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おっさん、推測する

 

「ど、どうしてだ!?」


 年齢を意識して表示し直すも誤表記ではない。

 冒険者証はリアルタイムで持ち主の生体情報を読み取り更新していくからだ。

 いかなる悪用も誤魔化しも利かない。

 そこに表示されている内容は基本絶対である。

 根無し草の冒険者の身分証明に使われるのはこの為だ。

 犯罪歴も含めたパーソナリティデータを開示出来るので信用される。

 なので冒険者証の示す俺の年齢表記が27と言うなら、間違いなく27なのだ。

 では何故10歳も若返ったのか。

 10歳というその年齢、何より外見の問題から一つ推測できる。


「まさか【詐称の紅蒼珠】の力で外見を変えていたからか……?」


 そう、【詐称の紅蒼珠】は肉体に蓄積されたデータを参照に過去や未来の自分の姿を投影する魔導具である。

 つまり外見上はその当時の自分そのものであると言えよう。

 俺はこいつらの悪戯というか策謀により差し引き10歳分だけ若返っていた。

 ミズキにも指摘を受けたが、27歳頃の姿そのままだったのだ。

 そこで今回のクラスチェンジだ。

 これはレベルアップによって稼いだ経験を、魂の昇華と呼ばれる技法により位階の上昇を図るもの……即ち、生まれ変わりを意味する。

 その際に参照になるのが肉体に刻まれた【生命マテリアルの設計図】であり、人格などを形成する【霊的な構成素】である。

 通常は長い儀式を以てこれらの情報を織り込んでいく。

 適正な年齢や肉体状態、人柄をクラスチェンジ後に反映させる為に当然の事だ。

 シアが勇者の資質を認められクラスチェンジをした際は、三日間不眠不休の儀式が教団で執り行われたくらいだしな。

 だが今回、俺は特例的にクラスチェンジをアリシアに直接行ってもらった。

 様はその過程をすっ飛ばした。

 その結果が「外見上だけとはいえ、10歳も若返っていた当時の姿に肉体を再構成された」のではないだろうか?

 あ、ありえる……

 神々というか超越者は不老長寿の存在だ。

 数千年、数万年をゆうに生きる彼らにとって、10歳くらいの肉体年齢など誤差の範囲でしかないのだろう。 

 きっと厳重に抗議したところで「若返ったのだから別に良いじゃありませんか」と暗黒微笑を浮かべて応じるアリシアの顔が何故か思い浮かぶ。


「――という事が推察出来るんだが……どう思う?」

「ん。あり得る。

 ガリウスの推測通り人を構成する要素は多岐に渡る。

 生命の設計図だけでなく霊的・精神的な観点から様々な因子が複雑に絡む。

 よって偽りとはいえ、宝珠の力の影響下にあった事が今回の一因である事はまず間違いないと断定できる」

「まあいいじゃん、別に。

 ボクとしてはおっさんとの歳の差が縮まったのは嬉しいし」

「楽観的でござるな~シア殿は。

 これはとんでもない事でござるぞ?」

「え、どうゆーこと?」

「シア――分かりませんか?

 これは実質上、若返りの秘儀です。

 もし権力者に知れ渡ったら……誰もがこぞって若さを追い求めるでしょう」

「あっ……」

「フィーの懸念は最もなんだが……

 多分、大丈夫じゃないかと俺は思う」

「どうしてでござる、ガリウス殿?」

「リア、説明してくれるか」

「ん。この若返りの前提としてクラスチェンジを経る事が必須。

 しかしクラスチェンジを行うには最低80レベルが必要となる。

 戦う事だけでレベルが上がるとは限らない。

 けどS級クラスに並ぶまで鍛え上げるのは――通常不可能に近い」

「た、確かに」

「そういう事だな。

 よっぽどの資質に恵まれている者が一生を懸けたとしても……必ず到達できるかどうか分からないのがS級クラスというランクなんだ。

 無事80レベルになったとしても――その後の問題もあるしな。

 クラスチェンジの儀式を教団に執り行って貰うにはそれに相応しい社会的信頼度も兼ね備えていなくてはならない。

 だからあんまり深刻に捉えなくても大丈夫だ。

 でもまあ、この事は一応ギルドに報告しておこう。

 これからクラスチェンジを迎える者にとっては朗報だろうしな」

「女性冒険者とか死に物狂いになりそう」

「ただでさえ高騰してる【詐称の紅蒼珠】の値段が益々上がりまする」

「しまった~おっさんに使い過ぎなければ一儲けできたかも!」

「あら、それがあったから今回の事が判明したんですよ?

 それに可愛いガー君の姿も見れましたし」

「ん。同意。

 あれ(ショタ)は確かに良いもの。堪能した」

「俺はもう二度と御免だがな。

 ほれ、話してる間に到着したぞ。

 あそこに見えてるのが、この都市の異名ともなっている難度Sクラス相当の海底ダンジョン……通称【龍の宮】だ」

「あれが……」

「ええ、拙者が時間を見て幾度も下見をしていたので間違いないでござる」


 雑談しながら移動した俺達の目線の先――

 そこは東方の宮殿を思わす古びた建造物が、まるで俺達を奈落へと誘うかの様にぽっかりとした洞穴じみた空虚な穴を開け待ち構えているのだった。

 


 

 


 

 


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