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おっさん、弁解を黙殺


「皆さんは召喚術師が隷属した存在と念話で語り合えるのはご存知ですかねぇ?

 魔導書が秘める基本能力の一つなんですが……

 万能翻訳機とでもいうべきこの力が無いと、他種族に指示が出せませんし。

 なのでシャドウとの試合終了後、色々訊いてみたんですよ。

 年齢や出身――どうして暗殺業をしていたのか等を。

 そしたら彼女、実は年齢が五歳相当との返事が返って来やして……

 どこかの研究所で生まれ出た後、盗賊ギルドに売り払われたらしいですね。

 当時の年齢でもその場の者達を皆殺しにする力くらいはあったらしいですが……

 生き抜く術が無い以上、また組織を相手にしてはいつか死ぬと直感したらしく、だから不本意ながら暗殺業をしていたそうで。

 更に訊けば用事(暗殺時)以外は隔離され、厳重に拘束されるという、死んだ様な日々だったと伺いやして……不憫に思ったあっしが、今日はいっちょ華やかな場にお洒落をして連れて行ってやろうと思ったんですが……

 他意はありやせんぜ? 本当に。

 だから皆さん――その疑惑の目を向けるのを止めてくれませんかねぇ?」


 女性陣を含めた俺達に周りを囲まれたドラナーは冷汗を搔きながら弁解する。

 事の次第によっては自身の風評悪化どころか存在が抹消されるから少し必死だ。

 ふむ、この陰気な男がここまで狼狽する姿は初めてだ。

 だが事が事だけに俺達も真剣にならざるを得ない事を理解してもらおう。

 幼児愛好ロリコン死すべし――慈悲はない。


「ドラナーの言っていることは本当? シャドウちゃん。

 胡散臭いけど、何か変な事されていない?」


 ドラナーの背後から顔を覗かせるシャドウに尋ねる剣姫セリス。

 偉いな、ちゃんと膝を折って子供の目線に高さを合わせている。

 俺達のような大人が普通に聞いても子供には威圧的に捉えられてしまう。

 こういった時、まずは子供の身丈と心情に寄り添うことが友好的な関係を築く為の第一歩だ。

 シャドウはコクリ、と頷くとオズオズ返答する。


「だ、大丈夫……だゾ。

 それに言ってるコトも本当ダ。

 組織の威信を掛けた試合に負けたワタシは用済み、行き場所がナイ。

 このままでは処分されるのを救ってもらったのは真実ダ」

「そう? それならいいけど」

「うむ。一応確認せねばならないからな、許せ。

 中には保護という名の下に酷い事をする輩もいるのだ」


 安堵したようなセリスの言葉に隣にいた護士ミカサが仲良く追随する。

 激闘を通してどうやら二人の間には友情か何かが芽生えたらしい。

 ミカサは妙齢の美女なのにどこか男っぽい騎士口調なのは王族警護という仕事柄身に付いたものなのだろうか? 

 俺は今この場にはいないミズキの事を脳裏に思い浮かべながら、卓上の料理を幾つかセレクトし皿に乗せる。

 シャドウでも扱い易い小振りなフォークを添えると、セリス同様跪き差し出す。

 声にならない感謝を述べて顔を赤らめ受け取るシャドウ。

 う~ん……あざといくらいの可愛さだな。

 一生懸命食べ始めるその愛らしさにホールに集まった一同はほっこりする。


「し、心配されるのは慣れないけど……嬉しいゾ。

 それにこんな美味しいモノを食べたのは始めてダ」

「そうか。

 まだいっぱいあるし、誰も邪魔しないから沢山食べるといい。

 おっと、自己紹介が遅れたな。

 俺の名はガリウスだ……よろしくな、シャドウ」

「知っている。

 ギルド幹部の一人から話は聞いていタ。

 才能がないのに努力を重ねる不器用で馬鹿な凡人がいるト」

「ほう……ちなみにそいつの名は分かるか?」

「残念だが知らない。

 ただ……頭が禿げていたナ」

「うん、多分あいつ(マウザー)だな……

 あの野郎、今度あったら落とし前をつけてやるか」

「お、怒らないでほしい。

 彼はワタシに良くしてくれたかラ」

「ん?」

「よく食べ物や毛布などを他の幹部に黙って差し入れしてくれタ。

 ただの自己満足だから感謝する必要はない、っていつも言ってたケド」

「露悪家的な……まああいつらしいといえばあいつらしいか」

「ドラナーもそう。

 こんな風に対等に接してくれたのは初めテ。

 汚れた身体を湯で拭いてくれてドレスも与えてくれタ。

 ちゃんと話を聞いてくれた……さすがワタシの認めた御主人様」

「んん?

 ちょっと待って――シャドウちゃん」

「?」

「お湯でって……彼の前で裸になったの?」

「? そうだゾ?

 お風呂に入ったコトがナイ――って言ったら、すぐにお湯の入ったタライを召喚してくれた。服を着てたら洗えないダロ?」

「ご主人様?」

「? ドラナーはワタシのマスターだからそう呼ぶべきダロ?」

「これは……事案だな」

「事案ね」

「うむ、事案だな」

「ちょっと待ってくれませんかねぇ!?

 話を聞く限り、あっしは何も悪い事してなくないですかい!?

 むしろ褒めてもらっても良いかと思うんですが」

「う~ん……個人的には白寄りの黒?」

「同感」

「疑わしきは罰する……灰色は全て黒。

 取り合えず任意同行願おうか、ドラナー殿。

 幼女の衣服を剥いだ事についてじっくり話したい」

「横暴ですよ、こいつは!

 大体さっきまで性別も年齢も不詳だったんですよ!?

 あっしはてっきり男児かもって思って……って、聞いてませんね?

 くそ、人の話を聞かないくせに制圧力だけは強いですねぇ!」


 セリスとミカサに両腕を組まれ、涙目でドナドナされていくドラナー。

 邪悪は滅びた……第五部完。

 ――ではなく、さてどうしたものか。

 まあ根が悪い奴じゃないし、そんなに時間は掛からず誤解が解けるだろう。

 乗り掛かった舟だ。

 それまで俺が責任をもってシャドウの様子を見ておくか。

 幸い酒のお代わりもいっぱいあるし、退屈はするまい。

 口いっぱいにケーキを頬張り幸せそうな微笑みを浮かべる天使シャドウの動向を、新しく手にしたグラスを呷りながら見守っていると――


「あの“~ちょっといいだべか?」


 遥か頭上から新しいお誘いの声が降り注がれるのだった。







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