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おっさん、指摘をする


「ウチが龍神様……?

 随分と面白い事を言うんやね、ガリウスさんは」


 肯定するのでもなく、かといって否定するのでもない。

 ただ本当に興味深いから伺ってみた――

 といった体で、レファスは俺の問いに応じる。


「否定は――しないんだな?」

「肯定もせえへんけどね。

 何でウチの事をそう思ったのかは逆に訊きたいけど」


 受け答えの際に澱みはなく、あまりに自然体過ぎて……

 もしかして俺の妄想が過ぎるのではないか――と、一瞬疑ってしまうほど。

 しかし見過ごせない疑惑と確証が幾つかある。

 だから俺は敢えて更なる一歩を踏み込む。


「最初に疑惑を感じたのは、この神殿についてだ」

「神殿?」

「そう、西方龍の加護を受けし神殿。

 龍神のお膝下とでも言うべきこの【白亜の都】においてでさえ強固な守りの力を持つ場所。

 先刻の魔神共との攻防の折には避難所としても活用されたな」

「それは龍神様が偉大だから、じゃないの?」

「残念だがそれはない。

 属性判別・除外排除だけでなく物理無効・魔力減衰の恒常結界は展開もだが維持をするのに物凄い【力】を消費する。

 となれば――逆説的に、ここへ強大な力を持つ主がいなければならない。

 だが……実際は君達巫女姉妹がいるだけだ。

 確かにレティスもレファスも巫女としては優秀なのだろう。

 でもこれほどの結界を維持するのは不可能だ。

 俺はまずそこに違和感を覚えた――」

「そ、それは龍神様から授かった魔導具があるから――」

「ああ、そういう可能性もあったか。

 ならば次の検証に移るとしよう」


 自分の言葉が肯定されたというのに――

 レファスはどこか追いつめられたように目線を泳がす。

 ふむ、もう一息か。


「次に疑問に思ったのは貴女の存在だ、レファス」

「ウチ?」

「そうだ。

 貴女はこの神殿から一歩も外へ出た様子がない。

 俺達と外界を繋ぐ台座の操作は全てレティスが受け持っていた。

 感謝に堪えないが――

 何故か貴女はいつもここから見送ってくれていただけだな?

 レティスの話では巫女にしか台座を動かせないらしいが……

 それにしたってわざわざ上の神殿からレティスを経て運搬してくれるのは変だ。

 下の神殿に台座があるなら貴女が操作してくれても良いのではないか?

 更に――俺達をもてなす為の食材が外部から運び込まれる様子もなかった。

 この神殿に備蓄されている食材は僅かしかないというのに。

 自慢にもならないが、俺達の仲間はかなり大飯喰らいだ。

 これだけの面々を満足させる多量の食材はどこから生まれたのか。

 これが第二の疑問だ」

「それは龍神様の恩寵である奉納点を活用してやな――」

「ああ、そうだな。

 幾つ実例を挙げてもそれに関する反証はあるだろう。

 ならば一つ一つ言うのは面倒だから、確証に至った事を直接言わせてもらう。

 まずレファス――

 これは龍の宮の探索者なら承知の事実だが――つい先日まで魔神共の暗躍により西方龍は力の大半を封じられていたのは知っているか?」

「勿論やで」

「おや? ならばおかしい事になる。

 自身の事もままならぬ状況にある龍神が……何故か、この神殿の結界へは莫大なリソースを割く余裕があるという事になるんだが……」

「そ、それはやな」

「あとな、レファス。

 これが一番の疑惑なんだが……

 媛巫女の一族【ウルド】は一子相伝なんだ。

 分家は多数あるが必ずどの家も一人の子しか生まれないし育てない。

 この情報は生前彼女が憤慨混じりに言っていたから間違いない。

 だから姉妹なんてものは存在しない……従妹は別としてもな。

 なのに姉妹として似通った容貌を持った君達がいる。

 これはどういった矛盾なんだろう?」

「……」

「そしてこれが確定的なんだが……

 初対面時、レティスはこう俺達に説明した。

 行きは私が、帰りは龍神様の使徒が送ります、と。

 龍神に仕える巫女でも姉でもなく使徒、と。

 それが無意識の内に出た言葉なのかどうかは分からない。

 ただ何かしら抑圧された精神から漏れ出たレティスの主張であることは疑いようがない。

 つまりこれらの情報と状況証拠を踏まえ……

 俺は貴女を西方龍、もしくは【ヘラルドい】であると推定したんだが……

 どうだろう? 中らずとも遠からず、といったところじゃないか?」


 淡々と冷静に証拠を突き付けていく俺に――


「うふふ……

 そこまで見抜かれちゃ観念せな~あかんかな。

 せやで、ガリウスさん。

 ご指摘の通りウチが――吾こそが西方地域の守護を司る、龍神ゲーティアだ。

 人の子よ、それを指摘しお前は何とする?」


 顔はレファスのまま、まるで人間性なかみが変わったかのごとく重厚な存在感と威圧感を発しながら――西方龍イリスフィリア・ゲーティアは依然変わらぬ笑みを浮かべどこか興味深そうに俺へと尋ねてくるのだった。





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