おっさん、絡まれる
「――では気前の良い新人に!」
「――村の発展と皆の未来に!」
「「「かんぱ~~~~~い!!」」」
もう幾度目になるのだろう?
音頭と歓声と共に――数えるのが億劫になるほど掲げられる祝杯。
激しくぶつかり合う木製のジョッキからはエールが零れ落ちる。
居並ぶ村人たちは辺りが大分薄暗くなってきたというのに、遠くから見ても男女を問わず全員赤ら顔。
しかも程良く酔いが回っているせいか怖いくらいハイテンションだ。
ただ特筆するならば……
皆、一様に屈託のない笑みを浮かべており、今というこのかけがえのない瞬間を全力で楽しんでいるのが分かる。
更に付け加えるなら俺を肴に馬鹿騒ぎをしたいだけなのだろう。
一心に肉を焼く俺の所に千鳥足で来ては、思い思いに絡んでくる。
「ガリウス、嫁さんになるような良い人はいねーのか!」
「ダットんとこの娘はどうだ?」
「馬鹿おめ~ありゃあまだ3つだぞ」
「だども愛があれば歳の差なんて関係ねーべさ」
「んだな~じゃあ今度見合いさせっぺ」
――俺を犯罪者にする気か。
肉の焼き具合を見ながら溜息を堪え相槌を打ってやる。
それだけでケタケタと陽気に去って行くんだから容易いものだ。
狩猟した猪のお裾分けで提案した焼肉パーティは宴会の様相を呈してきた。
まあ無理もあるまい。
ほとんど娯楽がない辺境の開拓村である。
こういう時でも無ければ羽目を外せないというものだ。
俺に便乗してスコットも貯蔵用のエールを倉庫から出してきた。
開拓で溜まっていく目に視えない不満やストレス。
その適度なガス抜きも彼の仕事の内、という訳だ。
「おっちゃん、つぎつぎ!」
「おしゃべりしてないで、はやくはやく~」
「ああ、分かってるって。
ほら焼けたぞ。
熱いからよ~く冷まして食えよ?」
「わ~い」
考える余裕すらなく、俺の前に陣取った子供たちに急かされる。
大人組と違い酒を飲まないこいつらは肉を食う事に貪欲だ。
辛みのある香辛料だけでは味気ないのでリンゴと蜂蜜をベースにしたタレも用意したのだが……これが大層お気に召したらしい。
焼き上がった端から切り分け、どんどん皿に乗せてやる。
一生懸命、ふーふーと息を吹く姿が愛らしい。
口元を汚した子供たちが満足そうな顔を浮かべるのを見て俺の顔も綻ぶ。
ここは世界一幸せな所だな、と思った。
「どこへ行くんだ、ガリウス?」
宴もたけなわの頃――
こっそり広場を抜けようとした俺の背にスコットが声を掛けてきた。
さすが開拓村をまとめる責任者……鋭い。
俺は手にした鉄串などを見せ顎で家を示す。
「皆が派手に食べるんでな……
何かツマミでも作ろうかと思ってね」
「そうか、ならいいんだが」
「どうかしたか?」
「いや何だかお前さんが消えてしまいそうでな……
つい、声を掛けたんだ」
「おいおい、穏やかじゃないな。
こう見えても俺は村に溶け込めるよう努力してきたつもりだが」
「それは十分すぎるほど理解してるよ。
今日だってせっかくの獲物を振る舞ってくれてるしな。
ガリウスはもうこの村になくてはならない存在だろう」
「そ、そうか。
そこまで褒められると照れるな」
「ただ――」
「? ただ?」
「あのお嬢ちゃんたちの事――未だ気に掛けてるんだろう?」
「それは……」
「付き合いは短いが……
分かるよ、お前さんの性分は。
だからこそ余計な口を出すべきじゃない事も。
しかし――これだけは覚えておいてくれ。
お前の帰る場所はちゃんとある。
だから……きちんと戻って来いよ、ガリウス。
お前は間違いなくこの村の一員だ」
「スコット……」
彼がどこまで把握していたかは知らない。
ただ俺はスコットの真摯な眼差しに正面から応じると、深々と一礼し家へ向かい踵を返す……すべての憂いを断ち切るかのように。
日刊ランキングコメディー部門連続1位! 総合139位!
もうね……ドッキリでも嬉しいですよ、はい。
次回から三人娘の個別パートに入り物語が大きく動きます。
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