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おっさん、暗澹に鬱々


「魔族の復活、か……」


 俺は誰に言い聞かせるわけでもなくその言葉を独り反芻する。

 レイナの告げたその事実が脳内でグルグルと渦を巻き循環し始めていく。

 何か言葉を返そうと口を開くも上手く形にならない。

 それほどまでにレイナの発した内容はインパクトがあった。

 まず基本知識として――魔族とは何か、というものが挙げられる。

 魔族には二つの意味合いがある。

 まず一つ、普通の人がお伽噺としても聞く内容。

 魔族は別名【真族】とも呼ばれる強大なる精神生命体だ。

 古の時代に世界を侵略し、人族を含む全ての知的生物と敵対した。

 様々な生命体に憑依し自在に自身を変容させる力を持つ魔族はあまりに強大で、一時期は既存世界が崩壊し掛けた程だ。

 栄華を誇った魔導文明すら魔族には歯が立たず……次々と都市が滅んでいった。

 ではこの世界が何故健在かというと――

 彼らの中に人族の為に戦ってくれた存在がいたのである。

 自らの身を神秘的な武器【神担武具】へと宿し、勇者らと共に戦った彼ら。

 その力は魔族を遥かに凌駕し、絶望的な戦況を次々と塗り替えていった。

 これが俗にいう神族――俺達や神官らが崇める高次元存在だ。

 共に【真族】という種族の表と裏、神族と魔族。

 戦いは苛烈を極め――相打ちに近い形で神族が魔族を最北の地へと封じた。

 とはいえ神々もその無茶が祟り、物質界から姿を消していった。

 今となっては山脈のごとく聳える永久氷壁の封印だけが伝説が嘘ではないことを立証するだけである。

 そしてもう一つの魔族とは……

 これは同一視されがちだが、俺が憎悪してやまない異界からの侵略者である魔神と間に生まれた落とし胤の一族を指し示す。

 世界結界と呼ばれる神々の階位障壁が張り巡らされるまでこの世界はあまりにも外部からの侵略に無防備過ぎた。

 そこを巧く付け込んだのが魔神の狡猾なところだ。

 本来交配可能でない人と強引に交わり自身の血を混ぜ種族的に世界を乗っ取る。

 企みに気付いた神々は、慌てて霊的設計図への不干渉を含む広範囲結界で世界を覆ったが……時すでに遅し。

 かなりの魔神らの因子が人族に紛れてしまった。

 普段は問題ないが、魔神の因子は激情をキーとして発露する。

 その血は突如目覚めては悲劇を繰り返してきた。

 故に人はその血脈を伝説になぞらえ――魔族と称した。

 しかし最近の通説では意味合いが混同しやすいので別称が用いられている。

 新しき魔族の血脈……即ち【新魔】と。

 これらを踏まえて改めて考慮した場合、今の状況は最悪だ。

 魔神は数十年に一度の活動期を迎え、神々によって封印されている魔神皇を解き放とうと各地で暗躍している。

 そこに何が原因かは分からないが――魔族が復活しただと?

 もし奴等が手を組んだら一体どれほどの悲劇か引き起こされるのか。

 想像するだに恐ろしい。

 あるいは――考え方が逆なのか?

 魔神共が皇の帰還を目指し……何らかの手法を用いて魔族を復活させたのか?

 待ち受ける先が破滅だとしても、魔神共ならやりかねない。

 何故なら至上の目的の為には手段すら選ばない狂信者なのだから。

 せめてもの救いは互いに異質な精神構造上と価値観を持つ存在同士、高度な連携は図れないという事だろう。

 だが、だからといって何の解決にもならないのが現状だ。

 今でさえ名も知らぬ勇士達が危うい世界の均衡を支えているというのに。

 これ以上の危機は国や冒険者ギルドでも支えきれない。

 均衡は徐々に崩れ……いつか破局を迎えてしまう。

 両天秤に測り乗せられた絶望という名の破局、魔族と魔神。

 暗雲漂う未来に――俺は鬱々とした暗澹を隠し切れなかった。






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― 新着の感想 ―
[一言] 「間男」だらけの一族が「間族」とか名乗ってそうやなあ(棒
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