おっさん、試合を述懐
「アレが噂の【隷属】能力か……
初見だが――確かに厄介だな」
本日のトーナメント終了告知に沸く場内を映す魔導モニターを消し、俺は静かになった控室で一人呟く。
隷属とは召喚術師の持つ固有スキルである。
自身の力を示し同意を得た存在と【契約】を交わす事で魔導書内へ取り込む。
魔導書内に取り込まれた存在は召喚に応じて顕在化し、主の力となるのだ。
しかも召喚術師の命には絶対服従。
要はデメリットのない手駒を簡単に増強できるという訳だ。
これだけ聞くと召喚術師が奴隷主の様に傲慢に思えるかもしれないが、隷属した存在にも勿論メリットはある。
まず経験値の倍増化。
召喚術師が得た経験は魔導書を通して契約存在全てに共有される為、戦場を主体とするサモナーによっては自身が稼ぐより圧倒的なレベルアップに繋がるのだ。
さらに魔導書のバックアップ。
契約存在を召喚するだけが魔導書の――召喚術師の力ではない。
必要とあれば武器や魔術、固有能力はおろか天候や地形すらも招くのが真骨頂。
中には収納された存在の力を恒久的に向上させる力を持つモノもある。
そして最後に――半不死化。
召喚によって顕在化するのはあくまで写し身と呼ばれる化身である。
魔導書内部にあるコアを打ち砕かれない限り、時間を経れば幾度も復活し再召喚する事が可能となる。
痛みや傷を負うことがあってもそれは仮初め。
魔導書内部にある自身が害される事はない。
ここまで聞くとチートのように思える召喚術師の力だが――無論、限界もある。
その一端がまず契約存在との顕在限度回数。
強大な力を持つ存在程、魔導書内に縛り付ける頚木は緩くなり使役できる回数が少なくなる。
低レベルな妖魔使役や簡単な魔術施行くらいなら問題なかろうが、Aクラス以上の存在使役や儀式魔術施行となると話は違う。
先程【神龍眼】で盗み【視た】感じだと、火蜥蜴で【20回】、爆炎で【10回】くらいが限界のようだ。
その都度契約を結び直さなくてはならないのが面倒なところではあるな。
しかし実際に戦うドラナーの姿を目にしたのは今回が初めてだったが――まさかあそこまで巧みに流れを運ぶとは思わなかった。
恵まれたクラスに胡坐をかくのではなく実戦で己を鍛えてきた実践派召喚術師。
後方に控え、ただ配下を召喚するだけのサモナーなら怖くない。
召喚された存在をどうにかし、本体を叩けばいいのだから。
一番恐ろしいのは戦場での立ち回りを覚えアクティブに動く事が出来る奴だ。
自分の強みを理解し――罠を仕掛け、戦況を優位に導く。
具体的にはフォースフィールドと呼ばれる位階障壁の力に溺れる事無く、自身を囮に使い連続爆炎召喚での酸欠を狙った戦法などだ。
対戦相手のシャドウは決して弱い相手ではなかった。
それどころか召喚術師の強みをほとんど潰してくる最悪な相性ともいえる。
物理系を弾く無敵の位階障壁は二次元の刃で無効化され、魔術や召喚存在などによる多彩な攻撃は影へと潜まれ効かない。
瞬時にその事を把握し、その上でどうすれば良いかを導き出したのがあの紅蓮の召喚術師ドラナー・チャンの怖さだ。
普段の昼行灯ぶりは演技――とまではいかないがやはり擬態であったか。
取った戦法は意外性がある訳ではないが、力押しだけでなく搦手を扱える存在であるという事がこの場合アドバンテージに繋がる。
召喚術師は数多の可能性を操るクラスであるが故に。
いつ、いかなる時――いかなる存在が障害や敵に回るか?
そこまで懸念してしまうのは俺が空想豊かなのか心配性だからなのか。
無意識に愛刀の位置へ手を伸ばしていた自分に苦笑する。
戦士系クラスの悪い所だな、自分ならどう戦うかを常に考えてしまうのは。
しかしそれも仕方あるまい。
それほど今の試合運びは見事だった。
素直に内心で賞賛していると内線で呼び出しを受ける。
何でもこれからトーナメント参加者を集めた慰労会兼祝賀会を行うらしい。
明日の大会終了時までは公平さを期する為、外部との接触は禁止だから、これは有難いな。
まあ単純に慰労目的以外に、参加者同士の交流を深めろ――という運営の意図もあるのだろう。
この大会が終われば俺達は共に戦場に並び立つ一員なのだから。
今後の事を踏まえればこの機会を逃す訳にはいくまい。
お疲れのところ大変申し訳ありませんが、と仕切りに謝罪する声の主に――俺は快く参加の返答を返すのだった。
盗賊ギルドの差し金で無敵の召喚術師を打ち破るべく仕組まれた試合でしたが、
ドラナーの機転でシャドウの敗北――かつ手駒を失うという大失態に。




