おっさん、群がられる
「ふう~食べた食べた。
コース料理は作法が苦手で久々だったけど……
ウォルターさんのなら毎日いけそう」
「ん。確かに同意。
面倒を少なくする工夫が嬉しい。
あと満腹、限界」
「わん!」
「本当に美味でしたもの。
無理もありませんわ」
「同感です。
忍ぶ者としては恥ずべき事ですが……拙者、もう動けませぬ」
「量も量だが……確かに味も素晴らしかったな。
高級だが最上級のものをこれ見よがしに使っている訳じゃない。
しかし調理過程の端々に食べる者への気遣いが感じられた。
金だけじゃなく食材一つ一つへ施す手間の掛け方。
こういうのを本当の意味での御馳走と言うのだろう」
広いロビーで思い思いに寛ぎながら、俺達は食後の余韻に浸っている。
皆の表情は揃ってご満悦顔だ。
かくいう俺もその一人である。
あれほどの内容のメニューを食べた者としては当然であろう。
ロッキングチェアの心地良い振動に身を委ねながら先程までの事を思い返す。
ミストサウナでの一連の騒動の後――
何とか誤解を解いた俺はシア達と共にウォルターの勧めもあり夕食を摂りに食堂へ集合した。
そんな俺達を待ち受けていたのがコース料理だったのである。
庶民が使う大衆食堂では注文した料理が大皿にドン! とした感じで盛られ小皿に取り分けるのが一般である。高級志向のある店の様に前菜・魚・肉と個別に順番で出されるコースメニューはかなり例外だ。
食にうるさい俺の影響もありシア達と一緒に幾度か足を運んだ事はあるものの、様々な作法や礼儀が馴染まず、あいつらの評価はいまいちだった。
気軽に騒げる店の方が性に合うらしい。
その気持ちはよく分かる。
いつか役に立つからとテーブルマナーの基本は師匠に叩き込まれているものの、俺もそういった堅苦しい店は嫌いではないが苦手だからだ。
しかしウォルターはそんな俺達をいい意味で裏切ってくれた。
メイドのクレアさんと一緒に自ら腕を振るってくれた料理の数々。
それらは最初から上手に切り分けられており、フォーク一本で食べれる様に配慮がされていたのだ。
こういった気遣いは本当に嬉しい。
出されるメニューも実に豊富で、見る者を飽きさせない内容だった。
よく出汁を取ったウミガメの濃厚コンソメスープ。
新鮮な海草のシーザーサラダ。
子羊のレバーが詰まったマカロニのソテー。
旬の茸とアンチョビとチーズが添えられたアンティパスト。
じっくり汗を掻かせた白身魚のムニエル。
熟成肉を丁寧に赤ワインで煮込んで焼いた仔牛のステーキ。
最後はフルーツと生クリームをふんだんに使ったケーキだ。
次々と並べられていく皿にあいつらの表情も輝きまくっていたな。
ウォルターとクレアさんのお陰で一皿を終えて次の皿を待ち焦がれるという贅沢な時間の在り方を皆が覚えたのが一番かもしれない。
生き急ぐだけでなく、こういったゆとりも人生には大事だからな。
「食後の飲み物でございます」
そんな事を考えていると、メイドのクレアさんが人数分のコーヒーとジュース、紅茶を持ってきてくれた。
残念ながらコーヒー党は俺だけなので有難く受け取る。
夜闇の様に黒く地獄のマグマの様に熱い。
さすが一流、分かってらっしゃる。
豊潤な香りを楽しみながら琥珀色したそれを啜る。
子供舌なシア達はそんな俺の様子を「うげ~」とした顔で見ながら各々が頼んだ砂糖入り紅茶やジュースを飲んでいる。
いいさ、こういうのは男の嗜みだ。
俺も最初は苦いだけで何が美味いのか正直分からなかったが師匠を真似して飲み続ける内にいつの間にか美味くなっていった。
今では機会さえあればこうやって頼むようになったくらいだ。
きっと酒と同じでいつの間にか馴染むものなのだろう。
「ありがとう、クレアさん。
程よい濃さと熱さで凄く美味い」
「伯爵様と同じ仕様ですが、お気に召して頂けて幸いです。
ガリウス様には今後も同じ淹れ方でお出しします」
「そいつは嬉しいな。
淹れる人が上手だと味が全然違う」
「いえいえ」
しきりに恐縮するクレアさんに改めて礼を述べる。
クレアさんは40前後の上品な顔立ちの別荘専属メイドだ。
控えめな性格で別荘に着いてから色々世話になっており感謝しかない。
結婚をしており二児の母で、子供が自立してからは住み込みらしい。
最初にそんな事を説明されるのは珍しいがよく未婚だと勘違いされアプローチを受けるので、伯爵の命を受け男性客には随時説明をしてるとの事。
確かに未亡人っぽいというか妙な色気を持った人である。
まあガリウス様なら大丈夫でしょうけど、と苦笑されたが。
傍から見ればやっぱりハーレムっぽく見えるのかね。
実情の力関係は俺が最底辺なのだがな。
「そういえばガリウス様、頼まれていた手紙ですが」
「ああ、例の」
「はい。先程速達で届きました。
こちらがその手紙になります。
どうぞご確認下さい」
「助かります」
クレアさんが丁重に差し出した手紙を受け取る。
目聡く見咎め俺の周囲に群がってくる四人と一匹。
「おっさんおっさん、何それ!?」
「ん。詮索」
「誰からの手紙ですの?」
「罠や毒物は見受けられませぬ」
「わんわん!」
「まあ待てって。
こいつはな、冒険者ギルドに頼んでいたものだ」
「ギルドに?」
「そうだ。
ここに来る前にギルドで測定して来ただろう?
アレの結果……最新の俺達のレベルとステータス、スキルが記載されてる」
「ええええええええええええ!」
「興味深い」
「それは是非とも拝見したいですわ」
「ほらほら、待て。
今開けるからな……っと」
冒険者証でも同様の事は出来るが、表示範囲など様々な制約はある。
何よりクエストクリアによる上昇値はギルドで更新しないと意味がない。
俺は収納スキルで取り出したペーパーナイフで手紙を切り裂く。
そして個人ごとに記載されたその中身をテーブルへと広げ開示するのだった。
一度半分まで書いたのにPCがフリーズして全部書き直しに……
しかもこういう時に限って筆が乗ってたという。
マメなセーブは必要ですね、はい(涙)
次回は皆大好きステータス開示編になります。




