いないという錯覚。
持ち前の人柄と技量で、彼が村人に受け入れられていくのはヴィジョンで観た。
我が事のように嬉しい反面――
そこにボク達がいない寂しさを感じる。
ボク達は何か方法を間違ったんじゃないか?
もっとやりようがあったんじゃないか?
いくつもの疑念が後悔と共に胸に突き刺さる。
「おかしい……」
そんな思考を打ち破ったのはリアの声だった。
彼女は不審げに周囲を観察し手にした杖で幾度も宙を探っている。
「どうしたんですの、リア?」
「何か気になるの?」
「ここが何かの特異点であることは認識できる。
なのにここには何もない。
ただ先程から違和感を感じる――」
「なんにもないのに何かあるの?」
「まるで童話のアレみたいですわね。
ほら、影を無くした男の子の――」
フィーが言ったのはマイナーな童話だ。
好きな女の子に振り向いてもらう為、悪魔に自分の影を捧げお願いした男の子。
願いは叶えられたのに――
影を無くした男の子は願いの対価として自身が二次元の存在になってしまう。
自分に恋い焦がれる女の子を前に彼は触れる事も出来ない。
ただそこにあると認識されるだけの哀しい存在――
しかしフィーの言葉はリアに果てしないインスピレーションを与えたようだ。
「なるほど――キーワードは影。
そして今夜は新月。
ならば――答えはこれ!」
リアが唱えたのは爆発的な輝きを放つ光明の呪文。
彼女はそれを天空高く撃ち放つ。
次の瞬間――ボク達は驚愕した。
「なにこれ……」
「どういう事ですの……?
こんな巨大なものが近くにあるのに知覚出来ないなんて!」
そう、明かりに照らされた先に突如現れたのは闇色の城。
しかも上下逆さまに突き出た怪異極まるデザインの。
「これが違和感の正体、影の城。
これは実在しながら実在しない――言うなれば半アストラルの存在。
おそらくは何かを幽閉する為に使われたもの。
ここ最近の事件はきっとこの中にいる存在が関係している」
「探索しに……行くべき?」
「でしょうね。危険でしょうけど」
「ん。対処可能なら未然に討って出るべき。
ここに何かが眠るかは分からない。
けど放置すればロクでもない事になるのは明白」
「よ~し、じゃあ張り切って突っ込もう!」
「いえいえ……
その必要はありませんよ、お嬢さん」
突如として真後ろから囁かれたその陰気な声。
怖気と共にボクの生存本能が最大級の警鐘を鳴らす。
身体を巡る闘気を瞬時に束ね躍動――
抜く手すら見せず抜刀し全力で振り抜く!
「おやおや……随分と手荒な歓迎だ」
決して油断していた訳じゃない。
だというのにボクの斬撃はそいつにかすりもせず回避される。
そこにいたのはふざけた格好の男だった。
宮廷道化師のような衣装を身に纏いボク達を小馬鹿にした顔で見渡している。
「いったい何者……です?」
「おおっと、これは失礼。
この狂陰城の秘密に辿り着ける方々に対し、名乗らないというのは無礼ですな。
私の名前はパンドゥール。
未だ覚めぬ夢を見て微睡む偉大なる魔神皇様にお仕えする13魔将の一人。
死の戯れ、死戯のパンドゥール――
以後、どうぞお見知りおきを」
「――あまり長い付き合いになるとは思えないけどなぁ……」
おどけた様に深々と慇懃無礼な一礼をするパンドゥール。
ただそれだけだというのに死線に近付いたように汗が噴き出る。
何たる鬼気――
何たる圧迫感――
遭遇した事もない桁違いのプレッシャーに意識が圧される。
あまりの現実感の無さに、構えた魔杖刀の握りが汗ばんでいくのすら……どこか別世界の出来事みたいに感じていた。
クライマックス前の序章です。
いかにもな敵役の登場。
三人娘はいかに立ち向かうのか? おっさんの出番は?
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