表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

163/405

おっさん、乗り越える

 

「ふむ……ここでござるな」


 パーティを先導していたカエデがある建物の前で足を止める。

 パッと見は他の遺跡群と変わりのない建物。

 しかし地下へ続く階段からはどこか淀んだ空気が漂う。

 ああ、間違いない。

 慣れ親しんだこの雰囲気は他に喩えがない特有のものだ。

 さすがはカエデ、都市探索の専門家だけの事はある。

 初見である街並からおおよその構造を見抜き的確に案内をしてくれるとは。

 残念ながら俺達だけではここまで速やかに目的を遂げれなかっただろう。

 探索を開始してから10分、未だ誰にも遭遇はしていない。

 遠くから遠巻きに探られているのは把握してるのだが。

 未知の存在故、きっと警戒されているのだろう。

 だが――この地下からは何者かが蠢く気配がする。

 敵意こそないが感知スキルに反応もしている。

 何より鼻をくすぐる臭気は間違いない。

 俺達は顔を見合わせると頷き合う。

 ここから先は単純暴力が求められる事がある。

 俺はカエデに代わり先頭に出ると一党を率いて階段を下りる。

 そこには頑丈な樫の扉があった。

 深く息を吸い込み呼吸を整えると、俺は取っ手に手を掛け勢い良く解き放つ。 


「……いらっしゃい」


 扉を開けるとそこは酒場だった。

 薄暗い粗末なランプの明かりに照らされた店内。

 立て付けの悪そうなテーブルにバランスの崩れた椅子。

 空気中を麻薬にも似た煙が漂い、アルコールの匂いが充満している。

 そんな中でくつろいでいるのは様々な種族の者達だ。

 リザードマン、サハギン、バードマン、エルフ、コボルト、ラミア等々。

 人種の坩堝といっても良い店内。

 だが――共通項がひとつ。

 それはどいつもこいつも腕が立つということ。

 思い思いの武装をしている者達からは隙らしい隙が窺えない。

 今は新参者である俺達を値踏みするように無言で注視している。

 まあ、こうしていても仕方ない。


「いくぞ」


 若干気後れしているシア達に声を掛け奥のカウンターへ進む。

 そこにいたのは口を覆い隠す白髭と深い皺が顔に刻まれた老年のドワーフだ。

 先程声を掛けてきた様子から、おそらくは店主に違いない。

 俺達はカウンター前にあるスツールに腰掛けると反応を待つ。


「注文は?」

「ああ、それなら――」

「オイオイ、雌ばかりじゃネーカ!

 ママのおっぱいが恋しいなら、ミルクでも飲んでロよ!」


 店主に答えるより早く、背後から訛りの酷い共通語の野次が飛ぶ。

 そんな馬鹿を相手にする事なく俺は注文を続ける。


「俺以外にミルクを」

「テメエ……」


 リクエストに応じたというのに怒気を孕んだ呻きが聞こえた。

 別に煽った訳じゃないんだがな。

 この手の輩はどこにでもいるが……まったく面倒臭いと思う。

 実力差を見抜けない癖に噛み付いてくるのだけは一人前。

 しかも何をしても逆恨みに感じるという。

 だからこそタチが悪い。

 けど力を示せば驚くほど従順になる傾向があるのも確かだ。

 ちょっとばかり頑張ってみるか。

 ジョッキで出されたミルクを美味しそうに飲む一党を余所に店主が訊いてくる。


「それで、アンタは何を?」

「火酒……スピリチュアはあるか?

 純度の高いものがいい」

「あるにはあるが……

 人族のアンタが本当に飲めるのかい?

 こいつはワシらの仲間でも一口でノックアウトするほどじゃぞ?」

「任せてくれ。

 こう見えて酒には強い」

「警告はしたからな」

 

 ドワーフの店主はそう前置きすると、カウンター奥の樽から秘蔵っぽい酒を並々ジョッキへ注ぐとカウンターに荒っぽく叩き付ける。

 俺はジョッキを手に取ると一気に呷っていく。


「あ、馬鹿――」

「マジかよ!」


 事態を静観していた店内の面々から悲鳴にも似た歓声が上がる。

 このドワーフ族秘蔵の火酒スピリチュアは別名【龍殺し】とも呼ばれる。

 つまりドラゴンでも酩酊するレベルの強さを持つ酒なのだ。

 ドワーフのみならず冒険者界隈ではこれが飲めてこそ一流という風潮がある。

 俺がカエデに探して貰ったのは、この遺跡群に住む者達が集う酒場。

 それも冒険者稼業を行うような荒くれ者が集う、ガラの悪い酒場である。

 だからこそ初見が大事なのだ。

 初動を誤ると後々まで舐められ探索に支障を為す。

 ここで実力の一片を見せつけ、イニシアティブを取りに行く!

 喉を焼く激痛を強引に押し殺し一気に飲み続ける。

 師匠に鍛えられた俺でもこの純度はさすがにキツイ。

 けど――店内の奴等は勿論、シア達の前で情けない姿は見せられない。

 それはくだらない男の矜持かもしれない。

 自己満足とは理解している。

 ただ惚れた女達の前ではカッコよくありたいのだ。

 どうにか火酒を飲み干すとジョッキをテーブルに叩き付け返す。 


「――どうだ?」

「……見事だ。

 この酒場でワシに続いて二人目の火酒制覇者じゃな。

 皆の者、しかと見たな!

 こいつは間違いなく漢を示した。

 今日からこいつはワシの客でもある!

 ヘタな横槍はゆるさんぞ!」

「おいおい……」

「やりやがった……」

 

 店主の宣言に呆然と呟き合う声――

 やがてそれは熱狂の渦となり大歓声となる。

 親し気に駆け寄ってきて俺に話し掛けてくる店内の者達。

 仲間内に入ってさえしまえば陽気で気の良い奴等なのかもしれない。

 ふらつきそうになる足を懸命に堪えてその相手をしながら、俺はどうにか上手く事態を乗り切ったと確証を得るのだった。

 

 

 

 




お気に入り登録、評価ありがとうございます。

すみません、前半部分丸々抜けてたので再更新しました。

酒場の途中から張り付けてたので少し意味不明な内容になってましたね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 安定した酒豪ぶりですね。 くれぐれも調子に乗らないように……
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ