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おっさん、怪しさ全開


「――とまあ、こんな感じで俺の冒険者初仕事は散々な結果に終わった。

 通常なら何ら問題のない大規模討伐クエストだったんだが……

 功績を逸る騎士団の愚考と愚行に振り回された感じだな。

 だが昔の俺は頭でっかちで世間知らずなのに生意気な小僧だったから……いずれどこかで派手な失敗をして野垂れ死んでいた可能が高いし、良い教訓になったよ。

 まあ、そのお陰という訳じゃないが……

 ファノメネルに師事する切っ掛けを貰えたし。

 救助に駆け付けてくれた彼女を年増呼ばわりして、派手にぶっ飛ばされたが」


 今でも鮮明に覚えている。

 朝日に照らされる中――救助隊の先陣を切って駆けつけてきた彼女は女神の様に光り輝いていた。

 ただ当時の俺は幼馴染以外、異性との交流をロクに知らない子供だったし、疲労困憊していたので……心配する師匠の言葉に対して「うるさい、おばさん」と声を荒げた。

 それは無論、年上の美人に対する照れ隠しもあったのだが――

 あの師匠にそんな理屈や少年の純な機微が通じる訳がない。

 素敵に不敵で無敵な微笑を浮かべた瞬間、俺の身体はカタパルトから射出された太矢のように空を舞っていた。

 これで終えたら手痛い代償くらいで美談だったかもしれない。

 しかし師匠の恐ろしいのはこれからだ。

 地面に着地する寸前、再度下から電光石火のボディブローが炸裂。

 またも浮いた瞬間に音速の拳が次々と叩き込まれ――浮遊したまま案山子の様に宙に縫い留められる。

 多分、数十発くらいで許して貰えた筈だ……記憶にないから正確じゃないが。

 けど救助隊の面々のドン引きしている顔だけは克明に覚えている。

 一応は怪我人という事で師匠も手加減をしてくれたのだろう……死んでないし。

 本気の師匠なら軽く数百発はいくしな(うんうん)。

 傍若無人な若りし頃の俺の失敗談を訊いたというのに、笑うのでも呆れるのでもなく何やら真剣な顔で思案し始めるノスティマ。

 はて、何か気に障ったのだろうか?


「――どうした? 

 俺も昔は若かった的な、おっさんの笑い話なんだが……

 何かそんな気になる箇所があったか?」

「ええ、一点ほど少し腑に落ちない点が……」

「? 何だ?」

「貴方は確か、夜明けの光を見て魔術を【宿した】と伺いましたが……

 この話に相違ないですか?」

「ああ、間違いない」

「だというのに、貴方から感じる魔力は通常の術師のソレに準じる。

 前衛職である貴方が、並の術師と同じだけの魔力を保持しているのは、恐らくはクラスチェンジによる恩寵なのでしょう。

 だからこそ――解せないのです」

「ん?」

「貴方のパーティメンバーであるミザリアは、レインフィールド家の血を引くだけあって魔術の才に秀でていますが……

 だからこそ気付かなかったのでしょうね、この違和感に」

「何がだ?」

「ガリウス……貴方が知らないのは無理もありません。

 魔術を修め習得するのと、魔術を体現し宿すのは意味合いが全然違います。

 あくまで学問として得た魔術は技術……その力は術者の生来持つ魔力及び術式に対する理解力に委ねられます。

 その反面――高位存在に関わる理念を体現して得た魔術は別格です。

 高位存在との間に生じたパスを通じて圧倒的な魔力が流れ込みます。

 そう……人の身を超えるほどに」

「いや、しかしそれでは……」

「――ええ。

 おそらく貴方に宿ったのは……この世界で【全てを見護りしもの】と呼ばれる、無限光明神アスラマズヴァーという異界の神の力の欠片。

 それは本来なら神の恩寵を呼ぶ端末となって貴方の身に膨大な魔力も宿す筈。

 なのに貴方は普通の術師並の力しか持たない。

 この事実の意味することは、唯一つ」

「まさか……師匠が?」

「はい。これも推測になりますが……

 貴方との最初の邂逅時に封印を施したのではないでしょうか?

 術式を介さないというのに瀕死状態の身体を下山するまで支えるほどの魔力。

 通常なら人の器に収まらず、いずれ破綻を期するのは必須です。

 だからこそファノメネルは貴方に封印を施し……

 代わりに指導し見守る事にしたのではないのでしょうか?

 無限光明神の力に頼らずとも済むように」

「思い当たる節は――あるな。

 戦場で弟子を拾って育てるのが趣味だとは聞いていたが……

 確かに俺を鍛えてやると言い始めたのは唐突だった気がする」

「彼女なりの謝意と……けじめだったのかもしれませんね。

 放っておけば自滅し落命するとはいえ、貴方の運命を捻じ曲げた事に対する」

「――馬鹿だな、師匠は……」

「ガリウスさん?」

「俺は全然そんな風に思ってないのに。

 むしろ師匠に師事出来た事を誇りにすら思っているのに」


 破天荒に見えても不器用で優しい師匠の事だ。

 力を渇望する当時の俺には言い出せなかったに違いない。

 きっと「命よりも力が欲しい!」とか、青臭い事をほざいていただろうしな。

 ――どれだけ大切なものを失うか、誰を悲しませるのかを考えもせずに。

 代償なき力なんてこの世にありはしない。

 俺が今持っている力の数々だって、時間なり金銭なり絶妙の機会なりと――

 目に視えぬ多くの縁に導かれ身に付いたものだ。

 その事を、身を以て調教――もとい、諫めてくれた師匠には感謝しかない。

 まあ馬鹿正直に礼を言っても絶対はぐらかされるだろうがな……ツンデレだし。

 一人納得しホクホクするという、傍から見れば怪しさ全開な俺だったが……

 言い辛そうに悩んだ末、ノスティマが紡ぎ出した言葉に我を失うほど驚愕する。


「彼女が施したと思しき、その封印ですが……

 もし私が解く事ができるとしたら――貴方はどうします?」





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