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おっさん、馬車に乗る


「――どうだ? 

 どこか、おかしいところはないか?」


 上品に仕立てられた夜会服を着込んだ俺は、何故か呆けた様に固まっているシア達に向かい尋ねてみる。

 今日はいよいよS級の叙任式が王都で開催される。

 冒険者ギルド主催とはいえ、貴族の重鎮も顔を出す場だ。

 さすがに薄汚れた革鎧姿では失礼に当たるしS級としての品位を疑われる。

 無論、作法が一朝一夕で身につくものではないとはいえ、だからこそまずは服装から入ってみようと試みたのだ。

 勇者絡みの案件で権力者と接することが多い為、嗜みとしての礼儀作法は学んできたものの……今までこういったものとは縁の遠い生活を過ごしてきたからな。

 今の自分の恰好がフォーマルなのかどうかもよく分からない。

 まあノービス伯が用意したものだから間違いはないだろうが。

 不安に思いながらも尋ねてみたのだが……一向に反応がない事に訝しむ。


「――どうした? やっぱり変か?」

「そんなことない!

 そんなことないよ、おっさん!」

「え、ええ……シアの言う通りです。

 正装したガリウス様がまさかこれ程とは(はふぅ)

 正直、驚きましたわ」

 

 勢い良く詰め寄ってきて感想を述べるシアに感嘆を漏らすフィー。

 いったい何が驚きなんだ?


「ん。予想以上に似合っているから――皆びっくりしている。

 ガリウスは元々素材が良いから磨けば光るとは思っていた。

 髪を手入れして無精髭をしっかり剃る等、諸々。

 けど……ここまでとは想像の範囲外。

 言い方はチープだけど、まるで物語の貴公子っぽくて……

 皆、ときめいている」

「おいおい。

 おっさんをからかっても何も出ないぞ?」

「からかってなんかないよ!

 おっさんは凄くカッコいいよ!」

「同感ですわ。凄くお似合いです。

 わたくしたちの素直な賛辞ですわ」

「はは、まあ褒められて悪い気はしないな。

 けど――俺だけじゃなくて同席する三人も良く似合っているぞ?

 シアの真紅のドレスも情熱的で似合っているし、フィーの紺碧の礼服も、普段の清楚な神官衣とはまた全然違った華やかな感じでいい」

「むう――ガリウス、あたしは?」

「勿論リアの装いも完璧だ。

 その蒼のローブは学院時代に授かったという儀礼用か?」

「ん、鋭い。

 当代で学院に功績を遺した者に授与される【色】を宿したローブの一着。

 賢者の証とは違う、また特別なもの」

「リアにとっての勝負服だもんね!」

「あらあら、シア。

 それだと多少意味合いが違ってしまいますわよ?」

「確かにそうだな、シアも言い回しに気をつけろよ」

「ふあ~い、不勉強でゴメンなさい」

「さて……なんやかんやでもう時間だ。

 俺だけじゃなく何せ今回はパーティとしても召喚されているからな。

 シアにその気がなくとも、勇者の名は思った以上に重い。

 民衆の希望たる勇者パーティとして、恥じぬ振る舞いをしないと」

「ん、了解」

「ええ、かしこまりました」

「うん。分かったよ、おっさん。

 でも、訊きたい事があるんだけど……ちょっといい?」

「どうした?」

「最近ショーちゃんとカエデさんがいないけど……何かあったの?

 今日はミズキさんの姿も見えないし」

「ああ、それは――」

「三人にはやってもらいたいことがあるから席を外してもらっている。

 まあ、しばしの間だから心配はいらない」

「そうなの?」

「無論だ。

 さあ、迎えの馬車がそろそろ来るはずだ。

 気合を入れて行くとしよう!」

「「「おう(はい)」」」


 こうして俺達は送迎馬車の、上質なスプリングの感触と豪奢な内装と備え付けの設備を堪能しながらも就任式会場……王宮別邸へと向かったのだった。




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