おっさん、山オチ無し
「お帰り~おっさん!
――って、どうしたの? 何だか浮かない顔をして」
「ただいま、シア」
ハイドラントと別れた俺は村の広場に急遽築かれた野外食堂に戻る。
後片付けが一段落ついたのか、皆はテーブルに腰掛けティータイム中だった。
俗に女性が三人寄れば姦しいとは言われるが、年頃の娘が多いので大騒ぎだ。
そんな中、俺を見つけたシアがクッキーを啄む手を止め声を掛けてくる。
シアは一見すると猛々しくがさつそうに見えるが……実はかなり繊細だ。
持ち前の気質が前向きなので浮き沈みはないも、かなり気を遣うタイプである。
今も俺の表情から何かあったのか察したのだろう。
その気遣いを嬉しく思いつつ、俺は片手を上げて応じる。
「ん。お帰り、ガリウス」
「わん!」
「申し訳ないが、先に一休みさせて貰っているでござる」
「ああ、主殿。
我輩は大丈夫なのだが、皆様が大分お疲れでな。
こうして優雅にお茶会をさせてもらったよ」
「大事な話中に悪いとは思ったんだが、な。
村人の流れが止んだ今が潮時かなと思ったんだ」
「ああ、別に構わないぞ。
皆も今日は本当によくやってくれた。
誰のためのパーティだったか、村人全員真剣に忘れている気がするけどな。
しかし……そんなに顔色が悪いか、シア?」
「うん。
何だか浮気をしてきたのを気に病む弱気な亭主みたい。
あるいは博打で負けが込んだのに言い出せない亭主とか」
「……どこで仕入れてきたんだ、その知識?」
「え? 近所のおばさま方」
「お、おう。
まあ――近所付き合いも程々にな?」
純粋であることは染まりやすい。
偏った知識と偏見にシアが汚されないようにしてもらいたい。
俺は咳払いをすると、皆の顔を見渡し話を切り出す。
「実は皆に話があるんだが……ちょっといいか?」
「勿論!」
「随分改まった態度。
何か言い辛い事があると推測」
「遠慮はいらないでござるよ」
「ふむ、伺おう」
「そんなに気構えなくとも問題ないぞ」
「実は、だな……」
「ガリウス様!」
どう切り出すか思案していると、今まで俯き沈黙していたフィーが声を上げる。
顔を上げこちらを振り向くフィー。
長い金髪がゆらりと流れ、隠されていたその容貌を露わにする。
王都劇場主演女優のように輝く整った美貌……
だというのに、その口元は愉悦に歪んだ禍々しい半月を浮かべていた。
「……何回戦ですか?」
「はっ? 何回?」
「ハイドラント様と小屋に籠って……随分と時間が経ちました。
密室で行われる熱き男同士の語らい(隠語)。
ええ、分かっております。
殿方の情動が一回で済まない事を。
どちらが攻めで受けか、あるいは攻守交替なのか。
わたくしも理解はあるつもりです。
ただ……今後の参考までに、何回戦可能なのかを知りたいのですわ!」
「な、何を言ってるの……フィー(おそるおそる)?」
「きゃうん?」
「発想が腐ってる……(婚期が)遅過ぎた」
「さすがはフィー殿!
拙者が訊き辛い領域だろうとお構いなしとは!
そこに痺れる憧れるでござる!」
「おやおや、またも欲求不満のたぐいとは。
何度も申し上げるが我輩で良ければ心ゆくまでお相手するというのに」
「ど、同感だ。
私だってお前が望むなら何回でも……って、そうじゃない!
男同士なんて破廉恥だ、破廉恥!」
「頼む、お前ら……
まずは俺の話を聞いてくれ……」
何故かヒートアップし鼻息の荒いフィーに触発される一同。
混乱を通り越してもはや混沌の体を擁してきた場に、俺は痛み出したこめかみを抑えながら皆を諫めるのだった。




