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おっさん、誤解を招く


「人の子よ、それを指摘しお前は何とする?」


 穏やかな笑みこそ浮かべているものの……西方龍イリスフィリア・ゲーティアの紡ぐ言葉は嘘偽りを赦さぬ神威に満ちていた。

 ここで虚言を弄すれば信用以上に大切な何かを喪うかもしれない。

 だから俺は包み隠さず神威には真意を以って答える。


「いや……別に何も。

 ただ――知りたかっただけなんだが」


 この返答は想定外だったのだろう

 俺を威圧するような存在感は消え失せ素の表情で瞳をパチクリさせるレファス。

 一瞬、疑いの視線を向けてくるも――他意は無いと理解したのか口を開け驚く。


「せ、せっかく吾の……ああ、もう鬱陶しい!

 ウチの正体を見抜いたってのに、本当に何も要望はないん言うの!?」

「ああ」

「本当に!?」

「まったく」

「む、無欲というかなんというか……

 普通――ここは脅迫とかする場面じゃないん?

 この都市とでウチの正体を知ったのは――自分だけなんよ?」

「――いや、そんな気はないぞ」

「ウチのっていうか、龍神様の力を自由にしたいとか!?

 あわよくば、うら若き乙女の身体を弄びたいとか!!

 年頃の男なら――溢れる欲望が色々あるやろ!?」

「そんな力説をされても……」

「はっ!?

 まさかウチがこうやって詰る事による言葉攻めが本命……とか!?(ゴクリ)

 が、ガリウスさんは恐ろしい人やね……」

「違う! 変な誤解をするな!

 ただ本当に、どうしてこんな事をしているのかを知りたかっただけだ!」

「ホントに訊きたかっただけなんやね……何かびっくり」

「何度も言ってるのに、俺の方こそ驚いたわ。

 それで――訊いていいか?

 貴女の正体と目的ってやつを」

「うん、かまへんよ。

 っていうか、龍神様から力を得たんやからガリウスさんも同胞やしね」

「同胞?」

「そっ。窮地を龍神様に助けられたって聞いたで?

 ウチも死に掛けた時に龍神様に救われたんよ。

 そのまま死に逝くか――

 吾の意思を体現する【使徒】となり生き永らえるか選びなさい、ってね。

 強制じゃなかった。

 ウチはウチの意志で龍神様に仕える事にしたの。

 だからガリウスさんの推測は半分当たりで――半分外れ。

 ウチの正体はかつて人間であったもので、今は龍神様の力そのものなんや。

 しかも魔神に阻害される全盛期の力が宿った。

 巫女の一族【ウルド】ではないけどウチには偶々【力】を受け入れる器としての容量があった――だからこそ選ばれたらしいわ。

 何せこれだけの都市のインフラを維持していくには、幾ら強大な力を持つ龍神様とはいえ端末が必要になる。

 ウチはその要であり――楔なんよ。

 この神殿で神威を受け、力を示すための。

 ただ――そのままでは人と接する際にボロが出る。

 もしウチが断片とはいえ龍神様の力を宿していると知れたら――悪さを考える奴が出てくるかもしれない。

 でも――溢れる【力】には他者が納得するだけの理由が必要になる。

 だからレティスちゃんに相談し――ウチらは姉妹になったんよ。

 悪意ある有象無象からこの身と都市を守るための」


 語り終えたレファスの顔はどこかすっきりしているように見えた。

 無理もあるまい。

 龍神の力を宿したとはいえ、それを扱う人の心はそのままだ。

 強大な力にはそれを持つに相応しい自制心が求められる。

 生きていれば嫌な事が必ずある。

 その際に全てを終わりにできる力が手元にあるとしたら……

 それは果てしないプレッシャーとなり心身を擦り減らすだろう。

 俺はいつも明るく陽気なレファスの翳を初めて垣間見た気がした。

 でも……陰があるからこそ輝く光もある。


「……レティスとの仲は嘘じゃないんだろう?」

「当たり前やろ!

 あの娘は実の血縁以上にウチの間近で大切な存在や。

 何があっても守り抜くって決めた……姉妹になると決めたあの日から。

 ウチらの顔が似ている? そんなのは当然や。

 だってウチはあの娘の霊的設計図を身に借り受けることで蘇ったんやからな。

 あの娘は「姉さんが出来ました!」って、純粋に喜んでくれたけどね。

 それからは……二人でこの神域を守ってきたんや。

 秘密を保持するのに絶対に必要なことだから――

 と、あの娘は関連する不都合な記憶を封印したみたいやけど。

 それでも大事な妹であることに決して偽りはない」

「そうか……

 ならさ、それは直接本人に言ってやれ」

「えっ!?」


 俺の言葉に驚き、後ろを振り返るレファス。

 そこには下を向いてモジモジ赤面するする妹……レティスの姿があった。


「れ、レティスちゃん……いつからそこに?」

「最初からだ。

 俺がスキル覚醒を使って存在を隠蔽し同行させていた。

 彼女は彼女で、君との日々にどこか違和感を感じていたらしい。

 記憶を一部失っているんだから当然だな。

 だから――レファスの事を訊きに行くかどうか話を持ち掛けたら賛同した。

 どんな辛い結果になっても受け入れます――と。

 まあ、そんな覚悟は必要なかったみたいだがな」

「姉さん……今の話は本当?」

「あ、ああ。

 ウチの正体については――」

「違う!

 私と姉さんの事!」

「……ああ、本当なんよ。

 ウチらは本当の姉妹じゃない……

 レティスちゃんが記憶を失っているとはいえ、所詮は偽りの仲――」

「良かった!」

「ふえっ!?」


 申し訳なそうに説明をしようとするレファスの胸元に、満面の笑みを浮かべ飛び込むレティス。

 この展開は予想外だったのだろう。

 レファスは酸欠の魚みたいに口をパクパクさせ懸命に言葉を紡ごうとする。


「お、怒ってないん?」

「怒る訳ないでしょう!

 レファス姉さんが姉さんかどうかでない、なんて些細な問題だわ。

 ちゃんと私の事を想ってくれているならそれでいい!

 いつも軽口ばかりで煙に巻いて……私、ずっと不安だったんだから!」


 泣きじゃくるレティスの頭を最初は恐る恐る……やがて優しく撫でるレファス。

 ふむ、どうやらこれからの二人も上手くいきそうだ。


「ガリウスさん」

「なんだ?」

「感謝するで、レティスの事。

 ううん、それだけやない。

 海底ダンジョンの核を砕き地域の浄化機能を正常化したこと――何より魔神共の手からこの都市を救ってくれたことに」

「なんだ、そんなことか。

 別に俺にとっては成り行き上そうなった結果だ。

 改めて礼を言われるほどじゃないさ」

「それでも龍神様の使徒として、レティスの姉としてウチは感謝を述べたいんや。

 ホンマに――ありがとう」

「レファスに真剣に言われると……何だかムズ痒いな」

「もう、茶化さんといて!

 けど――だからこそ忠告しておきたいんよ」

「何を?」

「ガリウスさんが龍神様の力である【神龍眼】を授かったのは知ってる。

 森羅万象を司る龍の眼は偉大や。

 けどな、それは良くも悪くもガリウスさんを騒動の渦中へと引き摺り込む。

 運命の因果が英雄に求めるのは過酷な試練……

 これからも前途多難な日々が押し寄せてくる筈や」

「何だ、そんなことか」

「そんな事って……」

「魔神共と事を構えた以上、平穏な日々を送れるとは思っていない。

 全力で走って走り抜いて――行けるところまで駆け抜ける。

 亡き彼女に誓ったんだ……決して後悔はしないと。

 だから例えどんな困難が襲って来ようとも――

 頼りになる皆と一緒に立ち向かい、共に乗り越えてみせるさ。

 それは貴女も一緒だろう?」

「そうやね……うん、そうやった」


 愛おしそうにレティスを優しく抱き締めるレファス。

 ただ――俺に向けられた瞳が悪戯っぽく輝いたのが気になる。


「じゃあ、ガリウスさん。

 さっそく最初の試練やな」

「どういう意味――」

「ああ、おっさん見つけた!」


 なんだ? と続けようとした俺の台詞は、酔っぱらったシアの大声に遮られる。


「――ふむ。

 酒場をこっそりと抜け出すから何処へ行くのかと思えば……

 これは想定外でござる。まさに大胆不敵」

「まさかこんな夜更けに独身女性の身元へ通ってらっしゃるとは……

 ちょっとばかりオイタが過ぎませんか、ガリウス様?(うふふ)」

「ん。同感と同意。

 そして何故か感情が制御できない……憤怒を覚える」

「わんわん!」

「おやおや、主殿。

 婚約者共相手で不満ならば言ってくれたら良かったのに。

 我輩なら極上の美女でも逞しい男でも幼女でも老爺でも千変万化、変幻自在。

 どんなプレイでもお相手するのに――」

「み、見損なったぞ貴様ぁ!

 そこに直れ、成敗してやる!」


 いつから尾けてたのだろうか?

 誤解だ、と釈明する間もなく俺の下へ殺到してくる仲間達。

 酔っぱらって殺気だったこいつら相手には言葉が通じないのが辛い。

 何がって、理屈じゃなくて自身の感情を優先するからだ。

 誠心誠意もてなして個々応対していくしかあるまい……大変根気がいるが。

 まあ――これも幸せの代償というやつか。

 孤独だったかつての俺ならば、こんな感慨は抱かなかっただろうから。

 それに忘れがちだが――俺達はやり遂げたのだ。

 S級昇格の条件である、海底ダンジョン【龍の宮】制覇を。

 この一刻の平穏が過ぎればまた激動の日々が押し寄せて来るに違いない。

 ならば……今はこの大切な時間を心行くまで満喫しよう。

 いつの日か笑って振り返れるように。

 賑やかな仲間に囲まれ平身低頭に身の潔白を主張しながら――

 俺は待ち受ける未来へと想いを馳せるのだった。














      勇者パーティを追放されてしまったおっさん冒険者37歳……

       実はパーティメンバーにヤバいほど慕われていた(第四部 完)



 お陰様で第四部も無事終了しました。

 最近はアクセス数も増えているようで、嬉しい限りです。

 今後もガリウス達の応援(と評価)宜しくお願い致します^^

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