おっさん、差し出す
「うう”……
なんでボクがこんな目にぃ~」
マスクの上からでも漂う悪臭に辟易しながらもボクはスコップを動かす。
ドブに溜まった汚泥は色々なモノが混ざり合い、正直めっちゃ汚い。
ライセンス獲得の為とはいえ、年頃の娘としては心が折れそうになる。
「がまん、がま~ん!
これも全ては華々しい冒険者デビューに向けての試練なのだ!」
ギルドから借りたスコップで汚泥を攫い、指定された場所までトロッコで運ぶ。
田舎育ちで体力には自信のあるボクだけど、さすがにこれは重労働過ぎた。
2時間くらいで限界に達し、ついにはその場にへたり込んでしまう。
こりゃ~駄目だ。
ちゃんと休みを取らないと熱中症になる。
ボクはタオルを井戸水で冷やすと、街路樹の木陰に座って小休憩にする。
荒い息をつき舌を出すボクはまるで犬みたいだ。
「随分と精が出るな」
そんな事を思っていると、誰かが話し掛けてきた。
酷使した筋肉が悲鳴を上げるのを無視――
ギリギリと音を立てながら、何とか顔を上げる。
そこにいたのはおっさんの冒険者だった。
ボサボサの髪に無精ひげ。
年季の入った皮鎧がなんていうか歴戦の勇士、って感じ。
座り込むボクを興味深そうに見下ろしている。
せ、先輩冒険者が声を掛けてくれた!
憧れの存在を前にボクは慌てて立ち上が――ろうとして、よろける。
「――おっと、疲れてるんだろう?
あまり無理はするな。
これでも飲んで少し休め」
「あ、はい。すみません」
おっさん冒険者が差し出してくれたのは、コルクで栓がされたレモン水の瓶だ。
恐縮しながらもボクは栓を抜き瓶を呷る。
お、美味しい!
レモンが少し古いのか苦みがあるが、疲れた体に浸みこむ様な美味さだ。
身体が望むままレモン水を飲み干してしまうボク。
空になった瓶を見て狼狽する。
「うああああああああああああ!
ごめんなさい、全部飲んじゃいました!」
「――ん?
ああ、構わん構わん。
そんな事よりさっきから見てたが……マメだな、お前。
よく飽きずに取り組める」
「真面目にコツコツやる。
それしかないもので……」
「ふん、努力家だな。
……新人か?」
「はい、今日からデビュー予定です!」
「――そうか。
オレの名はガリウスという。
D級のベテラン冒険者だ。お前は?」
「アレクシアです!
良かったら、アレクって呼んで下さい!」
「――ああ。じゃあ、アレク。
お前……今から暇か?」
「えっ?」
「オレはこれから街中ダンジョンへ探索しに行くんだが……
お前も同行するか? 良い経験になるぞ」
「――! いいんですか!?」
「――まあな。
新人に経験を積ませるのもベテランの仕事だ。
興味があるならオレの後についてこい。案内してやる」
「やったああああああ~!
あ、でも……」
「――あっ?
ああ、ドブさらいか。
そんなチンケな依頼なんざ放っておけ。
お前がやらなくとも、誰かがやるさ」
「でも……」
「お前は運がいい。
このオレの眼に留まったんだからな。
ただ……この機会を逃したら、次はないかもしれないぞ?
さあ、どうする?」
「……分かりました。
貴方についていきます」
「良い判断だ。
――ならば来い、行くぞ」
「は、はい!」
労働奉仕中でも傍らから離さなかった剣を手に取ると、ガリウスの後を追う。
依頼を中途半端で投げ出す事に、どこか居心地の悪さを感じながら。
本日も日間コメディーランキング3位に!
本当にいつもありがとうございます。
さあ、今回は露骨なネタ振り回。
次回でアレクシア編終了予定です。
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