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おっさん、同行する


「貴方達の同行は不要。

 前金は受領して良いので、このまま帰ってほしい」


 ダンジョン前広場に集っていた冒険者達の注目を浴びる中――

 口を開いたあたしは淡々と告げる。

 彼らはあたしの所属する魔導学院が手間暇かけて雇用した護衛だ。

 探索で学院の生徒が怪我をしないようにとの配慮だろうけど……

 正直、過保護過ぎる。

 溜息を深々と零したいのを堪えながら、あたしはダンジョンの入口を見る。

 ぽっかり開いた昏い穴。

 まるでそれは異界へと招き寄せる虚無の手招きにも見える。

 今年の導師級受講への選抜試験。

 それはこのダンジョン最下層にいる妖魔の魔核回収である。

 選ばれた優秀な生徒だけが望める試験ではあるが――

 場所が場所だけに相応の苦難が予想された。

 なのでそんな危険地帯へ防御障壁も展開できない者を同行させるなど自殺行為。

 足手纏いはごめんである。

 他者をフォローしながら試験に臨むほどあたしはお人好しではない。

 ならばいっそソロの方が気が楽だ。

 自分の面倒は自分でみる。

 合理的なあたしの提案に冒険者達は「小娘が」と口汚く罵りながら去っていく。

 危険を冒さずに報酬を得られるのに――

 何故、不満? 意味不明。

 まあ彼等には彼等なりのロジックがあるのだろう。

 モラルを説いても仕方ない。

 あたしの邪魔にさえならなければ、それでいい。

 肩を竦めたあたしは魔術の発動体である杖を手にダンジョンへ向かおうとする。


「ちょっと待ってくれ」


 その背に声を掛けてきたのは硬革鎧を着込んでいた戦士。

 どうやら先程の言葉には応じなかったみたいだ。

 面倒だがきちんと断らなければならない。

 振り返ったあたしは彼を正面から見据える。

 そこにいたのは捨て犬のようなボサボサの黒髪に無精ひげ。

 見るからに冴えない中年のおっさんである。

 唯一の魅力を上げるとすれば――その双眸だろう。

 紫水晶のような輝きを放つ瞳。

 優しくあたしを見つめるその眼差しに……少し、心奪われる。


「――何か用?」


 なので動揺を隠す為、殊更冷たい声で尋ねる。

 でもおっさんはあたしのつっけんどんな態度にも動じず明るく応じてくる。


「ああ――頼みがあるんだ」

「頼み?」

「そう。

 君さえ良かったら依頼通り同行させてくれないか?」

「不要、と告げた。

 障壁展開も出来ない者を連れて行くメリットはない」

「戦士として腕前は勿論、こう見えて基礎魔術は扱える。

 君の足を引っ張るような真似はしない。

 それに……同行させてもらえないと、ちょっと困るんだが」

「――疑問。理由を知りたい」

「金欠でね。

 魔導学院から支払われる前金だけじゃ、借金が返せないのさ」

「納得――呆れる様な内容だけど。

 まあ、見届け人はいずれにせよ必要。

 あとで監督官に来てもらうより貴方の方が早いか」

「お、いいのか?」

「ん。了承。

 しかし命の保証はしない。

 原則、自分の身は自分で守る事を要請する」

「当然だな。約束しよう。

 俺の名はガリウス。君は?」

「ミザリア――

 由緒あるサーフォレム魔導学院の正魔術師。

 では早速行こう、ガリウス。

 すぐに終わらせるから」

「ああ、期待してるよ。

 上手くいったら酒でも奢ってやる」

「あたしはまだ成人前。

 何より貧乏人からタカるほど困ってない。

 貴方が迷惑を掛けなければ逆にあたしが奢ってもいい」

「おっ♪

 そいつは楽しみだな」


 相好を崩し顔をほこらばせる戦士の男。

 他愛のない軽口と屈託のない笑顔に少しだけ張り詰めた気持ちが楽になる。

 こうしてあたしはガリウスと名乗った男と共に――導師級選抜試験の課題であるダンジョンに初めて臨むのだった



前回に引き続き三人娘の過去編。

長くなりましたので2回に分けますね。

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