【二日目、第十三回戦】②
瞳の中の王国……キングダムインザアイズ。
それは強大無比だが反動の多過ぎる【神龍眼】を、通常でも扱いやすいレベルにマイナーダウンさせた使用方法である。
物語記述を経て現在・過去・未来に渡る森羅万象を掌握する神龍眼は確かに強力で、これから先無くてはならない力だ。
だが戦闘中に発動させる度に廃人に陥りそうになるのでは問題外である。
いくら龍神イリスフィリア・ゲーティアの使徒になったとはいえ、所詮人は人の枠を超えられないという証左だろう。
しかしせっかく授かった【神龍眼】を活用できないのは下策も下策だ。
なので苦心の末に生み出したのが、俺独自の掌握領域【瞳の中の王国】である。
モチーフとなったのは伝承に謳われる黒の竜騎士の力だ。
彼が扱ったとされる天空領域――それは、領域内の自身を限りなく増強するだけに留まらず、敵対者には減衰を齎したという。
俺はこの話をヒントに【神龍眼】の力を最小限で出力出来るよう調整を続けた。
結果として得た【瞳の中の王国】は現在のみを対象とした常在型の事象改変能力へと変容して発動が可能となった。
これはどのようなものかというと、視界内に収めた全てのモノに対して圧倒的な行動優先権と、起こり得る事象を書き換える力を得られる。
例えば一回戦、真っ向から襲い来るリーガンに対し俺も力で応酬したのだが……尋常に考えれば巨人族の力自慢に人族の俺が勝てる道理が在る訳がない。
それを可能にしたのが束の間発動させた【瞳の中の王国】の力だ。
リーガンの全力攻撃に対して干渉し、その勢いを瞬時に阻害――並びに領域内にある自身の力を爆発的に増強し支えとする。
無論それだけでは押し切られてしまう為、師匠譲りのエルフ族体術【バリツ】を並行発動させてどうにかいなしたというのが真相だ。
この力の優れているところは、およそ起こり得る事象に関しては際限なく再現出来るという事。
俺の掌握できる範囲内で自在に重量や空気圧を増減し、視えざる力や魔力――時には発動した魔術やスキルにすら干渉できるだろう。
まさに領域内における【王国】を統べる者としての権能、という訳だ。
しかし――残念ながら万能ではない。
俺が掌握しきれない事象(精神を含む心理面など)に関してはまったく影響が及ぼせないし、直接対象にダメージや死を招き寄せる事は出来ない。
想像の及ばない事や曖昧な概念には干渉できない制約があるのだ。
それでもこの力は格上と戦う上で無くてはならない武器となる。
先生は刹那に満たない間に発動させたこの力の本質にすぐさま気付き、一回戦を終えた俺に声掛けと圧力を掛けてきたのだ。
鍛えてきた技量を易々と超える裏技――
そんなものを自在に扱われたら、おまんまの食い上げだと。
真に恐るべきは【剣聖】の洞察力か。
僅かな隙すら見逃さない前衛職としての矜持は凄まじいとしか言いようがない。
まあ御託はいい、まずは試合に集中しなくては。
せっかく先生も望んでいるのだ……俺の全てを曝け出し応対してやる。
眩い朝日の輝きを受けたように明瞭になっていく視界。
更にはスキルの影響を受け万能感を得たようにしなやかに動く身体。
指先の隅々はおろか今や身体に流れる血液や煌めく神経のパルスすら認識し自在に操作できる。
これこそ俺が長年望み、何とか一歩を踏み出すことが出来た達人の世界か――
視えるもの感じるもの何もかもが違う。
今ならたとえ相手が何者でも斬り伏せてみせる!
俺の気迫を感じ取ったのだろう。
どうにかとはいえ達人の域へと達した俺に対し、先生は嬉しそうに唇を歪め――狂相を剝き出しに嗤う。
「そうだ……それでいい、ガリウス。
手前が至ったのは最小の単位である刹那を超える時間概念――
阿頼耶や涅槃寂静という間に命の火花を散らす剣戟の極致。
神に逢っては神を斬り、仏に逢っては仏をも斬る。
たとえこの身が悪鬼羅刹の化身になり果てようとも。
さあ、おっぱじめようぜ――
剣士のみが分かち合える……極上の愉悦ってやつを、な」
「ええ。望むところです――先生」
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次回、剣聖との死闘・決着です。




