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おっさん、万全を期す

「ん。いきなり【必滅クリティカル魔弾ブリッド】」


 薄氷を踏む戦いの先手を取ったのは勿論リアだ。

 嵐精霊ルドゥラの加護を持つ彼女は常に最上位行動順位を得る。

 これは鎬を削り合う命のやり取りにおいて生き残る、最も大事な要因の一つだ。

 闘いは拙速を尊ぶのである。

 何より以前にも述べたが術式発動の速さで魔弾に叶うモノはない。

 放たれた魔弾は驟雨の様に本性を現した魔神達へ降り注ぐ。

 ラキソベロン以外の魔神は能面みたいに起伏が少ない貌に嘲りを浮かべる。

 無理もあるまい。

 上位魔神【爵位】クラスともなれば身に纏う抗魔術干渉値は相当なものになる。

 ドラゴンなどの高位存在や異界の悪魔などが持つこれらは、自らが持つ魔力などを媒介に常に自己という存在を守る不可視の結界だ。

 己という存在を肯定する事で確固たる個を築き損傷を軽減――復元してしまう。

 俗にいう位階という概念である。

 これらを突破するのは当然だが容易でない。

 厚く重ねた大きな土壁に、紙の武器(剣技・魔術)で挑むようなもの。

 余程巧い工夫を凝らさないと盾(位階差)を突破出来ないだろう。

 何故化け物退治に英雄や伝説の武器が駆り出されるのかといえば、この位階値差を彼らなら埋めれるからだ。

 凡百な兵士を1万人集めて攻撃しても位階値が高い存在に傷をつけられない。

 祝福を受けた英雄や伝説の武具が兼ね備える、名声という存在証明ネームバリュー

 観測される世界に示す自己の主役意思表示……それこそが位階を高める。

 だからこそ奴等は油断していた。

 脆弱な人間の魔術など避けるほどもないと。

 しかし魔弾の術式構成を見て取ったラキソベロンは血相を変え警告を発する。


「何をしている! 回避しろ、馬鹿ども!」


 警告を受けた魔神はきっと不可解だっただろう。

 魔神将ともあろうものが何を恐れるのか、と。

 とはいえ自分より爵位の高いものからの命令は絶対だ。

 仕方なしとばかりに恵まれた身体能力を以って回避に移る。

 ただ既に射線上から身を躱したラキソベロンはともかく、4体いる上位魔神の中で即座に回避行動を取れたのは二体だった。

 残りの二体は無数の魔弾を前に回避を諦め防御態勢を取る。

 自身の魔力を集結し改めて障壁を張り巡らしたのだ。

 上位魔神特有の魔力で練られたその障壁はまさに堅牢。

 およそ個人の技量が及ぶ範疇で貫く事は難しいだろう。

 儀式による大規模突貫魔術などを使用すれば単純な力の量により障壁を貫く事も可能だが、しかしそれには莫大な時間が伴うし、第一回避されたら終わりである。

 自身の無事を確信する二体の魔神。

 実際魔弾は障壁に激しく干渉するも貫くまでには至らなかった。

 それが……リアの狙いとも知らず。


「ん。今がチャンス。

 あとは任せた、カエデ!」

「承知でござる!」


 弾幕を矢継ぎ早に張りながらリアが叫ぶ。

 後衛の護衛としてリアに付き添っていたカエデは、ポジションをチェンジ。

 忍者特有の人間離れした速度で前方へ踏み込みながら両手の苦無を投じる。

 事前に各自へと掛けられていた倍速【グレートヘイスト】の術式とアドレナリンの過剰分泌による加速した時間の中、それは魔弾の弾幕に押される魔神の障壁へと向かい……易々と貫いた。

 驚愕に揺れる二体の魔神は苦無の先端に塗布されていた粘液に気付く。


「おやおや残念。

 少し気付くのが遅かったね……それは我輩の体液だよ」


 嘯くショーちゃん。

 そう……こうなる事を見越してカエデは予めショーちゃんことショゴスの粘液を苦無に仕込んでいた。

 弱体化したとはいえショーちゃんのショゴス固有の力は失われていない。

 魔力を喰らい障壁を無効化する効果は変わらないのだ。

 霧散した障壁個所から無数の魔弾が注がれる。

 しかし敵もさるもの。

 数多の魔弾を喰らってもまったく応えた様子がなく反撃に移ろうとする。

 それすらもリアの術中とは気づかずに。


「遅い。解放【エーミッタム】」


 解放の言霊と共に魔杖レヴァリアに込められていた遅延術式が発動。

 傷ついたとはいえ、まだまだ健在な魔神共に銀の光が注がれる。

 次の瞬間、二体の魔神は苦悶の絶叫をあげて倒れ伏す。

 そして抗う事もできずそのまま絶命し……消滅した。

 奴等は最後まで理解出来なかっただろう。

 魔弾に付随された真の効果に。

 それは対魔神用に俺が考案しリアの叡智を結集した【魔神殺し】の術式。

 効果はシンプルで当たれば当たるほど位階値が下がる。

 つまり三下の端役、舞台の端で解説されながらやられるようなレベルとなり通常魔術を防げなくなる。

 手痛い敗北感をバネにリアが生み出し磨いたまさに必滅の術式だ。

 位階差が無くなればリアの持つ術式でも十分対処できる。

 まして今回リアが魔杖に込めていたのは【絶死ヴァル滅光フォーレ】だ。

 銀で染められたその光は本来不可視の有害光線を凝縮し収束したもの。

 肉体強度が凄まじい魔神共に対し通用する数少ない術式といえよう。

 広範囲放射線で生命構成素を即座に崩壊、即死させる凶悪な対城塞用戦略術式。

 無慈悲な死の抱擁に抗う術はなかった。


「ごめんなさい。

 二体しか巻き込めなかった」

「何を言っているの。上出来よ、リア。

 これで魔将を含む三体に対し、余裕を以ってわたくし達は戦える。

 あとはガリウス様に任せましょう」


 魔弾で魔力を使い果たし、奥の手の魔杖まで使った以上リアが今回の戦闘に復帰する事はない。

 本人は意気消沈しているが先制で二体も上位魔神を葬り去ったのは大金星だ。

 回避行動で隊列を乱した残りの二体にカエデとミズキ、シアとルゥが向かう。

 俺が対峙するのは無論ラキソベロンだ。

 後衛に対する守りはショーちゃんがいる為、憂いなく戦うことが出来る。

 手にした樫名刀と身体が過去最高に軽い。

 奴等と遭遇する前に掛けた支援術式と祝祷術の多重効果だけじゃない。

 万全を期して純粋に戦えるという精神状態も影響している。

 絶対に負けられない戦いの序曲はこうして始まった。

 

 





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