おっさん、祈り捧げる
「ありがとうございました!」
本日最後のお客様のお帰りに合わせて全員で頭を下げる。
唐揚げの屋台を立ち上げ早一週間。
自分達でも怖いくらいの盛況振りで、連日行列が途絶えることは無かった。
ただこれが一時的なものとは十分理解している。
白米と唐揚げは最高の組み合わせとはいえ、物珍しさが勝って偶々人気が出ているだけだ。
あと数日の内に飽きが来てしまい、全ては日常に回帰されるだろう。
分かりやすく言えばお祭りと一緒で、非日常的な味だから人気だった。
これが生活に浸透しいつでも買えるとなれば、そこまでは求められない。
なので――残念ながら唐揚げ屋は今日で最後だ。
屋台に関するノウハウのあれこれは酒場の店主に受け継がせてもらった。
店主も大喜びで「酒場の売りが増えるわい!」と喜んでたし、俺達も屋台の営業許可に対する借りが返せてウインウインだ。
今後は酒場にリピーターが来るとなれば、唐揚げという禁断の果実を手にした住民たちを放置する事になる罪悪感も幾分か薄れるしな。
そして何より一番喜ぶべきは……
「ぱんぱかぱ~ん♪
皆さん、目標達成おめでとう~~イエーイ!
「まさかこんなに早く貯まるとは……驚き」
「まったく驚異的でござるな」
「わん!」
「本当に凄まじいとしか言い様がありませんわ。
さすがはガリウス様。
開拓村での何でも屋といい、ここでの唐揚げ屋といい商才もおありなのですね」
「いや、これも全ては一緒に働いてくれた皆のお陰だ。
愛想のいいお前達がいなかったら、ここまでの盛況ぶりはなかっただろう」
各々の手にチャージされた奉納点を見ながら俺達は各々感嘆を漏らす。
そう、シアの言う通りついに目標点を超えた。
どころかオーバーし余剰分が出てるくらいである。
これを対価に龍神様に何か他の事を願い出ても良いかもしれない。
酒場の主人の話では都市に限らず地下ダンジョン【龍の宮】における、様々な有益な権利や情報と交換する事も可能らしい。
「善は急げ、だ。
撤収作業が終わったら龍神様の像まで行ってみよう」
「「「「はい(わん)!」」」」
俺達は数日世話になった屋台を片付け始める。
とはいっても俺の【木工】スキルを使って作った嵌め込み型の簡易屋台だ。
雨露を凌ぐ必要がないこの中では屋根すらいらない。
パーツを外しロープで一纏めにしてしまえばもう終了だ。
あとは酒場から借りた包丁や揚げ物用に使った大鍋と一緒に渡せばいい。
ここは属性の都合上モラルがしっかりしてるので盗難の心配もないしな。
顔を見合わせ問題が無い事を確認した俺達は早速中央広場へ足を運ぶ。
そこには大理石の様な素材で造られた巨大な龍神の像があった。
それは一般的に描かれる蜥蜴に羽根が生えたドラゴンではない。
蛇の様に長い胴体が複雑に渦巻いた【龍】の異形である。
見る者に畏敬と畏怖を齎すその像は、まさに世界を支えるという名に相応しい。
さあ、委縮してばかりでも始まらない。
龍神様に願いを申し出てみよう。
「え~と、確か……
まずはどんな様式でもいいから祈りを捧げるんだったな」
「ええ。
ここの都市に住む様々な種族の方には、それぞれ色々な祭神がいます。
龍神様は心広き御方。
祭るべき神をないがしろにするのは甚だしいと仰ったみたいですわ。
なので姿格好はどうでも良いので、まずは祈りを捧げる事が重要みたいです」
「ん。そして次に誓約を述べる。
これは奉納点を以て何かしらの恩寵を賜る為の宣言でもある」
「定型の文句があったでござるな。確か――」
「龍神よ、我が願いを聞き届け給え! だよね」
祈るという概念がよく分からないルゥを抱き抱えたシアが笑顔で叫ぶ。
次の瞬間、俺達を包み込む圧倒的な魔力で構築された積層型立体魔法陣。
抵抗すら許さず――俺達は瞬く間に強制転移させられるのだった。




