おっさん、平静を装う
「なんだ、これは……」
冒険者証に表示された内容に、俺はまたも言葉にならない呟きを漏らす。
クラスチェンジ後初となるステータスの確認。
詳しい身体機能は冒険者ギルド専門の測定器を通さないと不明だが――スキル欄に記載されている表示だけで眼を疑うような内容である。
驚くべき事に習得済みの技能全般が上昇していた。
しかも20年以上鍛錬を続けても超えられなかった壁を易々と超えて、だ。
まず四大基礎魔術の階位がアデプトクラスになっている。
各属性の親和性が高い為、俺は四大属性を満遍なく扱う事が出来るのだが……
(精霊使いの最上位たる聖霊使いである師匠の薫陶によるものだ。地獄だったが)
専門の術師ではない為、やはりその熟練度は本職に劣る。
師匠曰く「各属性精霊と契約は出来るのに扱いきれない=才能がないな」との診断だったのだが……それが熟達の域を示すアデプトへ昇格している。
これがどういうことかというと、単純に扱う魔術の幅が増える。
習得しているが発動が出来なかった魔術を扱えるようになり、戦士の枠を超えた術式の展開を可能とする。
忘れてならないのが基礎魔術の精度の向上だろう。
これにより俺は簡易術式で1.3倍、複合術式で1.5倍以上の威力を引き出せる様になった。
数値にしてみれば大差がないかもしれないが、それは誤りだ。
実戦においてこれだけの比率の上昇はもはや別物であり別枠。
俺の戦闘流儀を知る者ほどきっと別人に感じるだろう。
だからこそ、か。
どれだけ頑張っても上昇しなかった魔現刃の階位も上昇したのは。
師匠譲りの魔現刃は属性魔力を具現化する手法である。
ただ魔力を集約させぶつけるのではない。
それではただ術師の放つ術式と変わりがない。
求められる属性の意義と意味を知り、術式に籠められた効果を増幅し強化する過程こそが何よりも重要なのだ。
つまり術式に対するより深い理解と造詣が求められていく。
勉強不足ではないが、今までの俺は親和性にかまけて術式を疎かにしていた。
今回のクラスチェンジでそれらがやっと統合された、という感じなのだろう。
地仙から天仙への階位上昇。
それは遥か先を行く師匠からすれば雛が卵の殻を破ったくらいの感覚かもしれないが、この俺にとってはまさに飛躍と言っても差し支えない。
これにより俺はクラスチェンジ前よりホンの少しだけ速く――ホンの少しだけ的確に動けるようになる。
理想とする自分の動きを自在にトレース出来るようになった。
前衛職としてそれはある意味最高のパフォーマンスだ。
まあこれらの事も最後に得たスキルの前には霞むんだけどな。
何だ、この【嘲笑う因果】って。
因果律への介入、事象への干渉を可能?
それはまるでノルファリア練法の奥義たる……聖念を以て~に至る技法そのものじゃないのでは――
そこまで思考した際、皆が声を掛けてくる。
「何を一人で思い悩んでるの、おっさん?」
「わたくし達は運命共同体ですもの。
お一人で悩まず、何でも相談してくださいな」
「ん。二人の言う通り。
ガリウスは何でも一人で解決しようとする悪い癖がある。
それは個人としては美徳かもしれないがパーティメンバーとしては不徳。
もっと自分達を信用してほしい」
「お前ら……」
「まあぶっちゃけると、クラスチェンジ後の様子が気になるというか」
「ええ、理不尽なガリウス様が更にどれほどパワーアップしたのでしょう」
「実は単純に賢者としても気になる」
「確かに拙者も同感。
クラスチェンジ後のステータスは如何だったのでござる?」
「お、お前ら……」
途中まで良い話だったの色々台無しである。
肩の力が抜けた俺は苦笑しながら冒険者証を開示する。
原則俺の手から離れた時点で冒険者証の表示情報は消えてしまう。
だが持ち主が望むなら短時間の間、表示し続けることも可能だ。
俺の手から離れた冒険者証をいそいそ覗き込む一同。
次の瞬間、絶叫というか悲鳴が上がる。
「なにこれ~~~~~~~!!」
「ありえませんわ!」
「し、信じられないでござる!」
まあ確かにそうだよな。
当人である俺ですら中々信じられない内容だもの(うんうん)。
平静を装い、深く頷き同意する俺。
だがその仮面もリアの指摘により崩れ去る。
「ガリウス……驚くべき事がある」
「ああ、スキル欄の話だろう?
確かに色々と階位が上がって――」
「違う。若返っている」
「……はっ?」
「皆が驚いてるのはそっちだけじゃない。
信じられない事に、ガリウスの年齢が若返っている……」
「はあっ!?」
驚愕のあまり顔が固まってるリアから冒険者証をひったくる様にして回収。
改めて記載された内容に目を通す。
ガリウス・ノーザン(27)
何度見ても間違いない。
俺の年齢が……10歳若返っていた。
お陰様で総合5000間近です!
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