表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

181/405

おっさん、策を求める


「少し……

 お話をよろしいでしょうか、ガリウス様」


 伯爵の別荘で大いに英気を養い、いざダンジョンに赴こうとしていた俺達。

 そんな俺達に声を掛けてきたのは静寂の祠上層を守る媛巫女レティスだった。

 珍しいな、彼女が神殿の外に出ているなんて。

 アクティブな姉のレファスと違い、余程の事がない限り彼女は外部へ出ない。

 俺達は神殿の門に立つ彼女を見る。

 幼いながらも均整の取れた肢体。

 神に仕える者としては少々ラインが際どいとは思うが、薄絹を重ねた巫女装束はその容姿と相まって非常に魅力的だろう。

 身にまとった、そのシリアスな雰囲気さえなければ。

 俯きがちでも分かる深刻な表情。

 俺の中にある第六感が危機を囁き、警鐘を鳴らす。

 彼女はこの禁足地――龍神の【固有領域】を司る巫女だ。

 もしかして俺達の行動に何か不正行為があったかと疑われたか?

 ここは世界を支えし龍のお膝元だ。

 かの龍の不興を買えば命は無い。

 唐揚げでの奉納点稼ぎは確かにやり過ぎたと思ったしな。

 ただ……龍神の巫女である彼女だけならいざ知らず、亜神であるアリシアに問題なく面会も出来たし、その線はないだろう。

 ならば――いったい彼女は何の用事があって俺達に声を掛けてきた?

 疑問に思った俺は率直に聞いてみる。

 レティスは幾分かの躊躇いの後、口を開く。

 その内容は驚きのものだった。


「ミズキ様達が――

 どうやら危機的状況に陥っている様なのです」

「――ミズキ達が!?

 いったいどうして!?」

「これを見て頂いてよろしいですか?」

「何だ、この小さい天球儀っぽいのは?」

「龍神様より授かった神器【全域の天球】です。

 ダンジョン内部を簡易投影して探索者の動向を窺えます」

「なん……だと。

 噂には聞いたことがあるが、まさか実在していたとは――」

「本来外部の方にお見せするものではございません。

 我が一族の秘宝……この神器の価値は底知れませんもの」

「確かにな。

 その場にいながらにしてダンジョン内部を窺えるなんて知れたら、いくらでも金を積み上げるだろうし――最悪、強引にでも奪い盗ろうとするだろう」

「ええ」

「――よく俺達に打ち明けたな?」

「レファス姉さんにも相談しました。

 でもレティスの直感は正しい、と。

 ガリウス様達は信頼に値するお人だから大丈夫、と言われました」

「そ、それは何だか信頼がむず痒いが……まあいい。

 話を折って悪かったな――続きを話してくれ」

「――はい。

 これは伯爵様への報告を兼ねて、レティスが皆様の動向を窺う為に起動しているものです。

 万が一があった際には相互協力で救援できるよう――

 最悪の事態でも、伯爵様に報告だけはできるように」


 沈痛な面差しで告げるレティス。

 それはきっとパーティが全滅したという事だろう。

 伯爵はこの海底ダンジョンは踏破したものはまだ誰もいないと言った。

 つまりこれまで多くのパーティがこのダンジョンへ臨み――

 志半ばで散っていった、という事に繋がる。

 無論、中には怪我などを理由に攻略を諦めたケースもあるだろう。

 だが多くの場合は何かしらのアクシデントで落命、死亡したに違いない。

 彼女はそんな者達を巫女としてずっと見送ってきたのだ。

 年端もいかぬ少女にとって――

 それはどれほどの精神的負担になっていたのだろうか。

 監視されていたなんて思わない。

 むしろ見る事しか出来ない身の面映ゆさは――充分、分かるつもりだ。

 何も手を出せない想いを抱える辛さ……それは俺も散々思い知ったから。

 労わり込めた俺の視線に、レティスはハッと安堵した様に続きを話し始める。


「そして件のミズキ様達ですが……

 今朝より【龍の宮】最上層である10層――

 そのある地点からまったく動きがございません。

 生存を示す緑の光が燈っているのでまだ全滅はしていないようです。

 ですが――徐々に色が薄くなってきているが分かりますか?」


 レティスが指し示す神器の天球。

 その最上層部にある三つの光点。

 確かに彼女の指摘通り、それは徐々に色褪せ――

 鈍い色彩へと変容し始めている。


「――他の一組、S級パーティへの救援要請は?」

「勿論――行っております。

 しかし折悪く休養中で、全員来られるまであと半日は掛かると――」

「くそっ! タイミングが悪いな。

 まあ――今まで休んでいた俺が言えた義理じゃないが。

 つまり他の高レベルパーティへの要請も難しいって事だな」

「はい――ですからレティスの知る限り最も有望で信頼のおけるパーティにお声を掛けたいと思い、こうしてお待ちしておりました。

 先日ガリウス様達も最上層に到達したと伺ったので」

「ああ、確かに三日ほど前に最上層に到達した。

 何とか守護者共と渡り合う事も可能だろう。

 ただ――問題が残る」

「何でしょう?」

「通常の踏破ではとても間に合わない。

 階層主部屋の転移陣を使用したとしても、ミズキ達のいるダンジョン最上層箇所に到るのには最速でも数時間は掛かる。

 それだけ海底ダンジョン――【龍の宮】は広大だ。

 ダンジョンの構造上、外部内部の転移呪文は全てシャットダウンされる。

 救援に向かったとして、果たして間に合うのか――」

「救援を引き受けてくれるのですか?」

「当然だ!

 と言いたいが、俺の一存じゃ決めかねるな。

 まずは皆に相談を――」

「行こうよ、おっさん」


 静かな口調で話す完全武装のシア。

 手にした刀は数多の妖魔の血を吸い、より鋭く――より強く。

 返り血に染まった紅のマントは悪を断絶する情熱さを讃える。

 誉れも高き勇者の姿がそこにはあった。

 成長目覚ましいが、最近のこいつは俺でも図りかねる凄みが出てきている。

 熱い決意を秘めた眼差しでシアは俺達に告げた。

 しかし水を差すようで申し訳ないが、ちゃんと確認しなくてはならない。


「――いいのか、シア?

 俺達にとってまだ行った事のない未到達の領域だぞ?

 何があるか分からないし――フォローし切れるか分からない。

 それでもお前は――いや、他の皆は――」

「……くどいですわ、ガリウス様」

「え?」

「ん。今のやり取りで10秒無駄にしている。

 ――答えはシンプル。

 ガリウスは助けたい? 助けたくない?」

「……助け、たい。

 俺は――

 俺の知り合いや仲間が死ぬのは嫌だ……嫌なんだ!

 俺は物語の主人公や英雄じゃない。

 でも――だからこそ、この手で掬える範囲で皆を救いたい!」

「ちゃんと言えたじゃない(うんうん)。

 なら……早く行こうよ。

 そこが地獄だろうが奈落だろうが――

 ボク達は一緒に連いていくよ、どこまでもね」

「同感ですわ。

 ガリウス様は自分の心の赴くまま動いて下さって構わないのです」

「右に同じでござる」

「わん!」

「ほら、皆もこう言っている」

「……ホントにカッコいい奴らだな、お前らは。

 これからも――弱気な俺の背を押し続けてくれるか?」

「任せて」

「あん!」

「お任せ下さい」

「了解した」

「心得たでござる」

「ああ――頼むぞ。

 じゃあ……レティス!」

「はい、ご馳走様です。

 皆様の睦言……非常に眼福でした」

「――じゃなくて!」

「じょ、冗談です――分かっております」

「ならばいいが――何か秘策はあるのか?

 依然として救援までに掛かる時間がネックだ。

 この状況を切り抜ける打開策がほしい」

「はい、あるにはあります。

 ですが――少し乱暴な方法なので……

 どうか御覚悟をお願い致します」

「えっ……」


 どこか悪戯めいた瞳を輝かせ語るレティス。

 先程までの昏い表情はどこへいったんだ?

 そういえばいつかレファスが言っていた。

 妹はああ見えて過激だから――注意が必要やで、と。

 その時は身内ゆえの評価とタカをくくっていたが……

 もしかするとそれは誤りだったかもしれない。

 急激に貞淑な巫女とは別の一面を見せ始めるレティス。

 ミズキ達を救援に向かうのに異論はない。

 きっとレティスにはレティスなりの案があるのだろう。

 時として素人の妙案は玄人の業を超える事があるし。

 ただ今の生き生きとしているレティスを見てると不安だ。

 俺は安易に解決策を求めた事を――ホンの少し後悔し始めていた。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 乱暴な方法か・・・南斗人間砲弾?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ