おっさん、紹介される
「おいでやす~♪
静寂の祠【龍口】へようこそ!」
龍口から内部に侵入した俺達。
海面から完全に隔離された場所へと到着後、台座から降り立った俺達を上機嫌で迎えてくれたのはレティスと良く似通った巫女装束の女性だった。
ブンブンと手を振り、放っておけば今にも駆け寄りハグしそうな勢いである。
屈託のないその笑顔と歓迎ぶりに思わず当惑してしまう。
ここは危険度満載のS級ダンジョンじゃなかったのか?
そんな俺達の後ろで顔を赤らめていたレティスだったが、意を決したように女性に駆け寄り猛然と抗議し始める。
「もう~姉さんってば!
それ、恥ずかしいから止めてって言ってるでしょう!」
「そないなこと言われても。
ウチ、これをしないとテンションが上がらんのやわ。
やから怒らんといて」
「巫女に求められてのはノリの良さじゃないの!」
「え、そうなん?」
「そうです!」
「でもでも……
やっぱアゲアゲにしとかんと、がっかりせーへん?
レティスちゃんみたいに厳か~な感じは古くない?」
「新旧は関係ありません!
それに巫女の本業は接客でもありません!」
「ま、マジかぁ……
客人を持て成すのも大事な仕事やと思うてたんやけど……」
説き伏せられ意気消沈する女性。
呆然と成り行きを見守っていた俺達の視線に気付いたのだろう。
よっこらしょ、と婆臭い台詞と共に身体を起こし一礼する。
「ほな、自己紹介しとこうか。
ウチの名はレファス。
そこにいるレティスちゃんのおねーちゃんで竜神様の巫女をやっとる。
アンタらは伯爵様の言っておった、勇者様一行やろ?
これからも色々世話になるんで、よしなに」
先程のハイテンションぶりはどこへ行ったのか。
楚々たる振る舞いでしっかりした紹介を頂いた。
こうしてると流石に姉妹なだけあってよく似通っている。
丁寧なその挨拶に俺達も慌てて自己紹介を兼ねた返事を返す。
「ああ、よろしく。
俺の名はガリウス、戦士だ」
「ボクはシア。
一応、勇者です。この子はルゥ」
「わん!」
「拙者はカエデでござる。
故あってガリウス様らの手伝いをさせて頂いております」
「ん。賢者のミザリア。
ここはこの台座といい、未知なる神秘が多い。
後で質問をさせてほしい」
「それは一段落ついてからになさいませ。
ああ、わたくしは教団の聖女フィーナです。
よろしくお願い致しますね」
「はあ~随分個性的なパーティやね。
昨晩の娘達とはまた違った感じ」
「ん?
それはもしかしてミズキ達の事か?」
「ありゃ、戦士さん彼女達に面識あるん?
――せや、昨晩からダンジョンにアタックしてるんよ。
長丁場になるとは言っておったけど……
まあ、一朝一夕で片付かないのが難度の高い証やね」
「そうか、ミズキ達でも手こずる程か……」
彼女と一党の実力の高さは折り紙付きだ。
そんな彼女達が苦戦するダンジョンというのは興味深い。
「そういえば――レファスさん」
「なんや、勇者ちゃん?」
「このダンジョンてどういうタイプのダンジョンなんですか?
迷宮型? フィールド型?
レティスちゃんにも訊いたけど――秘密ですって言われて」
「ああ、そりゃ~申し訳なかったね。
でも一応神殿の規約なんよ、悪気はないんやで。
機密情報の漏洩対策、ってやつ。
まあアンタらが喋ったら意味ないんやけど。
それにきっと――話す前にこれを見せたかったからやろうな」
「見せたい?」
「せや、ついておいで~」
シアの質問に手招きしながら先導するレファス。
不可解な行動に首をかしげながらついていく一同。
壁際に設けられた大扉の前でレファスが意地の悪い笑みを浮かべてる。
「ほな、ご開帳~。
ここから先が真の意味での海底ダンジョン――
今は喪われた龍神族の遺跡探索……シティアドベンチャーってやつや」
レファスにより解き放たれた大扉から見える光景に驚き、立ち竦む。
高台に設けられた神殿から見下ろす風景。
そこは数多の白亜の建物が幾何学模様を為すほど複雑に入り組んだ一つの都市を形成していたのだった。




